蒔いた種

青いひつじ

第1話


たんぽぽは花が咲き終わった後、綿毛になり、その綿毛が空を舞い、また別のところで花を咲かす。



卒業式の日、先生はこの流れを人生のようだと私たちに教えた。

良い行いをすれば、それがどんどん連鎖して、いずれ自分に返ってくると。だから素敵な種をたくさん蒔いてほしいと、そんな話をしていたと思う。


しかし、信じられないかもしれないが、世の中には因果応報など存在しない。




小学生の時、私は所謂、田舎のいじめっ子だった。


「あんた、使えないからいらない」


私は、1人の女の子をグループから外した。

見せると約束していた宿題をしてこなかったからだ。

私は以前から、いい子ちゃん発言を繰り返すその子に対し嫌悪感を抱いていた。

他の女子たちは私の命令に従順だった。

その日から、私たち5人はその子のことを無視し続けた。

約束を破ったのだから、当然の報いである。

その子が、ごめんねと話しかけてきても、まるで存在しないかのように無視した。

1ヶ月が経ち、彼女は学校に来なくなってしまった。



そしてその噂は、まさにたんぽぽの綿毛のように飛んでいき、私たち5人は他の生徒たちから恐れられるようになった。

しかし、みんな私たちの言うことを聞いてくれるので、恐れられるというのは気分が良いことのように感じた。

評判はどんどん悪くなっていったが、そんなことは気にならなかった。




私は中学になると同時に、父の仕事の都合で遠く離れた場所に引っ越した。

みんな、私がひどいいじめっ子だったことなど知るはずもなく、平穏な日々を送った。

高校になると初めての彼氏ができた。

大学ではテニスサークルに入り、名ばかりのサークルではあったが、大人の世界は実に魅力的であった。

都会に引っ越した私の人生は、その夜景のように煌びやかであった。


この頃には、1人の女の子を登校拒否にした過去など、すっかり頭の中から消えていた。




そして現在は、大手広告代理店で新入社員として働いている。


生まれつき世渡り上手な私は、上司を持ち上げ、敬語とタメ語を混ぜながら甘え上手な後輩を見事に演じている。


最近では、要領の良さとこの性格のおかげで、入社半年にして大型プロジェクトの一員に選ばれた。


クライアントとの打ち合わせもスムーズに進んでいたある日、私はプロジェクトのリーダーに呼び出された。

部屋に入ると、リーダーは頭を抱え、下を向いていた。



「クライアントからクレームだよ。

君が送ったメール、誤字も多いし、言葉もなってないし、新人教育どうなってんだって」



そう言うと、大きくため息をついた。



「君、使えないからチームから外れてもらう」



その時、聞き覚えのあるその言葉が頭の中で鳴り響いた。


それは、どこかで聞いた言葉。


昔々に、自分が蒔いた種。



「あんた、使えないからいらない」



それから1ヶ月が経ち、私はその会社を去ることにした。



信じられないかもしれないが、世の中は自分のした行いが、巡り巡って返ってくるようにできているらしい。











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