9.魔法使いと平行線

 『声』が脳内に鳴り響く。


 ――この恋は君だけを目指し続ける――


 イメージは『雷』。

 都合のいい落雷が、目の前のレヴナントを破裂させた。


「ミサキ、俺の後ろに。青山は早く逃げろ!」


 バラバラになった肉片が徐々に灰になっていくのを確認していると、さらに数体のレヴナントが建物の影から出てくるのが見えた。

 どの個体も俺の方へ、いや、ミサキの方へ歩いて向かってきている。


「青山! 後で追いつく! 先に駅へ行け!」


 振り返らずに叫んだ。

 狙いが分かっている以上、関係無い人が近くにいられると厄介なのは確かだ。

 青山は突然の落雷とレヴナントの群れに怯え、震えた声を上げる。


「いや、でもよ! 何がどうなってんのか……」


 青山の反応はもっともだ。

 だが、今は常人が居合わせると邪魔だった。

 再び脳内に『声』が響く。


 ――これが決して叶わぬ恋ならば――


 イメージは『操る』だった。


「先に行け」

「……わかった、先に逃げてるぞ」


 人が変わったように青山の声から生気が失せ、俺の言葉通りに駅の方へ歩き出した。

 魔法を使って友達を操るのは気が引けるが、この際は許してほしいと心の中で謝罪を入れておく。


「ミサキは俺から離れないで」

「うん……」


 ミサキは俺の服を強く握りしめた。

 これは俺の責任だ。

 完全に油断していた。

 ミサキに怖い思いをさせてしまった自分と、単なる理不尽に対して舌打ちが漏れ出る。


「大丈夫……さっさと帰ろう」


 カラフルな商業施設を紫の巨人たちが闊歩している光景はまさに悪夢だった。

 人間のように階段を歩いたり、手すりに手を掛けている様が不気味で鳥肌が立つ。

 レヴナント達が悠然とした足運びで広場へ降りてくる。


「……できれば目を閉じて」


 一体のレヴナントが広場に足を触れたことを合図に、一斉に走り出した。

 理性も感情も持ち合わせていない進撃を開始した。

 まるで何かに手繰り寄せられているかのような無気力感を帯びている。

 無数の足音が響き渡り、ミサキの手が強張る。

 意識を統一させて『声』を聞く。


 ――ただ、君だけの幸福を願って、君と巡り逢うその時まで運命を繰り返そう――


 足元から眩い炎が駆け巡り、雷鳴が轟く。

 天変地異とも呼べるような災害が、災害を襲う。

 それでも、物量と言う暴力は留まることを知らず、炎の壁や雷の雨の中を数体のレヴナントが突破してくる。


「……くっ」


 あっという間に接近してきたレヴナントは次々に障壁を叩き割ろうと拳を振るってきた。


「拓哉くん!」


 背後、気が付けば障壁を突破した一体のレヴナントが、ミサキに手を伸ばしていた。

 ――声はまだ聞こえない。

 ミサキの身体を抱き寄せるが、レヴナントの腕は構うことなく追跡してきた。決定的に初動が遅れている。


「――しまっ」


 今にも叫び声を上げそうに目を見開いているミサキの姿が紫の指に隠れていく。

 焦燥と困惑に駆られた心音で周りの音が良く聞こえない。平和だった今日が絶望の色に変わっていく絶望感に奥歯を噛みしめた。

 ――刹那。

 目の前を金髪が横切った。

 レヴナントの巨腕は血しぶきを上げ、サイコロ状に寸断された肉片が宙を舞う

 醜穢な光景の中からミサキが姿を現すが、朦朧としており目の焦点が定まっていない。

 今にも倒れそうだった。


「ミサキ!」


 俺がミサキの肩に触れるよりも早く、金色の一閃がミサキの身体を攫って消える。


「……魔法使いもこんなものか」


 声のする方へ振り向くと、金髪をポニーテールに束ねたJKがミサキを抱えて立っていた。

 右手には小型のサブマシンガン、左太ももにはナイフが提げられている。

 高校の制服姿で持つ物としては分不相応だった。


