とは言っても楽しんでるよ

「レンく~ん……朝だよ~……」


 肩をだれかに叩かれている。

 これは……見崎みさきの声か?


「ちょっと何しているんですか!それは私の役目です!」


 ドタドタと騒がしい足音とともに、これまた騒がしい声がする。

 これは……あおか?


「え~?別に誰が起こしても同じじゃない~?」

「じゃあ宮下みやしたさんはどっか行って下さい」

「もお~、すぐ睨まないでよ~……そんなにアオちゃんが起こしたいなら~……」


「どぶぇ!」


 お腹に強い衝撃。

 俺の意思とは関係無しに、反射的に目を開けてしまう。


「あ、おはよう。お兄ちゃん」


 ちょっと脳の処理が追い付かない。


 簡単に言うと、蒼が俺の上に倒れていた。

 

 詳しく言うと、蒼の顔は俺の胸に、胸は俺の腹と密着し。

 そして股が、俺の足にぴっちりで。

 二つの太ももに片足がロックされ、明らかに当たってはいけないところの感触が足で感じれてしまって……


 それを脳が処理した時点で、反射的に体を後ろに下げる。


「朝一から何してんの⁉」


 離れたとは言え、左足には、太ももの軟らかさと、アレの感触が存在していて。


「ふふふ。アオちゃん大胆だね~」

「宮下さんが押し倒したんですよね……まあいいや」

「いやよくないよね⁉いろいろとまずい部位があったってたよね⁉」

「え~?レンくんはナニを意識してたの~?教えて欲しいな~」

「……お兄ちゃんは変態だね」

「なぜ二人して蔑んだ目をする!どちらかといえば俺被害者だよね⁉」

「まあまあ~。とりあえず朝ごはんにしよ~」


 見崎は布団をたたみ、蒼はキッチンへと向かう。

 まだ状況が呑み込めないが、とりあえず机を出したりして。


「……んで、なぜ普通に見崎がいる?」

「ほんとですよ。お手伝いなんていらないので今すぐ帰ってください」

「そんな冷たいこと言わないでよ~。ちょっとでもアオちゃんの負担を減らそうと思って来たのに~」

「な、なるほど……それはありがたいんだけど……もうちょい仲良くできない?」

「無理」

「アオちゃんがこの調子だとね~。私にはどうしようもないよ~」

「……ま、まあとにかく朝ごはんにしよう!な!」


 この二人の間に火花が散っているのは止めようがないので、とりあえず朝ごはんで気を紛らわすことにする。


「なんか、今日は豪華だな。いつもより品数が多いような気がする」

「ふふふ。実は~、私とアオちゃんの二人で作って~、どれが一番美味しいかレンくんに決めてもらおう~ってことになって~」

「……やっぱりやめる。宮下さんの作った料理に毒でも盛られてたら大変だし」 

「いや流石にそれは疑いすぎでは……普通に犯罪者だぞ」

「そうだよ~。いくらなんでもそんなことしないよ~」

「私の食べる分にもですか?」

「……」


 沈黙する。


 見崎も蒼も真顔で、ちょっとも動かずに静止している。


「いやなんで沈黙する⁉普通に否定すればいいところじゃないの⁉」

「はあ……お兄ちゃん、これとこれとこれが私の作ったものだから、それ以外は食べなくていいよ」

「え~、アオちゃんひど~い。やっぱり~、レンくんにおばあちゃんみたいな味って言われたから、ビビってるんでしょ~?」

「いやn」


 なんでそれを蒼に言ったの……というかそれはただのたとえ話だし、いい意味で言ったから……


 とか、すごく言い訳したかったが、それを挟む余裕もなく蒼が返してきて。


「お兄ちゃんはそれくらい美味しいって意味で言ったんですよ。勘違いしないでください。宮下さんこそ、若い主婦って、つまりまだ料理に慣れてなくて、私より美味しくないって意味ですよ?分かっているんですか?」

「アオちゃんこそ勘違いしてるよ~。おばあちゃんっていうのは、もう食べ飽きて一周回って不味いって意味なんだよ~?」


 いやだからどっちもたとえ話で……二人とも料理が上手って意味で言ったんだけど……


なんて、こんな早口で話す二人に言えるはずもなく。


「そもそも住んでもいない宮下さんがなんでわざわざ来たんですか?お手伝いなんて私、頼んでいませんよね?むしろ帰れと頼んだはずですが?」

「え~?アオちゃんのお手伝いとは言ったけど~、アオちゃんのためだとか~、アオちゃんのお願いを聞く~とかは一言でも言った覚えがないんだけどな~」

「やっぱり宮下さんは、好きで好きでしょうがないお兄ちゃん目当てで来たんですよね?」

「そうだけど~?それでアオちゃんになんの問題があるのかな~?」

「……早く帰ってください。不純異性交遊ならお兄ちゃん以外とやってください」

「朝からあんな起こし方をしたアオちゃんに言われても、なにも思わないよね~。昨日から『お兄ちゃん~』なんて呼び出したみたいだし~、裸も見せた痴女みだいだし~」


 二人の会話は、ますますヒートアップしていき。


 もう……俺が帰りたいぐらいだよ……


 っとそんな時、スマホが鳴る。

 すぐそばに置いてあったそれを手に取り、画面をみると……


 どうやら、矢鋭咲やえざき先輩からの電話らしい。

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