第8話 名前をつけよう!

 その後僕は残り8頭のフェンリル全ての名前を考えた。


 一番体の大きな長女、ヴェンティ。

 立派な牙を持つ長男、バイト。

 鋭い牙を持つ次男、クロウ。

 身軽で足が速い次女、プリン。

 一番もふもふしている三男、カール。

 甘いものが大好きな甘え上手の三女、ベリー。

 好奇心旺盛な四男、ルーク。

 落ち着いている優等生な五男、ロック。


 そして引っ込み思案だけど実は甘えん坊な末っ子のシルク。

 これで全員名前をつけ終わった。


 ふう……凄いプレッシャーだったけど終わってホッとした。

 フェンリルたちは僕の付けた名前に喜んでくれている。その姿を見ると嬉しい。


「みんなの名前を村の人たちにも伝えないとね。どうしよっかな」


 フェンリルたちはそれぞれ体に特徴があって見分けはつく。だけど別々で行動していたらどの子が誰だか分からなくなる人はいるだろう。

 なにか見分けがつくようにできればいいけど。


「うーん、首輪と名札をつけると分かりやすいかな。でも嫌がるかもしれないよね」

「いや、別に気にせんぞ」


 僕のひとり言に答えたのはルーナさんだった。

 この人は僕が名前をつけている様子を楽しそうにずっと観察していた。


「お主が作った物であれば、むしろ喜ぶであろう。縄で繋ぎでもしないなら首輪くらい構わん」

「そうですか? ルーナさんはこう言ってるけど、みんなは本当に欲しい?」


 フェンリルたちに尋ねると、彼らは元気よく「「「「わんっ!!」」」」と答える。

 キーンとする耳を抑えながら、僕は笑ってしまう。


「ふふっ、分かった。じゃあ作るね」


 革と鉄を素材として首輪。少量の木を素材として名札を作る。

 名札にはもちろんそれぞれの名前を彫ってある。これはクラフトする時に念じたら自動で彫ってもらうことができた。自動製作オートクラフトは結構融通が利く能力なのだ。


ちなみに名札の裏にはこっそりその子が好きな食べ物を彫っておいて上げた。

 こうしておけば村の人たちももっとフェンリルたちと仲良くなれるだろう。


「これでよし、と。どう? 苦しくない?」

「わうっ!」


 全員に首輪をつけると、フェンリルたちは嬉しそうに吠える。

 そしてその大きくてもふもふの体をゴシゴシと僕に擦り付けてくる。彼らなりの愛情表現みたいだ。フェンリルの毛は温かくて肌触りが良くて気持ちいい。この毛で服が作れたらいいのにと思ってしまう。


「みんな、うぷ、もうだいじょ」

「なにをやっとるんだ。ほれ、こっちに来い」


 フェンリルたちの毛に溺れていると、見かねたルーナさんが助けてくれる。

 1頭ならまだしも、9頭にじゃれつかれると毛の中に完全に埋もれてしまう。気持ちがいいからついつい逃げ遅れてしまうのがやばいね。気をつけないとフェンリルで溺死してしまうかもしれない。


「感謝するぞテオドルフ。こんなに楽しそうなこの子たちを見るのは久しぶりだ」

「いえ、僕の方こそありがとうございます。シルクたちのおかげで村はもっと明るくなりますよ」


 そう素直に答えると、ルーナさんは「ところで」と言って想像もしていなかったことを言ってくる。


「我の分の首輪はないのか? 仲間はずれは寂しいな」

「ええ!? いや、ルーナさんは人の姿をしているじゃないですか!」


 ルーナさんは基本人の姿で暮らしている。

 首輪なんてつけたら村の人たちにどう思われるか、考えるだけで恐ろしい。


「他の者の目など気にせんでよい。ほれ、つけてよいぞ」


 そう言ってルーナさんはかがんで首を近づけてくる。

 白い肌がまぶしくてドキドキする。


「ちゃんと我が『誰のもの』か周りの者に知らせるいいチャンスだ。名札に『テオドルフのもの』と彫ってもよいぞ」

「そ、そそそんなことできませんっ!」


 そう言って僕は逃げ出す。

 ルーナさんには翻弄されっぱなしだ。からかっているだけで本気じゃないだろうし、本当に困った人だ。

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