第3話

 仕事をやめた数日後、私は病院に入院していた。転移があるから、もう手術はできない状態だ。


 仕事を失った私にはもう何もない。職業は無職(実際は傷病手当金をもらうために休職中)。もうすぐ入院するんだから、肩書がないのも仕方がない。


 こんな私にも仮想空間には居場所がある。ブログだとツイッターだ。ネットで思ったことを書くと、見ず知らずの人が集まって来て励ましてくれる。一緒に泣いてくれる人がいる。不思議だ。会社にいても私を慕ってくれる人なんかいないのに、ネットで出会う他人が私に構ってくれる。


 私のプロフィールは40代。独身。無職。〇〇癌で余命半年だ。

 孤独だから一日何度もつぶやく。

 一日中、ツイッターにいる。

 

『入院しました。痛い。辛い。辛い。辛い。もう愚痴しか出ません。面倒臭い方はフォロー外してください』

 

『病室のお隣は寝たきりのお年寄り。きっと苦しいんだろうなと思いますが、長生きできて羨ましい。私もこのくらい長生きしたかった』


『去年の誕生日に自分のために買ったブランドのバッグ。特別な時に使おうと思ったけど、特別なことが起きなかった』


『仕事をやめた時にもらった詩集。何だかポイントがずれてる。これは生きている人のための本だ。どういう気持ちでくれたのかなと思う』

 

『山Bのビデオを見る。もうちょっと頑張ろうと思う。やっぱりジャニーズは好き』


 気が付くと寝落ちしている。もう、頭が朦朧として何もできない。


 もう、ブログをやる元気はないから、ツイッターをずっと見ている。動物の写真が流れて来る。本当にかわいい。でも、動物を飼っていなくてよかった。もし、飼っていたら、ネットで探した誰かに譲渡しなくてはならなかっただろう。


 スマホを見て、寝落ちしてを延々と繰り返す。食事が来てもほとんど食べられない。 


 私は最後にちょっとふざけた投稿をした。


『そろそろ人生最後なので友達募集します。年齢不問です。お年寄りからちっちゃい子まで。よろしくお願いいたします。彼氏も募集しますんで、若い男性も是非。好きなタイプは誠実で優しい人です。年下が好みです』


 さすがに余命数ヶ月になったら、みんなかわいそうに思って、いっぱい連絡が来るんじゃないか。もしかして、山B本人が見ててDMくれたりして。そんな風になったら、冥途の土産だわ…。


 私は微笑みながら寝落ちした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る