第5話 VSゴブリン
グレイウルフたちに逃げられた後も、僕たちはどんどん森の中を進んだ。
幸いアイシャさんの村の人たちはそれほど深くにはいないみたいで、(それほど)迷うことなく進むことができた。
だけどそれも全てゴームのおかげだ。
ゴームがいなかったら途中何度も休憩しないと僕がバテて倒れていたと思う。
うーん、やっぱり体力づくりは必要そうだ。もっと体を動かさないとね。
「あ、あそこ! あそこにみんながいるの!」
アイシャさんが前方を指差して叫ぶ。
そちらに目を向けると、確かに木々の間に家らしき物が見える。
木材を繋いで作った、簡素な家。
きっと村人みんなで協力して作ったんだろう。大人が押せば壊れてしまいそうだけど、雨風は防げそうだ。
そんな建物が全部で十軒くらい建っている。
「よかった。みんな無事で……あっ!」
ホッとした表情を浮かべていたアイシャさんの顔が曇る。
その視線の先をたどると、緑色の皮膚をした背の低い人間が見えた。
「ゴブリン……!」
長い耳と鼻に、緑色の皮膚。
子鬼のモンスター、ゴブリンだ。初めて見たけど本で見た通りの姿だ。
十匹近くいるゴブリンたちはナイフのような物を村人に向けながらなにかを叫んでいた。きっと食料か女性を要求しているんだろう。待ちきれないといった様子で村人を脅している。
今にも斬りかかりそうだ。急いで助けないと!
「ゴーム、走って!」
「ゴーッ!」
ゴームはものすごい勢いでゴブリンたちめがけて駆け出す。
するとその音で気づいたのか、ゴブリンたちがこっちを見る。
『ギギッ!?』
『ナンダアイツ!!』
『テキカ!?』
ゴブリンたちはゴームを敵とみなし、ナイフを構える。その間にゴブリンと対峙していた村人たちは村に逃げていく。
このまま戦闘に入りそうだ。僕たちが乗っていたら危ないし、ゴームも満足に戦えない。僕はアイシャさんに話しかける。
「アイシャさん! いっせーので飛び降りましょう!」
「え!? でも危ないんじゃ」
「なんとかします! 信じてください!」
アイシャさんは一瞬だけ驚いた表情をしたあと、「分かった。テオくんを信じる」と頷いてくれる。
素直に信じてくれて嬉しい。
「それじゃあいきますよ! いっせーの……」
「「せ!」」
僕たちは手をつなぎながら、走るゴームの上から同時に飛び降りる。
地面には木の根っこや石が転がっている。このまま落ちたらかなり痛いだろう。
だから僕は着地地点を予想して、スキルを発動する。
「
寝心地のいいふかふかのベッド。それは落下した僕たちをボフッ! っと優しくキャッチする。
「よし……上手くいった……!」
「ぷは、なにが起きたの?」
「アイシャさんはここで待っていてください。僕もゴームのところに行きます」
「あ、危ないよ! テオくんも待ってたほうがいいって!」
心配したように言うアイシャさん。
確かに僕みたいなのを行かせるのは不安だろう。でもゴーム一人に任せるわけにもいかない。僕も
「心配なのは分かります。でも任せてください、必ず村の人たちは僕が助けますから」
アイシャさんの目を見ながら真剣にそう言うと、なぜかアイシャさんは顔を赤くしながら「……ふぁい」と気の抜けた返事をする。
熱がありそうで不安だけど、ひとまずは納得してもらえたみたいだ。
「ど、どうしよう……年下の子なのにどきどきしちゃった……変な顔してないかな……?」
「大丈夫ですか?」
「う、うん! 大丈夫!」
まだ少し挙動不審だけど、大丈夫そうだ。
僕はアイシャさんを置いてゴームの方に向かう。
『ナンダコイツ!?』
『ヤレ! コロセ!』
村の入口ではゴブリンとゴームが戦っていた。
ゴブリンたちの数は多く全員が武器を持っている。だけど、
「ゴーッ!」
ゴームの力はそれを凌駕していた。
両腕を広げてラリアットすると、枯れ葉のごとくゴブリンたちが吹き飛ぶ。まるで大人と子どもの喧嘩だ。ナイフもゴームの硬い体を突き通すことはできない。僕が来る意味はなかったかもね。
『ギギ、コウナッタラ……』
ゴブリンの一体が、ゴームに背を向けて走り出す。
逃げるのかと思ったけど……違う。ゴブリンは森の方ではなく
その狙いは明白。村人を人質にするつもりなんだ。
そうなったら反撃はできなくなってしまう。ゴームは他のゴブリンの相手に忙しいので、そのゴブリンの行動には気づいていない。
……僕がやらなくちゃいけない。
後先を考えるな。今できることを、やるんだ!
「
土の壁は高さ二メートルはある。子どもの背丈のゴブリンじゃ簡単に登ることはできない。
突然現れた土の壁に『ギャ!?』と困惑するゴブリン。するとそのゴブリンは辺りを見回し、僕のことを発見してしまう。
『ギャギャ! オマエノシワザカ!』
「ひっ!」
ゴブリンの恐ろしい目が僕を捉える。
怖い。レイラもゴームも近くにいない状況で、殺意を向けられるなんて初めてだ。助けを求めても誰も助けてくれない、自分の力で切り抜けなきゃいけない。
怖さで押し潰されそうになるけど、その瞬間体の内から勇気が湧いてくる。
……そういえばフェンリルの加護には恐怖に打ち勝つ力があったっけ。きっとそれのおかげだ。こんな状況でも僕の頭は冷静だった。
『シネ!』
ナイフの刃先を向け、ゴブリンが襲ってくる。
僕は集中し、タイミングを計って能力を発動する。
「
小さめの石の塊をゴブリンの足元に作り出す。
するとゴブリンはその石に足をぶつけて、『ギャ!』と声を上げながら派手に転ぶ。よし、これで移動を封じた。あとは……
「
ゴブリンの上、なにもない空間を指定して能力を発動する。
50センチ四方の石のブロックが大量に生成されて、次々とゴブリンの体に落下する。一個一個はそれほどダメージは与えられないけど、塵も積もれば山となる。
『ギャーーーーー!?』
ゴブリンの絶叫が森の中に響く。
石のブロックの山の下敷きになったゴブリンは、身動きが取れなくなり『ギュウ……』とその場で意識を失う。
「か、勝った……」
能力に頼り切りだけど、初めて僕はモンスターに勝つことができた。
不安だったけど勇気を出してここまで来て本当によかった。
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