第8話 収穫しよう!
「ど、どうなってんのこれ……」
畑を作った日の翌日。
起きてすぐに畑を見に行った僕は、とんでもないものを目にした。
そこにあったのは、大きく育った野菜の数々。
じゃがいもにキャベツ、トマトとナス、スイカにイチゴと植えた全ての作物が育って大きな実をつけていた。
これらの作物は旬がそれぞれ違うけど、祝福された大地なら実をつけるんじゃないかと試しに植えてみた。もしかしたら一日で芽が出るんじゃないかと期待していたけど……まさか一日で『収穫』できるようになるなんて。
隣にいるレイラも驚いて口をぽかんと開けている。
「ひとまず鑑定してみようかな」
食べられるとは思うけど、一応鑑定してみる。
表示された画面にはこう書かれていた。
・トマト 品質:至高
神の祝福が施されたトマト。
特別な効果はないが、とても美味しく栄養たっぷり。
「食べられそうだね。じゃあいただきます」
軽く拭いて、トマトをかじる。
すると、
「……ッ!!」
口の中で美味しさが
今まで食べていた野菜はまるで腐っていたんじゃないかという程、強烈に美味しい。これを食べたら普通の野菜はもう食べられない。
野菜なのにお肉を食べたような満足感がある。
「美味しい、こんなの食べたことないよ! レイラもこれ食べてみて!」
「は、はい。分かりました」
少しためらいながらも、レイラはトマトを口にする。
すると彼女も目を見開いて驚く。
「美味しい……このような野菜、食べたことがありません」
「でしょ?」
得意げに胸を張る。
別に僕が凄いわけじゃないんだけど、なんだか誇らしい気分だ。
「ね、ね。生でこれだけ美味しいなら料理したらもっと美味しいよね?」
「そうですね、お任せください。テオ様が満足する料理を作ってご覧にいれます」
レイラは気合十分といった感じで笑みを浮かべる。
剣の腕が立つレイラだけど、料理の腕も高い。お城にいた料理人も顔負けだと聞いたことがある。どんな物を作ってくれるか楽しみだ。
「じゃあ収穫しよっか」
「はい。お手伝いいたします」
僕たちは今日食べる分を収穫する。
冷蔵庫があればもっと採り貯めることもできるけど、こっちの世界にそんな便利なものはない。
あればいいんだけど……と、考えていると頭の中に冷蔵庫を作るのに必要な素材が浮かぶ。
「うそ。冷蔵庫も作れるの?」
ちなみに冷蔵庫だけど、まだそれに必要な素材が足りなかった。もし必要な素材が溜まったら作ってもいいかもね。
◇ ◇ ◇
無事収穫を終えた僕たちは、家の側に作られたスペースに移動していた。
そこには焚き火台が置かれていて、料理はここで作っている。
こんな簡素な調理スペースでも、レイラは抜群に美味しい料理を作ってくれる。だけどいつまでもこんなもので作ってもらうのも申し訳ない。
まだ素材不足でキッチンは作れないけど、石だけで作れる便利な物を見つけた。
「
集めておいた石を対象に能力を発動する。
すると石がまたたく間に切り出され、積み上がり、立派なかまどができあがる。
普通に鉄板で焼くこともできるし、備え付けの扉を閉じればパンやピザを焼くことができる優れものだ。これがあれば料理の幅が広がるはずだ。
「こんな立派なかまどを一瞬で……! ありがとうございますテオ様!」
「うわっ!?」
レイラは僕のことを思い切り抱きしめる。
物凄い早さで距離を詰めてくるのでいまだに避けられない。……ていうか城にいた時より明らかにスキンシップの量が増えているね?
人の目がなくなったことでブレーキが壊れてしまったのかもしれない。なんとか抜け出すことには成功したけど、油断ならない。
「お城から持ってきた小麦粉がありますし、パンを焼きましょうか。採れた野菜を挟めばとても美味しいと思いますよ」
「いいね! 楽しみだなあ」
焼きたてのパンと採れたての野菜、美味しくないはずがない。
かまどの火起こしをレイラに任せて、僕は小麦粉を取りに倉庫に向かう。家の隣に建てられたこの木造の倉庫も
「よいしょ、と」
小麦粉が入った袋を持ち上げる。
どんなパンができるかなと想像していると、頭の中にパンの映像が浮かぶ。
「え゛」
まさかと思い、小麦粉を少し手に取り
すると手の中にふっくらとしたパンが出現する。そのパンは温かくて焼きたてって感じだ。
試しに食べてみると普通に美味しい。
「そういえばゲームでも小麦だけでパンを作れたっけ……」
だからってこの世界でもパンが作れるとは思わなかった。
かなり便利な力だけど……今は使わなくていいか。かまどで作るのも面白いし、レイラがやる気なのに仕事を奪ってしまっては可哀想だ。それにレイラが作ったパンの方が美味しいだろうしね。
「テオ様、見つかりましたか?」
「うん! 今行く!」
遠くから聞こえる声にそう返事をして、僕は倉庫を後にするのだった。
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