追放された転生王子、『自動製作《オートクラフト》』スキルで領地を爆速で開拓し最強の村を作ってしまう 〜最強クラフトスキルで始める、楽々領地開拓スローライフ〜
熊乃げん骨
第一章 新しい生活
第1話 無能王子、追放される
「テオドルフ殿下にギフトは……与えられませんでした」
女神様に仕える神官からそう伝えられた時、僕は「え……っ!?」と大きく動揺した。
僕の名前はテオドルフ・フォルレアン。ここフォルニア王国の第三王子だ。
この王国では、王族は13歳になると女神様から特別な力『ギフト』を与えられる。僕も今日それを貰うはずだったんだけど……そうはならなかった。
まさかの事態に、後ろで見守っていた父上が怒りの形相で神官に詰め寄る。
「どういうことだ、説明しろ!」
「わ、分かりません。このようなことは初めてで……。何度もやってみたのですが、女神様に拒否されてしまいました」
「ということはテオドルフは女神様に見捨てられた、ということか?」
「……おそらく」
神官は申し訳無さそうにそう答える。
それを聞いた父上は「はあ……」と深い溜め息を吐く。そして失望しきった目で僕のことを睨みつける。
「兄のニルスは『大賢者』を貰い受けたというのに、弟はギフト無しの『無能』とはな。女神様に嫌われる王族などありえぬ、恥を知れテオドルフ」
そう吐き捨てるように言った父上は女神像のあるこの部屋から去ろうとする。
「ま、待ってください父上!」
「もう話すことはない。貴様の処遇は追って伝える」
そう短く言って父上は去る。
僕はそれを黙って見つめることしかできなかった。
◇ ◇ ◇
「テオドルフ、貴様を『北の大地』の領主に任命する! 王都に戻りたくば領地を開拓し、成果を上げて見せろ!」
ギフトを授かれなかった次の日、僕は父であり国王でもある、ガウス・ディスガルド・フォルレアンにそう宣告された。
女神様を崇拝する王国の王子が、女神様に嫌われるなどあってはならないこと。なので王位継承権を剥奪されるくらいはあるだろうと思っていたけど、もっと酷い罰を僕は受けてしまった。
領主に任命すると言えば聞こえはいいけど、それは実質王都からの『追放』を意味する。確かにこの国では王位を継げなかった王子は地方領主になることがある。でも僕みたいな子どもにそれをさせるなんて聞いたことがない。
父上の言うことには今まであまり反発してこなかったけど、さすがにこれを「はいそうですか」と飲み込むわけにはいかない。
「ちょ、ちょっと待ってください父上! 北の大地は『死の大地』とも呼ばれている場所です。作物は育たないし、人もほとんど住んでいません。そんなところを僕みたいな子どもが開拓できるわけがありません!」
「これは王命だ、覆ることはない。残念だ、お前には期待していたのだがな」
父上は失望した目で僕を見る。
僕に魔法や剣の才能はない。だけど他の分野で役に立てるよう色々と勉強してきたつもりだ。
だけどそれも全て無駄になってしまった。
「話は終わりだ。荷物をまとめ、北の大地に向かえ」
「父上っ!」
抗議しようとするけど、兵士に連れられ王の間を追い出されてしまう。
そして扉は固く閉ざされ、僕の運命は決してしまう。父上は一度決めたらやり通す人だ。もう僕の力ではどうしようもない。
「テオ様、大丈夫ですか!?」
慌てた様子で近づいてきたのは、僕の専属メイドのレイラだった。
長い銀髪と切れ長の目が特徴的な凄い綺麗な人だ。王族に生まれなかったら接点は持てなかっただろうね。
ちなみにテオとはもちろん僕のことだ。テオドルフだからテオ、親しい人は僕のことをそう呼ぶ。メイドである自分がそのような呼び方をするのは……と、レイラは最初そう呼ぶのをためらったけど、壁を作りたくなかったのでそう呼んでくれるよう頼んだんだ。
「安心してレイラ、僕は大丈夫だから」
「ああ、よかったです……。それでいったいなにがあったのですか?」
レイラは僕が父上と話している間、外でずっと待ってくれていた。
僕は中でなにを言われたのかと話した。
「そんな……北の大地になんて……!」
レイラは自分のことのように悲しんでくれる。
優しかった母上も亡くなった今、ここまで味方してくれるのは彼女くらいだ。
でもそんな彼女とも、もうお別れだね。
「今までありがとうレイラ。北の大地に行ってもレイラのことは忘れないよ」
「え? なにをおっしゃられているのですか?」
レイラは不思議そうに首を傾げる。あれ?
