第6話 ゴーレムを作ろう!
「ぜえ、ぜえ……もう、無理ぃ……」
そう言い残して僕はパタリと倒れる。
畑を耕し始めて五分。情けないことに僕の体力は底をついていた。
「大丈夫ですかテオ様!?」
荷物の整理をしていたレイラが駆け寄ってきて、水を飲ませてくれる。
彼女に抱き抱えられながらそれを飲んだ僕は、なんとか立ち上がれるまで回復する。
「やはり私がやった方が……」
「いや、レイラは荷物の整理をしててよ。食材の管理とかは僕はよく分からないし、手分けしなきゃ」
「しかし……」
レイラは困ったように眉を下げる。
まあ五分で音を上げる僕に任せられるはずがない。
うーん、それにしても困った。ずっと引きこもっていたことがこんなところで裏目に出るなんて。体力を増やす方法を考えなきゃ駄目だね。
「でも畑を作るのが先だよね。どうすればいいんだろう」
レイラは普通の男の人よりもずっと筋力も体力もあるけれど、力作業を全て任せるわけにはいかない。今は労働力が必要だ。
言うことを聞いてくれていくらでも力作業ができる、そんな夢のような物があればいいんだけど。
「……あ。そうだ、なければ作ればいいんだ」
『
だったら作業を手伝ってくれるロボットみたいなのも作れるはずだ。
「確かこの世界にはゴーレムが存在していたはず。それを作ってみよう!」
ゴーレムは主人の命令を忠実にこなす人形だ。
土や岩でできていて、その力は人間よりずっと強いと本で見たことがある。
だけどゴーレムは普通錬金術師しか作ることができない。作るにはかなりの技術が必要で、めったに見ることができない代物なんだ。
だけど僕なら素材さえあれば作れるはず。
「えーと、ゴーレムは、と」
一つは目の前にあるものを自動で組み立てるモード。こっちは自由が利いて、ある程度完成形を自分の思うように変えられる。
そしてもう一つはレシピモードだ。
こっちは完成形を予想すると、勝手に必要な素材が浮かんでくる。
ゴーレムがなにでできているか詳しくないので、今回はこっちのレシピモードを使ってゴーレムを作ることにする。
「えーっと、大量の土に、少しの岩。それとこれは魔石、かな?」
「魔石ですか……。それは難儀しそうですね」
レイラが難しそうな表情をしながらそう口にする。
「魔石って魔力が込められた石のことだよね?」
「はい。一般的にはモンスターの体内にあるものですが、ゴーレムを動かすとなるとそこそこ大きめの物が必要になると思います。私なら討伐できると思いますが、その間テオ様をお一人にしてしまいます」
「そっか……」
運がいいのか悪いのか、家を建ててからモンスターにまだ襲われていはいない。
北の大地の中央部、瘴気が濃い場所はモンスターもたくさん出るらしいけど、端っこのここにはそれほどいないみたいだ。
いくら
「どうしよう…………あ」
しばらく考えた僕は、あることを思い出す。
持ってきた荷物の中をあさり、その中からある物を取り出す。
「あった!」
取り出したそれは胸につけるブローチだった。
真ん中には大きくて綺麗な
「テオ様、それは王妃殿下の……?」
「うん、亡くなった母上のブローチだよ。亡くなる間際に貰ったんだ」
母上はとても優しい人だった。
亡くなるその時まで僕やこの国のことを心配していた。
「これを貰った時に聞いたんだ。このブローチにはめ込まれている石は『魔石』だって。魔石は色んな利用方法があるから、困った時はこれを使ってと言われたんだ」
「そのようなことが……」
魔石は武器の強化、魔道具の作成、エネルギー源、そして換金など様々なことに使える。
母上のくれたこの魔石は魔石の中でもかなり高品質の物らしい。きっと売ったらしばらく暮らせるくらいのお金になるだろう。
でも母上の形見とも言えるこれを手放すなんてあり得ない。
「もしかしてそれをゴーレムの素材に使われるのですか?」
「……うん。魔石はゴーレムの核になる。これを使えば強力なゴーレムができると思うんだ」
母上の形見を素材にしてしまうことにはためらいがある。
だけどゴーレムの核にしても、後で取り出すことができる。今の窮地を乗り越えるためだと知れば、きっと母上も許してくれるはずだ。
「母上、力をお借りします」
ブローチを握りながら祈った僕は、近くにある石と土を対象に力を発動する。
「
力が発動すると共に、ブローチが輝き出し宙に浮く。
そしてブローチを中心として土と石が集まってきて、人の形をなしていく。
現れたのは全長二メートルはあるゴーレム。体のほとんどは土なので茶色い体をしている。
ずんぐりむっくりな体をしていて、肩幅が広くて腕は太い。かなり頑丈そうだ。
「…………」
最後に目が出現し、そのゴーレムは辺りをキョロキョロと見渡す。
そして僕に視線を合わせたゴーレムはのしのしとこちらに歩いてくると、直前で止まる。
レイラが警戒し腰の剣に手をかける中、ゴーレムはゆっくり僕の前に跪く。
「……ゴ」
低い声で、ゴーレムはそう言った。
言葉の意味は分からないけど、忠誠を誓ってくれているように感じる。
「えっと、この
「ゴー!」
ゴーレムは任せろと言わんばかりに力強く声を出すと、鍬を受け取る。
そして物凄い速さでザクザクと地面を耕し始める。そのスピートは僕の10倍以上はあるだろう。
「す、凄い! その調子でお願い!」
「ゴーッ!!」
ゴーレムは疲れを知らないのか高速で鍬を振り続ける。
あっという間に周囲の土は浄化されていってしまう。
「テオ様、これなら……」
「うん。希望が見えてきたね」
僕とレイラは顔を合わせて笑いあう。
これで食糧問題解決に大きく近づいたぞ!
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