第2話 新しい家

「……ここが僕たちの新しい、家?」


 目の前に立つ今にも吹き飛びそうな掘っ建て小屋を見て、僕は呟く。

 明らかに築50年以上は経っている木造の一軒家。壁も屋根もところどころ剥がれていて、風が中に容赦なく入っている。


「そのようですね。北の大地にほとんど人は住んでいません。このような家でも残っているのが奇跡かと」

「そんなあ……」


 一日や二日とかならここで住めるかもしれないけど、ずっとは無理だ。

 でもとてもじゃないけど家を建てるなんて僕もレイラも無理だ。二人とも建築なんてしたことがないんだから。


「安心してください。夜は冷えるかもしれませんが、二人で身を寄せ合えばきっと温かいですよ」

「いや、それで耐えられるレベルじゃないでしょ」


 レイラのふざけてるのか本気なのか分からない意見を一蹴する。

 すると彼女はしゅんと落ち込んでしまう。もしかして本気だったのかな……?


「まずはこの家をどうにかしなきゃだね」


 なにをするにしても住居は最優先のはずだ。

 今は明るいからいいけど、夜は魔物が出てもおかしくない。


 いくらレイラが凄腕の剣士と言っても、寝ている時は無防備だ。安心して寝られる住居を作らなきゃ。


「えーと、家か……」


 頭の中に一軒家を思い浮かべる。

 すると『自動製作オートクラフト』の能力が発動して脳内にその家の素材が浮かんでくる。家の基礎となる石と、壁や床、屋根などに使う木が数本。これだけあれば新しい家が作れる。


「レイラ、近くの木を何本か切り倒してもらえる?」

「お任せください」


 レイラは腰に差している剣を抜くと、目にも留まらぬ速さでそれを振るい、近くに生えている木を次々と切り倒していく。

 理由も聞かず忠実に命令をこなしてくれるのは、信頼してくれているみたいでとても嬉しい。


「うん、それくらいで大丈夫。後は任せて」


 切り倒された木と、近くに転がっている石に向けて手を伸ばす。

 そして僕は今まで隠していたその能力ギフトを発動する。


自動製作オートクラフト!!」


 そう口にした瞬間、木と石が勝手に動き、形を変えていく。

 石が削り出されて基礎となり、木がいくつもの板に切り出されて組み合わさっていく。


 時間にしておよそ数秒。僕たちの前に綺麗な一軒家が作り出された。


「ふう……うまくいった」


 ここまで大きな物をクラフトするのは、もちろん初めてだ。上手くいってよかった。

 そうほっとしていると、レイラが驚いていることに気がつく。

あ、そういえばこの能力のことを説明していなかった。僕がギフトを貰えなかったと思っているしちゃんと説明しなきゃね。


「えっと、あの時はギフトを貰えなかったけど、なんかいつの間にか使えるようになってて……」


 我ながら苦しすぎる言い訳だ。

 だけどレイラは信じてくれたみたいで、


「す……凄すぎますテオ様!」

「うわっ!?」


 突然レイラが抱きついてくる。

 僕の顔は彼女の大きな胸の間に簡単にうずまってしまい、息ができなくなる。


「このような力を授かっていたとは! やはりテオ様は素晴らしいお方です! 女神様もそれを分かってくださったんですね!」

「もが、い、息が」


 必死にもがいて、なんとか脱出する。

 ふう、危なかった。三途の川の向こうで母上が手を振っていた気がしたよ。


「すみませんテオ様、つい感情が抑えきれず……」

「だ、大丈夫。それより中も見てみよっか」


 扉を開け、僕たちは中に入る。


「わあ、いい感じだね」


 中は結構広くて、綺麗だった。

 入ってすぐのところにリビングがあって、テーブルが一つと椅子が四つ置いてある。

 奥には個室が一つあって、その中には小さな机と椅子、そしてベッドが一つ置いてある。


「後はキッチンとかも必要かな? 他に家具は……あ、ベッドも作らないと駄目だね。それとももう一つ家を建てて別に住んだほうがいいかな?」

「いけません」


 僕の提案にレイラが食い気味に答える。

 その表情はいつも通りクールだけど、有無を言わせない凄みを感じる。正直怖い。


「私はいつでもテオ様をお守りできる位置にいないといけません。家を分けるなんてもってのほかです。部屋も一緒がいいでしょう。ですのでベッドはこのまま一つがよろしいかと。二人で寝れば温かいですし、なによりテオ様の体温を間近で感じられ……こほん。なにはともあれ私達が寝室を分けるのは百害あって一利無しという訳です。おわかりいただけたでしょうか」

「わ、分かった分かった!」


 高速で訳の分からないことを話されて根負けする。

 前の世界では大人だった僕だけど、もうこの世界で過ごして長いので感性は子どもになってしまっている。女性と一緒に寝るなんて恥ずかしい。

 まあ前の世界でも女性経験なんてなかったから、恥ずかしいのに変わりはないんだけど……。


「ふふ、夜が楽しみですねテオ様」

「は、はは……」


 僕は一抹の不安を抱えながら、新しい家での生活を始めるのだった。

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