第6話 モア村避難地
『ギィ!? ナンダコイツラ!!』
『イッタンニゲルゾ! ボスニシラセルンダ!』
ゴームの活躍により数を二体にまで減らしたゴブリンは、そう言うと一目散に逃げていく。
ゴームはそれを追おうとするけど、ゴブリンたちは素早く、すぐに見失ってしまう。
「ゴー……」
「深追いしたら危ないからやめよう。村の人たちも怪我してるかもしれないしね」
僕はそう言って村の前に作っていた土壁を解除する。
基本的に建築した物は素材に戻すことができる。でも特別な物は分解できないみたいで、神の鍬は分解して
流用できるととても助かったんだけど、そんなズルはできないみたいだ。貴重な鉱石や金属の扱いは熟考しないと駄目だね。
「あの、大丈夫ですか?」
壁を解除すると、数人の村人たちが傷をおさえながらうずくまっていた。
彼らのもとに近づこうとすると、村の人たちは手に持っている簡素な槍をこっちに向けてくる。
「く、来るな! なんだお前たちは! ゴブリンの仲間か!?」
「いや、僕たちはちが……」
村の人たちはかなり混乱しているみたいだった。
突然大きなゴーレムを連れた子どもが現れたんだから無理もないか。
うーん、でもどうしよう。
なんて言ったら味方だと信じてもらえるだろう?
「待って! その子は私たちを助けてくれたの!」
突然響く大きな声。
そちらに目をやると、アイシャさんがいた。
そうだ、アイシャさんなら上手く説明してくれるはず。ここはひとまず彼女に任せることにしよう。
◇ ◇ ◇
アイシャさんの説明のおかげで、僕はなんとか信じてもらうことができた。
誤解が解けたところで、僕は怪我をしている人の治療に当たることにした。
「
ヒィル草は多めに持ってきている。
僕はケチらずにどんどん使って村の人たちを治療していく。
「す、すごい! 傷が塞がっちゃった!」
「もう痛くない!」
「ありがとうございます……あんたは恩人だ!」
村の人たちは口々に感謝の言葉を述べてくれた。
怪我人を全員治した頃には、すっかり最初向けられていた疑いの目は消えていた。
見れば僕よりも小さい子たちがゴームと遊び始めている。あっちもすっかり打ち解けたみたいだ。これなら落ち着いて話ができそうだね。
「あ、あの……」
「へ?」
おずおずと話しかけてきたのは、一人の男性。
その人は最初に僕に槍を向けてきた人だった。その人は目を伏せながら、申し訳無さそうに口を開く。
「も、申し訳ない! 知らないとは言え、ゴブリンの仲間と疑ってしまった! 本当にごめん!」
男性はその場に膝をつくと、地面にめり込む速度で頭を下げる。
ジャパニーズ土下座スタイルだ。どうやらこの世界でも土下座は一般的みたいだ。
「大丈夫ですよ、僕は気にしてませんから。突然現れた人を信じるほうが危ないです」
「うう、なんとお優しい……本当にありがとう!」
泣きながらガシッと手をつかまれて、感謝された。
周りの人たちも微笑ましいものを見るようにうんうんと頷いているし、恥ずかしい。
さて、これからどうしようかと思っていると、アイシャさんが近づいてくる。
「テオくん。村長さんが話したいって言ってるから来てくれる?」
「あ、はい。もちろんです」
ちょうど僕も話したかったところだ。
僕はアイシャさんの後をついていき、村長さんの家に向かう。
村長さんの家は他の家より大きかったけど、やはり急ごしらえのもので押したら崩れそうな外観をしていた。モンスターに襲われたらひとたまりもないだろう。
今まで無事だったのが不思議なくらいだ。
「おじゃまします」
アイシャさんは外で待つと言ったので、一人で中に入る。
すると中には立派な白いヒゲをたくわえた、おじいさんがいた。年齢は60歳くらいかな?
「よくいらっしゃった、テオ殿。アイシャから話は伺っております。どうぞおかけください」
「はい、失礼します」
促され、僕は床の上に敷かれた座布団の上に座る。あぐらをかいている村長さんと向かい合う形だ。
「わしは村長のガラド・モアルと申します。かつてはモア村の村長をしておりました。今はこの避難地の代表をしております。どうぞよろしくお願いします」
そう言ってガラドさんは深く頭を下げてくる。
僕も急いで挨拶をして、頭を下げる。
「僕はテオと申します。こちらこそよろしくお願いします」
ふう、大人の人と話すのは緊張する。いくら前世の記憶があるとはいえ、今僕の体と心は子どもに戻っている。慣れないことがあるとすぐ緊張してしまう。
でも領主になるにはこれくらい慣れないとね。
「テオ殿、まずはお礼を言わせていただきたい。この村をお救いくださり、ありがとうございます。聞けばアイシャのことも助けていただいたとか。重ねてお礼申し上げる」
村長さんはさっきよりも深く頭を下げてくる。
「い、いえ! 当然のことをしたまでですので大丈夫です!」
「なんと慈悲深い……! あなたのような方が領主でしたら、我が村も安泰だったでしょうなあ……」
ガラドさんは昔を懐かしむように言う。
ヴィットア領はそんなにひどい状態だったんだ。そこからなんとか逃げ出したと思ったら、今度はゴブリンに襲われるなんて可哀想過ぎる。なんとかしてあげたい。
「テオ殿、あなたには感謝しております。できればお礼をしたいですが……すぐにここを発った方がよろしい」
「……え?」
神妙な表情をしながら言うガラドさん。
いったいどうしたんだろう?」」
「どういうことでしょうか。確かにゴブリンは厄介な相手ですが。みんなで力を合わせれば撃退できると思います」
「ゴブリンだけでしたら……そうかもしれませぬ。しかし相手は
ガラドさんは目の中に恐怖と諦めの色を浮かべながら語る。
「アイシャが村を出た後に知ったのですが……ゴブリン共には『ボス』がおります。そやつの名前は『ゴブリンキング』。ワイバーンすら単騎で狩る、恐ろしい怪物ですじゃ。我々が力を合わせても、ゴブリンキングには無力。テオ殿はどうか奴に見つかる前にお逃げくだされ」
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