「遊佐アカリ……なんで」

「ずっと監視していた」


 遊佐アカリは俺の質問に答えながら右手のサブマシンガンをレヴナントへ向け、容赦なく引き金を引いた。銃声が雨音の様に連なる。

 異質な存在に囲まれている以上、JKがマシンガンをぶっ放しても驚くことは無い。

 銃弾の嵐に晒されたレヴナントの波は著しく鈍化し、遊佐アカリを危険視したレヴナントたちが俺を避けて金髪へ目掛けて駆けていく。

 魔法使いが蚊帳の外になる現象に頭が痛くなったが、そんな事よりもこの状況は絶体絶命だ。

 とてもじゃないが遊佐アカリの実力でこの数のレヴナントを退けることは困難――


「――」


 風を巻き上げて、遊佐アカリは超人的な跳躍を見せた。

 オリンピック選手でさえも人一人抱えて跳べる高さではない。最早、着地が危ぶまれる高さだ。


「まさか……」


 遊佐アカリの鋭い眼光と視線がかち合う。

 『声』が脳内に響き渡った。


 ――君の願いだけを叶え続けよう――


 障壁が展開され、空中の遊佐アカリを中心に花火のようにばら撒かれた弾丸が障壁を叩き始めた。障壁の外でレヴナント達が凶弾に晒され、朽ちていく。

 ほんの数舜だったのだろう。

 大体のレヴナントが地面に伏せた頃、遊佐アカリは降り立つ鳥のように地面に戻ってきた。

 未だにレヴナントの雑踏こちらへ向かってきているが、俺は遊佐アカリから目を離せなかった。

 ミサキを抱えながら立つ彼女の姿は硝煙が羽衣の様に纏わりつき、天使のような神々しさを放っている。


「ここ一週間、お前たちを監視していたが」


 静まり返った地獄に遊佐アカリの澄んだ声が染み渡っていく。


「危機感と言うものが無いのか? 三岳拓哉が買い出しに行き、坂本ミサキは待機する構図は致し方ないとは思ったが、外食に次いで行楽に赴くとは恐れ入った」


 冷徹な言葉の嵐にぐうの音も出ない。正直、危機感の欠如という部分では痛いほど心当たりがある。


「やはり、お前には責任をとれない」

「ちっ」


 相変わらず口調は事務的で温もりを感じない。だが、今日の遊佐アカリはなんだか楽しさを感じているような微かな幼稚さを帯びた表情をしている。

 遊佐アカリは堂々とした足運びで近づき、ミサキの身体を預けてきた。


「そこを動くな」


 彼女を自分の言葉を置き去りにするかのような超高速で姿をくらませ、周囲から迫ってきていたレヴナント達の胸部が次々と飛散していく。


「はぁ?」


 思わず素っ頓狂な声が漏れ出てしまった。

 ……人間って一週間や二週間でやめれるっけ? 

 彼女の身体能力は常軌を逸しているどころか非常識だった。

 俺自身が非常識な存在のため、彼女の存在を完全否定は出来ない。

 だが、目の前でレヴナントと死闘を繰り広げているのは紛れもなく、神速のJKだった。


「ん……あれ……拓哉くん?」


 遊佐アカリに見とれていると手元でミサキが声を上げ、俺は自然と視線を落とした。


「大丈夫?」

「え、うん……えっと何が――ひっ!」


 ミサキは周りの光景を見て短く悲鳴を上げた。大量のレヴナントの亡骸から出る塵が風に乗って宙を舞っている風景は、見る人によっては幻想的でもあり地獄絵図でもあるだろう。

 ふと、足元にスクールバックが転がっているのが見えた。遊佐アカリの持ち物だとしたら何となく中身の予想がついてしまう。

 俺が不審に思っていると、金髪の少女が豪快に地面を転がってきた。


「アカリちゃん!?」

「はぁ……はぁ……」


 最初は蹂躙しているように思えたが、彼女の額や各部から流れ出る鮮血を見れば戦況が劣勢だということは分かる。

 遊佐アカリはすぐに起き上がり、俺とミサキには目もくれず周囲のレヴナントの数を確認する。俺も彼女の視線に釣られて周囲を見回してみたが、先ほどよりも更に厚い紫の肉壁がこちらへ向けて収縮していた。


