第2話 現状把握
洗礼式を終えたユーリは、家族が寝静まった後、布団に横になりながら今の状況について整理することにした。
ユーリが生きているこの世界はジョブなど便利なものがあるわりに、文明が発達していないように思える。
現にユーリ達が住んでいるこの場所も木造建築の建物で、洗礼式をした教会までの往復で見た景色は、RPGの中に出てくるような自然豊かな田舎町という印象であった。
(のどかだったなあ。遠くにあったのは畑かな?)
どれほど、文明が発達しているのか生活水準が高いのかはわからないが、ユーリはいつもお腹いっぱいご飯を食べることが出来ているので、恐らく貧しい暮らしではないように思える。
(でもいつも家から出られないから情報が全然ないんだよねえ。明日から少しは自由にさせてもらえるのかな?ママに聞いてみようっと!)
なんて考えつつ、寝返りを打つユーリ。
ジョブや魔法などの科学的には説明のつかないモノが当たり前なこの世界は、ユーリにとっては未知以外の何者でもないが、自分のジョブがたまご屋であることに少しワクワクしていた。
(たまご屋って言うくらいだから、動物に関するジョブなのかも?でも今日卵を触ってもなんともなかったしなあ。どうにかして発現させられないかな?)
前世から動物と触れ合いたいと願っていたユーリだが、今日まで家から出ていなかった為、まだ一度も動物に会っていない。
(明日、このジョブは何ができるのか調べてみよう!)
ユーリは、はやる気持ちを抑え、再び寝返りを打ち目を閉じた。
翌日、ユーリが目を覚ますともう父のダンと母のリリーはいなかったが、兄のユートがリビングにいた。
「ユーリ目が覚めたのか。おはよう。」
「にーに、おはよう!」
「パパとママは下にいるよ!洗礼式も終わったからユーリが起きたら連れてきていいって言われてるんだ。一緒に行けるか?」
「いいの?!いくー!」
(ついに、ここ以外にも行けるんだ!)
下の階に降りられることになったユーリはぴょんぴょんと跳ねながらユートの周りをまわるまわる。
「じゃ、行こうか!」
ユーリはユートと階段を降りる。1階まで降り扉を開けると廊下に出た。昨日外に出た時とは反対側の廊下を進むとすぐにある部屋からリリーが顔を出す。
「ユート、ユーリを連れてきてくれた?」
「うん、連れてきたよ。」
「ママ、おはようー!」
「ユーリ、おはよう。ユートもありがとうね。」
リリーが2人の頭を撫でる。
「ユート、ママはユーリとお話しするからパパのお仕事を手伝ってもらえる?」
「わかった、パパは厨房?」
「そうよ。よろしくね。」
「はーい。」
ユートがダンの元へ向かうと、リリーはユーリに話しかける。
「ユーリはこっち側には来たことがないから、ママが案内するわね。」
「うん!これからは行ってもいいの??」
「家族の誰かと一緒ならいいわよ。でも、1人では行かないこと。わかった?」
「はーい!」
それからリリーはユーリに家のことを案内した。まずわかったのはユーリの家が食堂兼宿屋を運営していること。
自宅兼店舗のこの建物は、1階が食堂になっており2階から上は2棟に分かれている。
一棟が宿屋としての部屋で、もう一棟が自宅や倉庫などである。
ユーリは3歳まで自宅棟から出ずに生活をしていたわけだが、幼少期に感じた人の気配や物音は、食堂の音だったのだ。
トイレと水場は中庭のようなところに共用トイレと井戸がある。井戸を初めて見たユーリが覗こうとすると危ないから1人では近づかないようにと釘を刺される。
何よりも衝撃的だったのはトイレが俗にいう汲み取り式であったことだ。
宿屋ということもあり、なるべく清潔にはしているようだが、それでも独特な臭いは消すことができない。
ユーリは少し顔を顰めた後、リリーに話しかけた。
「ママ、このおトイレ大きいね。」
「そうね。ユーリはまだお部屋にあるトイレを使いましょうね。」
実はユーリはいまだにおまるを使っている。洗礼式までは家の中で家族に守られて過ごすことが風習となっている為だが、庭にしかトイレがないユーリの家では、おまるを使うしかなかった。
昨日、洗礼式を終えるまでは特に何も考えずに使えていたが、前世を思い出し意識がはっきりとした今となっては恥ずかしいものである。
ユーリがなんとも言えない顔をしていると、ガタイの良い男性が話しかけてきた。
(うわー、これぞサバイバルって感じの人だ!)
「あれ、リリーさん。そっちの子は…もしかしてリリーさんとこの2番目の子?」
「あら、ルーク!おはよう!ユーリと言うの。昨日、洗礼式を終えたのよ。今日から宿屋や食堂にも顔を出すからよろしくね。ユーリ、この人はルークよ。うちの宿屋を使ってくれているの。挨拶できる?」
「ユーリです。3歳です。よろしく!」
「お!えらいなー、3歳なのにこんなにしっかり挨拶ができるなんて!さすがリリーの娘だな!」
豪快に笑いつつユーリの頭を撫でる。
「俺は、ルークだ。冒険者をやっている。この時期は毎年この宿屋に世話になるんだ。よろしくな。」
「うん。」
「ルークは水浴び?」
「ああ、夜行性の魔物の討伐をしてたんでな。水浴びをしてから寝るとするよ。」
「そうなの。じゃあ、簡単に食べれる物だけでも作る?」
「いいのか?朝食の時間前だろ?」
「常連だもの。気にしないで。他の子達は?」
「あー、荷物の整理ができたら来ると思う。」
「じゃ、全員分予定しておくわね。」
「さんきゅー、助かるよ!」
よほど空腹なのかとても嬉しそうにしながら水浴びに向かうルークとわかれ2人は食堂に戻った。
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