余命

連喜

第1話

「倭田さん、今日が最後ですね」

 オフィスで机を並べている、後輩の男性が声を掛けて来た。

「送別会やりたかったんですけど…」

 下を向いて涙ぐんでいた。会うのはきっとこれが最後になるだろう。私も涙が出て来た。

「いいの。もう、食欲もそんなになくて」

「病院、お見舞いに行っていいですか?」

「いいよ。そんなの…みっともないとこ見せたくないし」

 私は笑みを浮かべた。彼にしてあげられることは、作り笑顔くらいしかない。ミスの多い頼りない後輩だったけど、人柄はよかった。これから仕事を覚えて部の中心となって…ということはなさそうだが。これから、下の後輩たちからどんどん追い抜かれて行くだろう。


 私がいなくても会社は回る。結局、事務職なんて誰でもいいのだ。特段、必要とされていないのに、私の居場所は会社しかなかった。


 最後なので、職場の人たちから花と寄せ書きを貰った。それから、個別にプレゼントをくれた人もいた。大体が、入院グッズみたいな実用的なものだった。本をくれた人もいた。今さら本を読んでどうなるものでもないけど。宗教とか、詩集とか、好みでないものをくれた人もいる。即ゴミ箱行きだ。駅の雑誌を入れるゴミ箱に捨てて行こうか迷う。私みたいな病気の人間にもゴミの分別をさせるなんて、自治体も残酷だと思う。

 

***


 最後に勤めた会社は五社目の職場だった。大学を卒業して、何度か転職して、最後にたどり着いたのは名もない中小企業だった。そんなところに勤めているなんて恥ずかしいと思ったけど、私のことなんて誰も気には留めないし、誰の記憶にもないだろうと開き直った。  

 

 こんな私が癌になったのは去年の終わりくらいだ。ちょっとの間、体調が悪くて病院に行って、検査をしましょうということになった。検査の時は毎回癌じゃないかと不安になる。しかし、大丈夫だったというのを何度か繰り返していた。

 

 結果は癌だった。余命半年。詳細は割愛する。私が書きたいのは闘病記じゃないからだ。

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