「お前たちは離脱しろ。隙は私が作る」


 あらかじめ決められていたかのように迷いの無い口調で言い放ってきた。

 その姿は女子高生の流行りに着いていけず戸惑っていた遊佐アカリとは遠くかけ離れた勇ましい姿だった。――またしても胸が苦しくなる。


「お前はどうすんだ。怪我だけじゃすまないぞ」


 遊佐アカリはカバンの中から新たなマガジンを取り出し、馴れた手付きでリロードをする。

 心配する義理なんて無いのに俺の口は勝手に言葉を連ねていた。


「仕方がないだろ」


 だが、帰ってきたのは虚しい一言だった。


「……」


 遊佐アカリはリロードを済ませると、再び走りだした。

 レヴナント側も応戦するように走り出し、金髪の少女に群がり始める。

 これが彼女の本当の姿なのだろう。同年代の友達とオシャレなカフェでお茶をしたり、カラオケに立ち寄って流行りを共感したり、学校で他愛のない話で大いに盛り上がる。そんなのとはかけ離れた存在。

 血に濡れ、殺生の中で自分の存在意義を見出しているのが彼女――遊佐アカリの在り方。

 ――反吐が出る。

 俺の気持ちに呼応するようなタイミングで『声』が聞こえた。


 ――欲望のままに私の想いを受け入れて――


 遊佐アカリの死角から迫るレヴナントが雷に打たれて飛散する。

 突然の雷撃が俺の仕業であると瞬時に見抜き、見開いた目を向けてくる。その視線には疑念が感じられた。


「雑魚のくせに出てくんな」

「……その雑魚に助けられたのは、どこのどいつだ? エセ魔法使い」

「あぁ?」

「ちっ」


 いつしか心臓は落ち着きを取り戻していた。

 何が俺をここまで冷静にさせているのかは分からない。いや、分からなくても良い。

 ただ、取り留めのない高揚感が胸の中を満たしていく。


「助けてやろうか?」

「余計なことをするな。どうせろくなことにならない」

「じゃあ、あの数をナイフと豆鉄砲で片づけんだな」

「人一人守れない魔法よりは役に立つ」

「あ? 試してみるか?」

「望むところだ」

「ちょっと! 二人とも! 何言い争って――」


 ミサキが叫んだ直後――眼前に迫っていたレヴナントが雷と弾丸の嵐に粉砕される。


「「――邪魔だ!」」

「足だけは引っ張るなよ、クソJK」

「こっちのセリフだド畜生」


 足元から広がった炎が周囲を囲むレヴナントを燃やし、降り注ぐ雷は巨体を粉砕していく。

 局所的に降りかかる災厄。これまで以上に破壊的で、どうしようもない魔法だ。

 遊佐アカリは金色の尾を靡かせ、炎と雷の嵐を進んでいく。

 考えなんて無い。適当だった。気味の悪さを感じつつも、迫りくる高揚感に冷静さがかき消されていく。

 一体、また一体とレヴナントが散っていく。

 地獄のような背景で金髪のJKはナイフを片手に魔法と踊っていた。


「……」


 白い太ももを流れる鮮血。炎と揺らめく金色の線維。雷に照らされ宝石のような輝きを放つ瞳。すべてがコマ送りのように流れた。

 やがて炎は大半のレヴナントを焼き尽くし、役目を終えて鎮火した。

 遊佐アカリも最後のレヴナントを打ち倒し、残骸の上で立ち尽くしている。


「お、終わったの……?」


 静寂が生まれ、ミサキのか細い声が俺の耳に届いた。俺はそんな彼女の手を取って立ち上がらせた。


「多分終わった……かな」


 ミサキは大きく息を吐きだし、すぐにいつもの柔らかな笑顔を浮かべた。俺はミサキが無事であることを確認し、すぐに遊佐アカリの方に振り向いた。

 遊佐アカリは依然として無表情を貫いたままレヴナントの死骸の上に立っている。


「おい、JK」

「……」


