第二章 領民を増やそう!

第1話 はじめてのお留守番

 僕が北の大地にやって来てから、早いものでもう一週間の時が経った。

 最初は慣れない生活に苦労していたけど、レイラとゴーム、そして自動製作オートクラフトの力もあって、なんとか慣れてくることができた。


 畑も順調に広がっているし、食料も困っていない。

 だけどまだ領民は一人も見つかっていいなかった。僕たちだけじゃ村を作る労力が足りない。領民を探すのは最優先事項だった。


「テオ様、私が南西の森に探しに行きます」


 いつもの様に夕飯を食べていると、レイラがそう切り出してくる。


「どうしたの急に?」

「あのローランという商人は言っていました。『南西の森に避難している人がいる』と。しかし南西の森にはモンスターがいると思われます。村人だけで生きるには過酷な環境でしょう」

「うーん……そっか」


 南西に広がる大きな森も、北の大地の領土内。当然その森も瘴気に侵されている。

 モンスターが生息して危険なのはもちろん、瘴気に侵されているので食べるものも少ないだろう。

 人が住むには過酷な環境だ。確かに放っておいたら全員命を落としてしまうかもしれない。


「土地を浄化したおかげもあり、ここにモンスターは滅多にやってきません。日中私がいなくても大丈夫だと思われます。ゴームもいますからね」

「ゴーッ!」


 レイラの言葉に反応して、家の外にいるゴームが雄叫びを上げる。

 まだ出会って時間が立ってないけど、レイラはゴームのことを信頼しているように見える。阿吽の呼吸で作業をしているのをよく見かける。


「本当は……本当はテオ様との蜜月の時間を一秒でも減らしてしまうのは嫌ですが……背に腹は変えられません。モンスターを倒せば『魔石』も手に入りますし、ちょうどよいかと」


 魔石はモンスターから取れる特殊な石だ。

 魔力を生み出すことができて、様々な動力として使われている。魔石があれば元の世界にあった家電に似たものを作れるし、ゴーレムも増やせる。

 魔石そのものを作れるかも試してみたけど、それを作るには未知の素材が必要だった。だからモンスターを倒すしかないんだ。


「……分かった。それじゃあお願いするよ」

「はい。お任せください。夜までには帰ってきますので」


 そう約束をして、僕たちは一日を終えるのだった。


◇ ◇ ◇


「それでは行ってまいります」

「うん、気をつけてね」


 次の日。

 朝早くからレイラは家を発った。

 目指すはもちろん南西に広がる森。

僕は遠目にしか見てないけど、鬱蒼としてかなり広そうだった。レイラは昔冒険者だったと聞いたことがある。

 心配だけどきっと大丈夫だろう。


「僕たちだけだね、ゴーム」

「ゴウッ」


 外のベンチに座って足をぶらぶらさせる。

 レイラがいないせいでいつもより静かだ。少し寂しいけど、たまにはこういうのもいいかもしれない。


「よいしょ、と。ゆっくりするのもいいけど、畑の手入れを済ませちゃおっか」


 ベンチから降りて、畑の方に向かう。

 この一週間で分かったことがいくつかある。

神のくわで浄化した大地には神の祝福が宿る。そこに種や苗を植えるとすぐに芽が出て大きく成長するけど、二回目は一回目ほど早くは成長しない。

 だから一回耕して終わるんじゃなくて、こまめに土の状態をチェックしなくちゃいけない。肥料も考えたほうが良さそうだ。

 とはいっても二回目でも普通の土地より明らかに早く成長するんだけどね。神の祝福おそるべしだ。


「これとこれは収穫して、こっちに水をあげて、と」


 鑑定の力のおかげで作物と土の状態は一瞬で分かる。

 僕もレイラも農業に詳しくないのでこの力には非常に助かっている。今度女神様に出会えたらお礼を言わないと。

 そしてあわよくば神金属ゴッドメタルを追加で貰いたい。あれが次に貰ったらなにを使おうかな……と、考えていると突然ゴームが「ゴッ!?」と反応する。


「ん? どうしたの?」

「ゴ……ッ」


 ゴームは拳を構えて、ある方向を凝視する。

 いったいどうしたんだろうと思っていると、ゆっくりと大きな影が姿を現わした。


「な……!?」


 現れたのは白い毛をした、体長は五メートルくらいで巨大な狼だった。

 眼光は鋭くどこか気品を感じる、そんな狼だ。


 モンスターに詳しくないけど、その狼は普通のモンスターとは大きく違うように感じた。あえて言うなら……そう、女神様に少し近い感じだ。

 どこか神聖な雰囲気を感じる。


 その狼は僕のことをじっと見つめると、口を開く。


『……この地に人の子が来るとは珍しい。よく瘴気に侵されたこの地に作物を実らせたものだ』

「しゃ、しゃべった!?」


 なんとその狼は人の言葉を話した。

 優しい声色だ。女性のように感じる。


「あなたは……?」

『我が名はルーナ。誇り高き神狼フェンリルだ。今日はそなたに頼みがあってやってきた』


 フェンリルと言ったら僕でも知っている有名な生き物だ。

 この世界でも珍しくて、人が目にした記録はほとんど残っていないはず。そんな伝説の生き物がいったい僕になんの用なんだろう。緊張する。


 フェンリルのルーナさんは視線を作物の方に移すと、その『頼み』を口にする。


『ここに実っている素晴らしき作物……これを少し分けてもらえぬだろうか?』


 伝説のフェンリルは、まるで餌を目にした大型犬のように、口からよだれを垂らしながらそう言うのだった。

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