第12話 兵力

「お待たせしました。状況を教えてください」


 村の東部にある城壁に来たテオドルフは、城壁の上に登り、そこを担当していた兵士に現在の状況を尋ねる。

 兵士と言ってももとはただの村人であるが、ちゃんとした鎧と槍を装備していること、そしてレイラのスパルタ特訓を受けたことで立派な兵士の姿に見えた。

 この村で兵士を志願した者は、みなレイラのスパルタ特訓を受けている。強さはまだまだではあるが、強い忠誠心と命令を遂行する能力は養われていた。


「モンスターは地竜で、数は十頭程度になります。現在この村めがけて走っており、およそ二十分後には着くと思われます」

「分かりました。ありがとうございます」


 言ってテオドルフは双眼鏡を受け取り、向かってくるモンスターを確認する。

 茶褐色の鱗に、太い四本の足。頭には岩を切り出したような立派な角が生えている。

 テオドルフはそのモンスターを本で読んだことがあった。


「あれは地竜ロックホーンですね。あの数で城壁に衝突されたら危険です。対処しましょう」

「かしこまりました。マニュアルパターンBでよろしいでしょうか」

「はい、大丈夫です。全兵士に通達してください」

「は! かしこまりました!」


 兵士はそう大きな声で言うと、他の兵士に命令を伝えに行く。

 ふう、と一息ついたテオドルフに、ついてきていたローランが声をかける。


「テオドルフ様、今地竜と聞こえましたが……」

「はい。地竜がこちらに向かってきているみたいですね」

「な、なんですって!?」


 驚いたように叫ぶローラン。

 その声を近くで聞いた後輩のアンは、うるさそうに犬の耳を押さえる。


「先輩? どうしたんですかそんなに驚いて」

「あなたが呑気過ぎるのですよ! いいですか、地竜というのは翼を持たない竜種です。飛行能力こそありませんが、その分硬く力も強い竜です」

「それくらいは知ってますよ。でも地竜って穏やかな生き物ですよね? 荷車を引いてくれる竜車もありますし」


 アンがそう言うと、ローランは「はあ……」と頭を押さえて首をふる。

 呆れたようなその仕草に、アンはぷーっと頬を膨らませて不満をあらわにする。


「なんですかその反応は!」

「いいですかアン。あれは人間と仕事をするよう品種改良されたものです。野生の地竜とは気性の荒さも力の強さも違います」

「あ……」


 人間と仕事をする地竜は、卵の頃から世話をされ、人に慣らされている。

 それに最悪暴れても人の手で倒すことのできる、弱めの品種だ。しかし野生はそうではない。


 自分の考えの浅さにアンは恥ずかしそうにする。


「特にロックホーンは一度暴れると手がつけられません。それにここに出たということは、瘴気に侵されている可能性も高い。確かにこの城壁は素晴らしいですが……人手が少なすぎます。避難したほうがいいでしょう」


 ここ北の大地は、瘴気に侵されている。

それの影響を受けたモンスターは凶暴化し、力も強くなる。その様な化物が十頭も来れば防衛施設が整った街であっても撃退は困難だ。


 この村の設備は整っているが、人の数は圧倒的に少ない。人手が足りなければ設備を充分に動かすことはできない。

 ローランはその問題点を指摘したのだ。


「テオドルフ様。私は避難を進言します。貴方の力があれば、村を再興させるのも容易いはず。ここはどうか賢明な判断を……」

「この村の人たちは、今までずっと逃げてきました」


 ローランの言葉を遮るように、テオドルフは喋りだす。


「故郷から逃げ、その先でゴブリンに襲われ、やっとここに着いたんです。彼らに二度故郷を捨てさせるわけにはいきません」

「し、しかし。死んでしまっては元も子も……」

「安心してください。死なせはしませんよ」


 テオドルフは城壁の下に視線を送る。

 つられてローランもそちらを見ると……そこには成人男性ほどの大きさのゴーレム・・・・が三十体近く集まっていた。その全員が兵士と同じく鎧を身にまとい、兵士と共に作業に準じている。


「わ! ゴーレムがいっぱいいます! 凄いですね先輩!」

「な、あ……っ!?」


 はしゃぐアンと、口を大きく開けて絶句するローラン。

 多くの国と都市を巡ってきた経験のある彼だが、この数のゴーレムがトラブルなく働いているとこなど、見たことがなかった。

 ゴーレムは一体で兵士十人分以上の活躍が見込める。それがこの数いれば、その戦闘力は計り知れない。


「人が増えてから、この村はモンスターがやってくるようになりました。人が多くなったからモンスターたちにこの村の存在が気づかれてしまったんでしょう。確かにこの場所を離れるという選択肢もありますが……それはしません。僕はこの地を安心して暮らせるような場所にするまで戦い続けます」


 テオドルフは覚悟の決まった表情を浮かべながら、そう言い放つのだった。

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