第12話 初めての冒険者ギルド①

初めての冒険者ギルドだけでなく初めての買い物の許可も得たユーリは、シュウが来るのを食堂で今か今かと待っていた。


「ココ、楽しみだね!」


椅子に座り机の上で腕を組みながら目の前にいるここに向かって話しかける。


———クワーッ!


「ココが喜ぶもの売ってるかな?ココが遊べるものとかもあるといいけど。」


———クワ?


「おもちゃがなくても美味しいものあるといいね!もしあったらお母さんに話して買ってもらおう!」


———クワックワッ!


「ココも楽しみ?私も楽しみすぎるようー!」


「ユーリー、お待たせー!」


「あ、シュウさん!今日はよろしくお願いします!」


「はいよ。今日、暇だからリーダーも一緒に来るって。」


「ルークさんも?」


シュウの後からルークが食堂に入ってきた。


「ユーリ、よろしくなー!」


ルークにガシガシと頭を撫でられる。


「いたいいたい!よろしくお願いします!今日ね、果物も買いに行きたいの!いい?」


「果物?」


「シュウ、ルーク、今日はユーリのことよろしくお願いね。」


ユーリがシュウとルークと話していると、そこに母であるリリーがやってきた。


「リリー、ユーリが果物がどうのって言ってるけど…」


「そうなのよ。実はね…」


リリーは果物を買いに行くことになった経緯を2人に話す。


「なるほどね!じゃあお昼ご飯食べた後、買い物してから帰ってくるか!」


「あ、そうだ!ママ、シュウさんがお昼ご飯連れてってくれるって!」


「あら、そうなの?お願いしてもいいかしら?それなら遠慮なくお願いしちゃう!その代わり今日はメンバー全員分の夕飯はこちらで負担するわ!」


「おう、任せとけ。じゃ、そろそろ出ようか。」


「はーい!」


———クワーッ!


「ユーリ気をつけてね。シュウ、ルーク、暗くなる前には帰ってきてねー。」


「「「いってきまーす!」」」


ユーリはリリーに手を振りながら、出発した。初めて家族と離れることに少しそわそわしたがそれでも楽しみの方が勝っていたユーリはシュウと手を繋ぎながらスキップしている。


「ユーリ、寂しくない?」


「えー、ちょっと!でも、楽しみ!」


「そうか、じゃあ今日は思いっきり楽しもう!」


「うん!」


冒険者ギルドに向かいながら今日の予定を確認する。まず冒険者ギルドに行ってその後お昼ご飯を食べ、買い物をして帰ってくる。


「ユーリはそんなに歩いたことはないだろうが、ここはすごく大きな街じゃないがそれでも広いからな。疲れたら言うんだぞ。」


「はーい!」


ユーリが家から離れたのは、洗礼式以来なので、道や町の様子をしっかり見るのは初めてに近い。


シュウ達の説明によると、ユーリの家は西門という森の近くの門から少し逸れた場所にあるらしい。


冒険者ギルドなどの建物は冒険者達がよく使う西門から行きやすいように、町の中心から少し逸れたところに建てられているので、冒険者ギルドに近づくほど人の流れも増えてきた。


「ねえ、シュウさん。前にパパはこの町はそんなに大きくないって言ってたけど、たくさん人いるね!ちょっとびっくり!こんなに人がいるのに会ったことなかった!」


「ダンが言う大きくないは都市と比べてだろ。辺境としては大きい方だと思うぞ。人口だって少なくはない。」


「そうなの?でもお客さん以外あまり会わないよ?」


「そうだなあ。国なんかにもよるけど、この辺りでは、子どもは家から出さないで育てるが基本だからな。」


「そうじゃないところもあるの?なんで?」


「うーん、なんで説明したらいいのかなあ。」


シュウとルークが5歳のユーリにわかりやすいように話してくれた内容を要約すると、この国は前々王のせいで崩壊寸前で犯罪率も魔獣などの被害も多かったそう。全王は信頼おける部下達と反乱を起こし、実の父である前々王を退け王となった。


そこからまだ数十年しか経っていない今、全王と現在の王の奮闘により、以前よりも豊かになっているが、平民の間ではその時の習慣により今も子どもたちを守るため、家の中だけで育てているとのことだ。


「なるほど。大変だったんだね。今は全然怖くないね!」


「子どもにはそうやって安心して育ってほしいと皆思ってるよ。」


「あとは、単純にユーリの家がある場所は町の中心から結構離れてるからねー。」


「そうなの?じゃあ冒険者ギルドがある辺りが中心?」


「中心はもっとお店屋さんとかがたくさんある場所だよ。冒険者ギルドは煌びやかとは言えないからね。大きな通りの近くではあるけど、少し入ったところになるから、賑わってはいるけど、中心ではないね。」


「煌びやかなところには皆は行くの?」


「あそこは行けないことはないが行かないな。リリー達も近くの商店や市場で買い物を済ませるから行くことはないと思うぞ。」


「もう少し大きくなったらわかるが立場や仕事内容によって町の中でも行ける場所や生活兼は変わるんだよ。」


「ふーん?」


思ったよりも貧富の差がありそうな事実と、更に住んでいる場所の大きさに驚いたユーリ。しかし、今気になっているのは貧富の差よりも冒険者ギルドのことだ。ユーリはとりあえず考えを切り替えることにした。


「ま、いいや!ねえ、冒険者ギルドは家からは近い方なの?」


「おう!ちょうどそこの曲がり角のところだ。」


ついに冒険者ギルドに到着した。冒険者ギルドは近くの建物よりは大きく、隣には魔獣達の建物も併設している。


「わー!いよいよだ!」


ユーリはワクワクしながら冒険者ギルドへ入っていった。

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