第3話 女神とギフト
夜。
僕は
自動で作り出したにもかかわらず、ベッドの寝心地はとてもよかった。
それにしても木と石しか使ってないのに布団まで作られているのは不思議だ。いったいどういう仕組みなんだろう?
女神様の不思議パワーが不足している素材を補ってくれているのかな。
うーん、考えても分からない。
まあでも今はそれより気になることがある。
「レイラ、ちょっと近すぎない?」
「いえ、そんなことはありません。これが適正距離です」
僕の問いにレイラはそう即答する。
彼女は僕と同じベッドに入ってぴったりと寄り添っている。これが近くないと言ったらなにが近いのか分からないくらい近い。
いい匂いがするし布団の中でやわらかい物が体に当たるので、とても落ち着かない。子どもの体だから大丈夫だけど、大人のままだったら理性が消し飛んでいた自信がある。
「すーーーーー、はーーーーー。テオ様はお日様の匂いがしますね……」
「え? 匂い嗅いでる?」
「いえ、そのようなことはしていません」
「そっか」
「すーーーーーーーーーーーー、はーーーーーーーーーーーー」
「やっぱり嗅いでるよね!?」
思いっきり頭部に顔を突っ込みながら息を吸い始めたので指摘したけど、レイラは真面目な顔で「いえ、気のせいです」とそれを否定する。
あれだけやってバレないと思っているなら豪胆だ。
「しかしここまでやっても怒られないなら押し倒しても怒られないのでは……? いや、そんなことをして嫌われたら生きていけない……我慢しなくては……まだ……」
ぶつぶつと小さな声でなにかを言うレイラ。
よく聞こえないけど、なんだか寒気がしてきた。
「ふあ、眠くなってきた……」
隣で葛藤するようにもぞもぞしているレイラは気になるけど、もう寝るとしよう。明日からも頑張らなくちゃいけないしね……。
◇ ◇ ◇
「むにゃ……ん?」
目を覚ますと、僕は真っ白い空間の中にいた。
どこまでも果てしない白の風景が、果てしなく続いている。どう考えても寝た家とは違う場所だ。それどころか僕が過ごしていた世界そのものと違う場所のように感じた。
例えるならそう……死後の世界。いわゆる天国という場所に感じられた。
だけど僕はこの場所を
なぜなら僕がこの場所に来たのは二回目だからだ。
「ぱんぱかぱーん! 久しぶりですね真島さん! あ、今はテオドルフくん、でしったけ」
元気よくそう話しかけてきたのは、金髪のお姉さんだった。
彼女の背中には白い翼が生えていて、頭の上には光る輪っかがついている。天使みたいな見た目、と言ったら分かりやすいかな。
でもその人が天使ではないことを、僕は知っていた。
「え、女神様!? お、お久しぶりです。転生した時以来ですね」
そう、この人は僕を異世界に転生させてくれた女神様だ。
会うのは地球で死んで異世界に転生した時に『
「ふむふむ、すっかりかわいらしい男の子に育ちましたね。私は嬉しいですよ」
女神様はじっくりと僕の体を舐めわすように見つめる。
なんだか息が荒くて怖い。レイラのテンションがおかしい時に似ている。
「あ、あの! なんでまたここに呼ばれたんですか? まさか寝ている時に死んじゃったとか?」
「ああそれは違います。テオくんは元気です。今も体はあの家でぐっすり寝ています」
それを聞いてほっとする。
北の大地でレイラを一人置き去りにして死んでしまったらかわいそう過ぎるからね。
「ではなんで僕をここに?」
「テオくんの身になにが起きたかを、私は見ていました。私のせいであんなことになるなんて思いませんでした……ごめんなさい」
女神様はしゅんとした表情で謝る。
そっか、ギフトは女神様が渡すもの。当然僕がギフトを貰おうとして、失敗したことも知っているか。
「じゃあやっぱり僕がギフトを貰えなかったのは……」
「はい。既に『
なるほど、やっぱりそうだったんだ。
僕の仮説は当たっていたわけだ。
「うう、申し訳ありません。人を助けるのが女神の役目だというのに……まさかこんなことになるなんて……」
「やめてくださいよ。わざとじゃないんですよね?」
「それは、そうですが……」
転生する時、どの家に生まれるかはランダムだと言われた。
まさか王族に転生するなんて女神様も思いもしなかったんだろう。そしてそのせいで僻地に追放されるなんて更に思わなかっただろうね。
「大丈夫ですよ。女神様に貰ったこの力で、なんとかしますから」
「テオくん……。そうだ! いいことを思いつきました!」
女神様は表情を明るくさせると、僕に向かって右手を差し出してくる。
その手の中には白金色に輝く小さな鉱石が乗っていた。
「これは
「え、いいんですかそんなことして」
「はい! テオくんは私の
なんだか悪い気もするけど、今は猫の手も借りたい状況だ。神様の手を借りれるならありがたく借りたほうがいいよね。
少し迷ったけど、僕はその金属を受け取った。
「人の手でその金属を加工することはほぼ不可能ですが、
「……分かりました。この力、ありがたく使わせてもらいます」
そう宣言すると、女神様は優しく微笑む。
少し俗っぽいところもあるけど、こういうところを見ると本当に神様なんだなと思う。
「それでは頑張ってくださいねテオくん。私はここからずっと応援してますから」
女神様はそう言って僕の頬にキスをする。
「えっ!?」
「ふふ、神の祝福です♡ おまけに特別な力をあげちゃいました。そちらも役に立ててくださいね」
女神様はそう言って微笑むと、その姿が少しずつ見えなくなってくる。
すると僕の意識も遠のいていって……僕は再び、まどろみの中に沈んでいってしまうのであった。
◇ ◇ ◇
「はっ!?」
僕は大きな声を出しながら飛び起きる。
辺りを見回すと、そこは木造の家の中だった。どうやら僕はあの家に戻ってきたみたいだ。
窓からは日光が差し込んでいる。もう朝みたいだ。
「おはようございますテオ様。ちゃんと寝られましたか?」
僕の声が聞こえたのか、レイラが話しかけてくる。
どうやら彼女はご飯の用意をしてくれているみたいで、手にはおたまが握られている。
「あ、うん、大丈夫。おはようレイラ」
「ふふ、それはなによりです。もう少しでご飯ができますので、できたらお呼びしますね」
そう言ってレイラは扉を閉める。
それにしても僕は本当に女神様に会ったんだろうか? ただの夢だった可能性もあるよね。
でも確認する方法がないよねと考えているとあることに気がつく。
「あれ?」
手に触れる硬く冷たい感触。僕の手はなにかを握っていた。
おそるおそるその手を目の前に持ってきて、開く。するとそこには白く輝く金属が握られていた。
「
女神様がくれた、神の金属がそこにあった。
あの出来事は夢じゃなかったんだ。僕は自然と笑みをこぼす。
「よし、これで凄いものを作るぞ!」
そう決心し、僕はベッドから飛び降りるのだった。
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