「だって一緒には行けないでしょ? 北の大地に行くよう言われたのは僕だけ。レイラはここで働けるんだから」
「なにをおっしゃいますか! テオ様が行かれるのに私が行かないなんてありえません! たとえ魔界に行かれるとしても私はついていきます!」
レイラは僕の手をガシッとつかんでそう言い放つ。
「……本当にいいの? きっとすっごく大変だと思うけど」
「望むところです。どこまでもお供させていただきます」
「ありがとうレイラ……とっても嬉しいよ」
正直心の奥底ではついてきてくれないかな、と期待していた部分もある。だけどまさかこんなにもまっすぐ応えてくれるなんて。
一人で行くものだと思ってたけど、かなり心が軽くなった。
「……これでテオ様と二人きり……ふふふ……」
「レイラ、どうしたの?」
「あ、いえ。なんでもありません」
なんか不穏な気配を感じたけど大丈夫……だよね?
レイラといるとたまに肉食獣の側にいるような身の危険を感じることがある。いったいなんでだろう。
そう不思議に思っていると、後ろから足音が聞こえてくる。
「なんだ、まだ出ていってなかったのか」
その声に僕たちは振り返る。
そこには意地の悪そうな笑みを浮かべた人物が立っていた。
「ニルス……!」
僕と同じく黒い髪をしたその人物は、三つ年上の兄だ。
昔からなにかと目の敵にされていて、ちょっかいをかけてくる嫌な相手だ。
それにしてもあの口ぶり、まるで僕が追放されることを知っていたみたいだ。
「まさか……」
「くく、気づいたか? そう、父にお前を追い出すよう進言したのは俺だ! くく、せいせいしたぜ」
ニルスは心底楽しげに語る。
そうか、ニルスのせいだったんだ。いくら厳格な父上でもここまで重い罰を息子に負わせるのには違和感があったんだ。
「女神様に嫌われた者を王都に置いておいたらきっと良くないことが起きますよ……って言ったら簡単に俺の提案を飲んでくれたぜ。父上は熱心な女神信者だからな」
得意げに話すニルス。
ニルス自身は女神様を崇拝してはいない。女神様の怒りを買うなどどうでもよかったはずだ。ただ僕を追い出すために父上をそそのかしたんだ。
「なんでそんなことを……」
「なんで、だと? 俺は昔からお前が気に入らなかったんだよ! なんの才能もないくせに周りから可愛がられ、のほほんと暮らしているお前がずっとい気に入らなかった! お前が王位継承権を持っているだけで虫唾が走る!」
大声でまくしたてるニルス。
好かれていないとはわかっていたけど、まさかここまで嫌われているなんて。
「……だがそれも今日で終わり。北の大地は貴様みたいな甘ちゃんが生き残れる環境じゃない。一週間も持たずに逃げ帰ってくるだろう。そうしたら父上はお前に完全に愛想を尽かす。この城にはもういられず寂しい余生を過ごすことになるだろうよ」
ニルスはニヤニヤと笑いながらそう言うと、次にレイラに視線を移す。
「レイラもそんな無能は捨てて俺につけ。今なら俺の専属にしてやってもいいぞ。優れた剣技にその美貌……お前のことは買ってるんだ。悪いようにはしない……俺のモノになれ」
「いいえお断りいたします」
レイラはノータイムで返答する。
断ってくれるとは思っていたけど、ここまで秒殺だとニルスが少し不憫だ。
……もしかしたらニルスがこんなことをした理由の一つは、レイラなのかもしれない。僕みたいなぐうたら王子がレイラを独り占めしているのが気に食わなかったんだろうね。
「本気で言ってるのか!? そいつに未来はない、王になる俺につけば一生安泰なんだぞ!」
「はい、本気です。私はこの身をテオ様に捧げております。たとえどんな苦難が待ち受けていようとテオ様の側を離れません」