 俺が声を掛けると、虚ろな目で立ち上がり、おもむろに銃口をこちらへ向けてくる。

 当然のように放たれた無数の弾丸が近くの空気を裂いて通り過ぎていく。

 自然と背後に視線が向かう。

 そこには刃と化した腕を振り上げるレヴナントが胸を抉られ静止している姿があった。

 レヴナントの身体が灰になっていくのを確認し、遊佐アカリへ視線を戻す。


「これで……最後……」


 下ろしたマシンガンの重さに釣られるように遊佐アカリの細い身体がよろめいた。


「アカリちゃん!」


 ミサキが俺の腕から抜け出して遊佐アカリの下へと駆けだした。伏せているレヴナント達が本当に絶命しているのかを確認しながら俺も後を追いかける。


「アカリちゃんしっかりして――」


 遊佐アカリはミサキが差し出した腕をそっと掴んだ。


「――伏せろ」


 言葉と同時に、ミサキを抱え込むように地面へ伏せた。

 微かに遅れて一発の銃声が轟く。

 意識外からの襲撃に俺の身体は瞬時に強張る。驚いた拍子に障壁を展開してしまった。


「攻撃を中止してください! 脅威は認められない!」


 切羽詰まった表情を浮かべた遊佐アカリはインカムに手を当てて叫んだ。視線はかなり上を向いており、俺は彼女の視線を辿るように顔を上げた。

 視線の先、広場を取り囲むビルの屋上にいたのは黒迷彩に身を包みライフルを構える二人の兵隊だった。レヴナントに気を取られて気が付かなかったが、別の棟の屋上にも同じような服装と装備の兵隊がミサキに銃口を向けている。


「目標は完全に沈黙。状況は終了している!」


 遊佐アカリの言葉も虚しく、立て続けに銃声が鳴り響く。だが彼女は超反応を見せミサキを抱きかかえながら広場から上がるための階段の影に身を隠した。

 俺も咄嗟に遊佐アカリの後を追いかけて階段の影に転がり込む。


「おい、何だあいつら!」

「分からない、応答しない」


 遊佐アカリは周囲に気を配りながらインカムに手を当てている。


「ミサキ、大丈夫?」

「うん、なんとか」


 ミサキの震える手を握り、なるべく影になる所へ誘導した。遊佐アカリと喧嘩した夜を思い出す。奴らはレヴナントのことになれば味方をも巻き込んで攻撃を開始するのだ。

 ハッキリ言って、同じ人間とは思えないほど狂気じみている。


「あ」


 怒りに震えていると遊佐アカリが素っ頓狂な声を上げ、視線は遊佐アカリへと向かった。


「インカムの電源切れてた」

「マヌケ!?」


 身体に入っていた力が一気に抜けた。ミサキも口をあんぐり開けてコメディアン顔負けの反応をしている。

 遊佐アカリは何も構うことなくインカムのスイッチを入れ直して話し始めた。


「本部、状況は終了している。現状、脅威は確認されていない。攻撃の中止を要請する」


 遊佐アカリが誰かと話している時、ふと、傷だらけの彼女が目の奥に焼き付いてしまった。

 額から血を流し、スカートから伸びた白い足にはいくつかの痣と切り傷が残っていた。

 身に纏っていた制服も泥と血で汚れ、所々破けている。

 そんな彼女の姿がまたしても俺の心を締め付けるのだ。


「三岳拓哉」

「……な、なんだよ」


 遊佐アカリは俺の気持ちなど知る由もなく普段通りの無表情で冷たい視線を向けてきた。


「今回のことで確証を得た。やはり坂本ミサキはこちらで一時保護した方が賢明だ。明らかに危険すぎる」


 遊佐アカリはミサキを一瞥する。


「だからなんだ、ミサキが悪いわけじゃないだろ! ミサキに憑りついている奴を始末すれば全て解決できる話だ! 事を荒げているのは危険物を何も考えずに全部排除しようとするお前たちだろうが!」


