第11話 演説
「テオさんが領主!? どういうことだ……」
「おいおいフォルレアンって王族の名前だぞ?」
「確かに気品があるとは思ったけど、まさか王族とは……」
「俺ため口で話してたんだけど。もしかして極刑?」
僕の素性を知った村の人たちは不安そうに話す。お祭りムードはすっかり消え失せ緊張感が場を包んでいる。
うーん、どうしよう。
レイラのおかげでカミングアウトする手間は省けたけど、なにから説明しよう。
「……わしが説明しよう」
悩んでいると、村長のガラドさんが前に出てくる。
ガラドさんの言葉なら村の人たちもちゃんと聞いてくれるはず。僕は「よろしいか?」と目配せしてくるガラドさんに「お願いします」と答える。
「では伝えよう。テオドルフ様のことと、なぜそれを黙っていたのかを」
ガラドさんは僕が王子で、北の大地の領主になったこと。領主としてそこに住む人を守るため戦ったこと。そして身分を知られたら戦いに支障が出る可能性を考慮して、身分を隠していたことを説明してくれた。
その説明を聞き終える頃には、ほとんどの人が落ち着きを取り戻していた。しかしそれでもまだ納得しきれない人はいて。
「話は分かったが……本当か? 悪いが領主が領民のために体を張るなんて信じられない。なにか裏があるんじゃないか?」
村人の一人が、申し訳無さそうな顔をしながらそう発言する。
この村の人たちはヴィットア領の領主のせいで苦しい生活を強いられて、そのせいで村を捨ててこの森に逃げ込んできた。領主という存在に懐疑的なのは当然だ。
どう言えば裏なんてないと納得できるだろう。
早く納得してもらわないと後ろで「テオ様を疑うとは度し難い……三枚に下ろして差し上げましょうか……」と小声で物騒なことを言っているレイラが行動に出てしまう。
だけど僕が行動するより早く、村人の一人が声を上げる。
「バカ野郎! なんでテオドルフ様を信じられないんだ! あの人は俺たちと肩を並べて戦ってくれたじゃねえか! あれが嘘だって言いてえのか!」
「いや、そういうわけじゃ……」
あの人は村に最初にやってきた時、僕に槍を向けてきた人だ。
確か名前はジャックさん。喧嘩っ早いところがあるけど、情に厚いいい人だ。
「それだけじゃねえ! テオドルフ様は槍を向けた俺にも優しく接してくださった。戦の役に立たない者も全員怪我を癒やしてくださったし、不安そうな人の相談にも乗ってくださっていた! それでもまだ納得できねえってなら……俺が許さねえ!」
ジャックさんがそう言うと、次にアイシャさんが口を開く。
「わ、私もテオくんを信じます! 彼は嘘をつくような人じゃありません!」
体を震わせながらそう言うと、他の人たちも「そ、そうだ!」「俺も信じる!」と声を上げる。
すると異議を唱えた人は「わ、わかったよ。俺が悪かった。不安になっただけなんだ」と納得してくれた。
ふう、どうなるかヒヤヒヤしたけど、なんとかなって良かった。
場が静まったことを確認したガラドさんは「こほん」と咳払いすると再び口を開く。
「……と、わしからはこんなところじゃろうか。テオドルフ様からはなにか言いたいことはございますでしょうか」
ガラドさんからの問いかけに僕はコクリと頷く。
僕は村の人たち全員が見えるように、ゴームの手のひらに乗せてもらって手を腰くらいまで上げてもらう。結構高めで怖い。
村の人たちの視線が一斉に僕に集まって緊張するけど、僕は努めて堂々と、ここに来た本当の理由を話す。
「聞いての通り、僕はここ北の大地の領主になりました。見ていただいた通り、僕は特殊な力を授かりました。土地を開拓するのにこれ以上ないほど便利な力です。しかし当然のことながら僕一人でこの広大な土地を開拓することはできません」
言葉を飾らず、思っていることありのままを話す。それが一番よく伝わるはずだ。
「だから僕は共にこの地を開拓してくれる『領民』を探しにこの森にやって来ました。みなさんにはぜひ
そう言って頭を下げる。
すると長い沈黙が場を支配する。ど、どうしよう。なにかマズいこと言っちゃったかな……と不安になっていると、パチパチと誰かが手を叩く音がする。
その音は次第に増えていって、最終的に割れんばかりの拍手が僕に降り注いできた。
「こちらこそよろしくお願いしますテオドルフ様!」
「あんたにならどこまでもついていくぞ!」
「新しい領主様の誕生だ! 飲むぞ!」
「テオドルフ様最高!」
みんな笑顔で僕のことを受け入れてくれた。
よかった。成功したんだ。ほっとして足に入っていた力が抜け、後ろに倒れそうになる。するとそれをレイラが優しく受け止めてくれる。
「お疲れ様でしたテオ様。とても素敵なお言葉でした」
「そ、そうかな」
「ええ。お一人でこれだけの人の心をつかむとは見事です。本当に立派に成長なさいましたね」
レイラは優しい目で僕のことをじっと見つめてくる。その青く透き通った綺麗な目で見られると、なんだか恥ずかしくて僕は目をそらしてしまう。
「……ですが、お留守番を勝手にやめたことは別問題です」
「え」
「罰として……そうですね。一ヶ月は一緒にお風呂に入っていただきます。いいですね?」
「なんでそうなるの!? 勘弁してよ!」
「これだけは譲れません。すみずみまで洗って差し上げますね……♡」
「そんなあ!」
こうしてモア村避難地での夜は、騒がしく更けていくのだった。
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