レイラが力強くそう言うと、ニルスは僕のことを憎々しげに睨みつけたあと、舌打ちする。
「そんな
ニルスはそう言うと、再び僕に視線を戻す。
「大賢者の力を使って貴様をここで殺すのは簡単だ。だが……それじゃつまらない。お前にはもっと苦しんでもらわなくちゃな。北の大地は瘴気に汚染され草もロクに生えない死の大地だ。お前がどう苦しみあがいたか……報告を聞くのを楽しみにしてるぞ」
嫌味たっぷりにそう言ったニルスは、
レイラはその背中に「べーっ」と舌を出していた。普段はクールなレイラだけど、意外と茶目っ気がある。
「気にしなくても大丈夫ですよテオ様。愛し合って……じゃなくて信頼しあっている私達なら乗り越えられます」
「う、うん、そうだね。頼りにしてるよ」
なんかすごい言葉が聞こえた気がしたけど、スルーする。
ニルスの卑怯な行動に屈してなんかいられない。僕は「よし」と気合を入れ直し、荷造りをするため自室に向かうのだった。
◇ ◇ ◇
次の日、荷物をまとめた僕はレイラとともに馬車に乗って王城を後にした。
仲の良かった使用人たちが何人か見送りに来てくれたけど、ニルスはもちろん父上の姿もそこにはなかった。
「…………」
馬車の窓から小さくなっていく王都を見ながら、一人僕は物思いにふける。
……僕は、元々この世界の住民ではない。
元の世界で僕は日本のサラリーマン……『社畜』だった。
毎日夜遅くまで仕事して、家に寝るためだけに帰るような生活。月の残業時間は300時間を超えることも多くて、今自分が起きているのか寝ているのかさえあやふやになっていた。
唯一の楽しみは休みの日にできるゲームだけ、そんな地獄の日々を過ごしていた。
そんな無理がたたって僕は死んだ。いわゆる過労死ってやつだ。
死んだ後、僕は女神様に出会って魔法のあるこの世界に『転生』させてもらったのだ。
そしてその時、女神様は僕にある提案をした。
「この世界で生き抜くため、貴方に好きな能力……そちらの世界で分かりやすく言うと『スキル』を授けます。なにがいいですか?」
悩んだ末、僕が選んだのは物を作る『クラフト能力』だった。知らない世界で暮らしていくんだったら単純な強さより物作りの能力が役に立つと思ったからだ。
それに僕は『マイニングクラフト』という物作りゲームが好きだった。同じような力が使えると思うとワクワクした。
女神様は僕の意志を汲み取り『
この力を使って異世界を生き抜いてやる! そう思っていたけど……僕は王族に転生してしまった。
この能力が特殊なものであることは理解していたので、他の人に見られたらなにを言われるか分からない。僕は『
たまに一人でこっそり練習はしていたが、それくらいだ。大きな物も作ってみたかったけどバレてしまうのでできなかった。
でもこれからは違う。
領地を開拓するのにこの力は絶対に役に立つ。この力を駆使して絶対に生き延びて見せる。
「……あ、もしかしてこの力があるから『ギフト』を貰えなかったのかな」
不意にそう思いつく。
ギフトが一人一つと決まっているなら、貰えなくて当然だ。
僕が転生して、しかも女神様に会ったことは誰にも言ってないので、僕が気が付かなければ誰も気づくはずがない。
「ギフトを貰えなかった時に『
今更戻っても話を聞いてもらえないはずだ。それにあんなことをされたらもう城にとどまりたいとは思えない。
よし、こうなったらこの力でできる限り頑張ってみよう。
レイラもいるしそこそこやれるはずだ。
僕は心の中でそう決心するのだった。
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