第9話 避難地防衛戦

「行けッ! 蹴散らせッ!」


 ゴブリンキングはの命を受け、ゴブリンたちは一斉に避難地になだれ込む。

 木製の堅牢な柵には、外向きに木の杭が出ている。一気に突っ込めば刺さってしまう、ゴブリンたちは気をつけながら柵をどうにかしようとする。


『ギギ、カタイ……!』


 テオの作り出した防護柵は、その名の通り堅牢であった。

 ゴブリンたちは柵を揺らしたりナイフで切りつけたりするが、ビクともしない。壊すのは不可能と判断したゴブリンたちは、小さな体格を活かして柵の隙間を通ろうとする。しかし、


「通すな! 押し返せ!」

「おうっ!」


 村人たちがそれを許さない。

 手にした槍を柵の隙間に差し込み、ゴブリンたちを攻撃する。

 柵の隙間を通っているゴブリンたちは、身動きが取れない。当然槍を回避することは不可能であり次々とその攻撃の前に倒れていく。


『ヒィッ!』

『ニ、ニゲロ!』


 不利を察したゴブリンたちは柵から離れ、後退する。

 しかし彼らの救いはそちらにもなかった。


「忘れたか。弱いゴブリンはいらぬ」

『アッ』


 巨大なナタが振り下ろされ、プチっという音と共に逃亡したゴブリンは地面のシミとなる。

 その攻撃を放った主であるゴブリンキングは、不機嫌そうに前線に出る。


「このような柵ごときに手間取りおって……戦いとはこうやるんだ!」


 ゴブリンキングがナタを思い切り振るうと、防護柵が一撃で消し飛ぶ。

 その余波で柵の近くにいた村人も吹き飛び軽傷する。それほどまでにゴブリンキングの攻撃は規格外であった。


「蹂躙してやるッ!」


 ゴブリンキングが避難地の中に足を踏み入れる。

 しかしそんな彼の行く手を塞ぐように大きな影が現れる。


「ゴーッ!!」


 現れたのは、テオの作り出した魔導人形ゴーレムのゴーム。

 ゴームはダッシュでゴブリンキングに近づくと、その顔面を思い切り殴り飛ばす。


「な――――ッ!?」


 反応が遅れたゴブリンキングは後方に吹き飛び、地面に背をつく。

 ゴームはその後を追い、避難地の敷地から外に出る。


 テオはゴームが稼いだ時間を使い、能力を使う。


自動製作オートクラフト、防護柵!」


 ゴブリンキングが壊した柵が、再び出現する。

 これでまたしばらく時間は稼げるだろう。しかしそれは『外』のゴブリンが入ってくるまでの時間。先程ゴブリンキングが中に入ってきた時に10体ほどのゴブリンが中に入ってきてしまっていた。


『ギギ……!』

『コロシテヤル!』


 ゴーレムは柵の外、中には普通の人間しかない。

 これなら勝てるに違いないと踏んだゴブリンたちは、醜悪な笑みを浮かべながらテオたちに近づいてくる。


 しかしテオはまだ手札を残していた。

 彼はポケットの中から小さい『石』を三個ほど取り出す。そしてそれを対象に能力を発動する。


自動製作オートクラフト猟犬ハウンドゴーレム!」


 その石を中心に土と石が組み合わさり、形をなしていく。

 それはまるで大型犬のような形となり、一人でに動き出す。

 テオが作ったのは小型のゴーレム、猟犬ハウンドゴーレムであった。

 ゴームのような大型のゴーレムより力は劣るが、その分速く、小回りが利く。


 テオが先程取り出した石は『魔石』だった。

 その魔石は最初にやって来た時に戦ったゴブリンを倒して手に入れたものであった。ゴブリンの魔石は小さく大型のゴーレムは作れなかったが、猟犬ハウンドゴーレムであれば作ることができた。


「行け! 猟犬ハウンドゴーレム!」

「バウッ!!」


 猟犬ハウンドゴーレムたちは素早くゴブリンたちに接近すると、石でできた鋭い牙と爪で襲いかかる。

 ゴブリンたちは必死に手にしたナイフで抵抗するが、猟犬ハウンドゴーレムは硬くまともに傷をつけることができない。


『ギャア!!』

『コノ、イヌガ……!』


 次々と倒れていくゴブリンたち。

 よし、これならなんとかなりそうだ。とテオが安心していると、先程作った防護柵が再び壊されてしまう。


「手間取らせやがって……」


 見れば防護柵を壊し、ゴブリンキングが避難地に入ってきていた。

 ゴームとの戦闘であちこちに傷はできているが、まだ動ける様子だ。先程まで戦っていたゴームは大勢のゴブリンによって足止めされていた。

 どうやら部下にゴームの相手を任せて、自分で人間を狩りに来たようだ。


 ゴブリンキングはテオのことを睨みつけながら近づいてくる。


「見ていたぞ。お前がこの戦を仕切っているな? あのゴーレムもお前が操っているんだろう。つまりお前さえ殺せば、この戦は俺たちの勝ちだッ!」


 ゴブリンキングは身体能力だけでなく、その頭脳もゴブリンより発達している。

 戦況を読み、相手の指揮官を探ることも可能であった。


 事実ゴーレムは主人を失うと動けなくなってしまう。ゴブリンキングの読みは当たっていた。


「死ね小僧! ぶっ殺してやる!」


 テオに接近し、ナタを振りかぶるゴブリンキング。

 頼みの綱のゴーレムも動けず、巻き添えしてしまうため大砲も使えない。


 絶体絶命の状況。しかしテオは冷静であった。


(横に逃げても後ろに逃げても避けられない。だったら……!)


 テオは状況を冷静に判断し、最善の選択肢を取る。

 それは逃げるか立ち向かってくるかしか想定していないゴブリンキングにとって、第三の選択肢であった。


自動製作オートクラフト、土ブロック×5!」


 テオは5個の土ブロックを、自分の足元・・に作り出した。

 すると当然自分の体は5ブロック分、上昇する。斜めに振り下ろされたナタは当然テオの下を通り、土ブロックを切断する。


「なにッ!?」


 突然のことに戸惑うゴブリンキング。

 一方土ブロックが壊れたことで、テオは前のめりに落下し始める。その着地地点にはゴブリンキングがいる。このままだとぶつかってしまう軌道だ。


 かなり危険だが……これは好機チャンスでもあった。

 ゴブリンキングを奇襲できる、最初で最後の好機チャンス。テオは今までずっとなにに使うか悩んでいたそれを次元収納インベントリから取り出し、能力を発動する。


自動製作オートクラフト……オリハルコンナイフ!」


 フェンリルから貰った伝説の金属『オリハルコン』。

 それと木の棒を素材とし、テオは国宝級の短刀『オリハルコンナイフ』を作り上げた。そしてそれを両手でしっかりと握り、ゴブリンキングの首に突き刺した。


「な……っ!?」

「はああああああっ!!」


 テオは咆哮しながら、ナイフを振り下ろす。

 すると一切の抵抗なく、ナイフはゴブリンキングの硬い皮膚を切り裂く。すると首からは大量の鮮血が飛び散り、さすがのゴブリンキングもその場に膝をついてしまう。


 地面にドサッと落下したテオは「……っ!」と痛そうに顔を歪めるが、すぐさま起き上がりナイフを構える。

まだ終わっていない可能性がある、そう警戒するテオだったが、彼の攻撃は勝敗を決する一撃となっていた。


「まさか……人間に、やられるとは、な……」


 そう言い残し、ゴブリンキングは地面に崩れる。

 テオは自らの手で、勝利をつかみ取ったのだった。

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