 感情に任せて怒鳴り散らした。


「だが、それまでの間に出る被害はどうする! お前に責任が取れるのか? 街だって人だってすべてに価値がある! 保証が無ければこの社会は納得しない! 理不尽だと感じるのは当人のみで、その他の人間はただの被害者だ! それに! お前がまたそうやって……」


 遊佐アカリは何かを言いかけて口を閉ざした。


「いや、何でもない。ただの浮ついた感情があるせいで命を落とす人間もいる。戦場も知らない素人が感情に身を任せて多数の人間を危険に晒すな」

「……」


 反論できる手札が無かった。素人に言われたのとはわけが違う。死線を潜り抜けてきた彼女だからそこ持ち合わせる感情があるのだろう。


「だいたい、お前は――」

「――はーい、そこまで」


 言葉を続けようとした遊佐アカリをミサキの腑抜けた声が遮る。


「なーんでそんなに仲が悪いの? 君たち」


 と、ミサキは肩をすくめた。

 彼女の言葉に遊佐アカリと俺は互いの顔を見合わせた。


「俺、こいつに殺されかけた」


 と、ミサキへ抗議の視線を送る。


「まぁ許してあげよう?」

「私はこいつが気に食わない」


 続いて遊佐アカリも抗議の視線をミサキへ送った。


「まぁそこも頑張って慣れよう?」


 今、すごく幼稚な文句が飛び出た気がするが、聞かなかったことにしよう。


「私はさ、二人のようにレヴナントと戦えないよ。それに皆を危険に晒しちゃうかもしれない、お荷物だし爆弾ですよ」


 ミサキは不貞腐れたように唇を尖らせた。


「こんな厄介な私だから、頼れる人は限られているんだよ」


 俺と遊佐アカリを交互に見て、いつも通りの優しい笑顔を浮かべた。


「だからね、お願いだから、仲良くしてほしいな」

「断る」

「えー? だって、二人がギスギスしてたら私も不安になるし……」


 ミサキの言葉に、遊佐アカリの視線が鋭くなる。


「分からないな、お前たちの仲に私は必要ないはずだ。三岳拓哉と私が不仲であってもやる事は変わらない。何も関係ないはずだ」

「それは……そうだけど……」

「お前たちの下らない目標に私を巻き込むな」


 遊佐アカリは冷徹に吐き捨てた。筋が通っている強い拒絶。

 俺が口を挟む余地もない。これはミサキにとっても良くない展開だろう、と思ったが、ミサキの目は死んでいなかった。


「拓哉くんだけでも十分に安心できるけど、アカリちゃんもいてくれた方が、もっと安心だし、何より、『楽しい』と思うんだ」


 この状況で「楽しい」という単語を吐き出せるのはミサキだけだろう。

 図太く、能天気、加えてお節介。だけど、俺はその性格に何度も救われた。

 俺は再度遊佐アカリに視線を戻して、彼女の出方を伺う。


「……私に――楽しんでいる暇なんて無い」


 遊佐アカリはポツリと言い残して階段の影から歩いて出行った。


「あちゃ……あの子も大変だね……」


 ミサキは俺を見て困り笑顔を浮かべた。

 楽しんでいる暇なんて無い……か。何度も感じるが、とても十七歳の口から飛び出る発言とは思えない。


「なんか、すごい既視感……全然似てないけど、昔の拓哉くんを思い出すよ」

「勘弁してくれ」

「似た者通し、仲良くできると思うけどなぁ」


 正直に言えば、親近感を覚えているのも確かだった。

 自分の時間、人生を何かに返上している彼女は高校の時の俺と大差ない。

 使命を課せられているか、使命を押し付けられているかの違いだった。

 遊佐アカリを見ているとどうしても胸が苦しくなる。

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