第7話 井戸を作ろう!

 ゴーレムの力は凄まじくて、家の周囲の土地は一日もかからず耕されて浄化された。

 それだけの大仕事をしたというのに、ゴーレムは疲れた様子一つ見せない。きっと使った魔石が高級品だから性能がいいんだと思う。母上には感謝してもしきれない。


「ありがとうねゴーム。助かったよ」

「ゴーッ!」


 お礼を言うとゴームは嬉しそうに声を上げる。

 ゴームというのはこのゴーレムの名前だ。試しに名前をつけてみたら喜んでくれたので、そのままこの呼び方をしている。

 ゴーレムは感情のようなものがないと聞いたことがあるけど、ゴームは人間みたいな感情を持っているように感じる。


「後は種をまいて水をあげれば終わりですが……どうしましょうか」


 耕し終わったのを見て、他の作業をしていたレイラがこちらに来る。

 植物の種はお城から持ってきているのそれを使えばいい。

 水も飲料として持ってきてはいるけど、これを畑用に使ってしまうとすぐになくなってしまう。


「家の近くに川はあるけど、まだ瘴気を含んでいるから使わないほうがいいよね」


 せっかくいい土ができたのに台無しになってしまう。

 他に水を得る手段として考えられるのは、雨と井戸かな?

 雨はいつ降るか分からないし、ここに降る雨は汚染されている可能性があるし却下だ。


 だとすると井戸しか選択肢がないけど、水が出るとこまで掘るのは中々大変そうだ。しかも掘るだけじゃなくて石で穴の中を舗装しなくちゃいけない。

 ゴームの力があるとしてもすぐには終わらない。これは中々大変な作業になりそうだ。


「……ん?」


 井戸のことを考えていると、頭の中に井戸のイメージが浮かぶ。

 そしてそれを作る・・素材も頭の中に浮かぶ。も、もしかして。


「井戸も自動製作オートクラフトで作れるの!?」


 まさか井戸まで作れるとは思ってなかった。なんてめちゃくちゃな能力なんだろう。


 僕はゴームに頼んで大きな岩を砕いてもらう。そうしてできた大量の石を使い、家の近くに井戸を作成する。


自動製作オートクラフト、井戸!」


 力を発動すると、またたく間に穴が掘られ、穴の中が石で舗装されていく。そしてものの数秒で見事な井戸が完成してしまう。ここまで来るとドン引きだ。


「うわ、本当にできちゃった」

「なんと凄まじい……! さすがテオ様、素晴らしいお力です!」

「ゴー!」


 喜ぶレイラとゴーム。僕も嬉しい。

 さて、井戸がちゃんと使えるのか調べたいけど、もう一つだけ気になることがある。


「えっと、井戸の隣に積み上げられている土と岩は、井戸があったところにあった土かな?」

「そのようですね。かなり深い所の物も混ざっているみたいです」


 穴はかなり深くまで掘られているので、積まれている土も多い。

 その中を見てみると、鈍く光る鉱石のような物がいくつか見つかった。


「レイラ、これがなにか分かる?」

「……すみません。鉱石には明るくないので分かりません」


 レイラは申し訳無さそうな顔をする。


「くっ、メイドとして情けない。かくなる上は身体であがなうしかありませんね……どうぞ罰をお与えになってください、さあ!」

「い、いいから! 服を脱がないで!」


 なぜか半裸になって罰を受けようとするレイラを落ち着かせる。

 他の人と接している時は冷静沈着クールなのに、なぜか僕といる時は暴走しがちだ。まあそんなところも面白くて好きなんだけど。


「せめて種類が分かればいいんだけど……あ」


 その時自分に宿った能力を思い出す。

 僕には異世界wikiこと『鑑定』があるじゃないか。あまりにも便利な能力過ぎて忘れていた。これを使えばこの鉱石がなにかも分かるはずだ。


「よし、鑑定!」


・鉄鉱石 品質:良

ごく普通の鉄鉱石。

精錬すると鉄になる(自動製作オートクラフトで用いる場合、精錬の必要はない)。


「おお、鉄だ!」


 鉄の登場にテンションがあがる。

 鉄といえば使い道がたくさんある金属。前の世界でやっていたゲームでもいたるところで必要になった万能金属だ。武器に農具などなんにでも使える。

 早い内から手に入れることができたのはラッキーだ。


「ていうか自動製作オートクラフトだと精錬の必要がないんだ。凄い……」


 ゲームだと鉄は精錬しないと使えなかった。

 自動製作オートクラフトはゲームよりも性能がいいということになる。そもそも家も一発で作れちゃうし、女神様の能力はやりすぎチートだね。


「鉄を取れたのはいいけど、まずはなにを作ろうかな」

「あ、それでしたらあれに使われてはどうでしょうか?」


 レイラはそう言って井戸を指差す。


「今は桶で水をすくわなくてはいけませんが、鉄があれば水を汲む『ポンプ』を作れるのではないでしょうか」

「それだ! ありがとうレイラ!」


 そう言って彼女に抱きつくと、レイラはぶっ! と鼻から血を吹き出す。


「だ、大丈夫!?」

「ええ……問題ありません。鼻血これは歓喜の涙ですので」

「そ、そうなんだ」


 まだまだ異世界には理解できない文化がある。

 ひとまずレイラは置いておいて、鉄でポンプをクラフトしてみる。

 自動製作オートクラフトは無事に発動し、井戸に手押し式のポンプが設置される。

 それをえいしょえいしょと手で押してみると、勢いよく水が吹き出される。


「わ! 出た!」


 木でクラフトした桶で、水を集める。

 目で見る限り綺麗な水だ。汚染されているようには見えない。


「いちおう鑑定、と」


・水 品質:良

よく冷えた地下水。

飲用可能。


「やった! これで水問題もひとまずは大丈夫そうだね」


 水を口に含んで、飲み干す。

 うん、よく冷えてて美味しい。


「お見事です! さすがテオ様!」

「ゴーッ!!」


 なにかに成功するたびレイラとゴームは大げさに褒めてくれる。

 少し恥ずかしいけど、褒められるのはやっぱり嬉しい。社畜だった時はどんなに頑張っても褒められなかったしね。


 僕たちは手分けして畑に種を植え、水をまく。

 すぐに芽が出ることはないけど、神に祝福された土だからきっといい野菜ができるはずだ。気が早いけど今から収穫が楽しみだ。

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