第2話
私はアパートで独り暮らしをしている。もう十年くらい住んでいる。実家は地方だけど、もう両親はなくなっている。兄弟がいるけど不仲で連絡先をしらない。これから、一人で死に向かって準備をしなくてはいけないのだ。
老後のためにと貯めたお金があるけど、あの兄弟に渡るのかと思うと悔しい。私はまだ四十二歳だ。死ぬには早いけど、結婚するのはちょっと難しい年齢だろう。一度結婚してみたかったなと思うけど、今まで男性と付き合ったことがない。私自身に人を寄せ付けないところがあったのだろうと思う。
私は誰とも喋らず一人で家に帰る。手には紙袋を持っているし、花が邪魔だ。すれ違う人で欲しい人がいればあげたいくらいだ。以前、花を持って歩いている時に、ホストっぽい人に花くださいと言われたことがある。多分、店に来たお客さんにあげるんだろう。それを貰った子は自分のために買って来てくれたと勘違いして喜ぶに違いない。世の中、そういう勘違いが重要だ。人間関係は勘違いで成り立っていると思う。
私は暗いアパートに着いた。ポストを開いても、入っているのはダイレクトメールとチラシだけだ。玄関に入った瞬間、辛くなって泣いてしまった。もうすぐ、あの世に行くのに、誰も支えてくれる人がいない。なんて人生だ。家族を持つべきだったと思う。誰でもいいから結婚すればよかった。頼りない人でも独りよりはましだろう。
明日の燃えるごみの収集日に備えて、もらった花も部屋にある洋服なども何もかも捨てる。いずれはこのアパートも引き渡さないといけない。不動産屋に事情を話した時に思わず泣いてしまった。不動産屋の若い営業の人も気の毒そうにしていたけど、困った様子だった。
目の前にガリガリの女がいて、病院で死ぬかもしれないけど、部屋を解約してしまったら行くところがなくなってしまう、なんて言われても困るだろう。
涙が止まらなかった。ちょっと前までそんな風になるなんて思ってもいなかった。
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