優しさって、空回りがち
「……なるほど。では
「これっぽっちもないから!それはもう忘れて⁉」
その後、
具体的には、昨日から今日にいたるまでの
「にしてもさ~、レオちゃんってば、こんなに早く来た割におしゃれだよね~」
「せっかく本題に入るとこなのにまた話をそらすなよ……確かに、
汗をかいていても映えるように、スポーティーかつ涼しげ、それでいて一目でオシャレと分かるセンス。
これを短時間でできるのだから、さすが矢鋭咲先輩だ。
「そ、それは偶然だ……服は、適当に選んだだけで……」
「ふふふ。レオちゃんって、ウソつくのは下手だよね~。そんなあからさまに動揺してたら、バレバレだよ~?きっと~、レンくんに私服を見られるからって~……」
「そ、そんなわけがないだろう!汗をかいても汚ならしくならないよう、服を選んだだけでだな……」
「あ~、やっぱりちゃんと考えてその服なんだ~。乙女だね~」
「ち、ちがうぞ!別に、祐川の家に行くから意識してしまったとかではなくてだな!」
「え~、それについてレンくんは~……って、レンくんもこういうのは弱いよね~」
俺と矢鋭咲先輩は、どうしようもない顔をしているだろう。
だって……あれこれ考えて服を選んでいる矢鋭咲先輩を想像したら、もう……
「も、もうその話はいいだろ!バカ!」
「も~。レオちゃん、口悪くなってるよ~」
「うるさい!早く本題に入るぞ!」
「しょうがないな~。ほら~、レンくんもいつまでも赤くなってないでさ~」
この見崎……こんなフワフワな笑顔をしときながら、なんて恐ろしいやつなんだ……
「ともかく、だ。
矢鋭咲先輩はすぐに、キリッとしたカッコいい先輩モードへ切り替える。
おかげさまで、俺の平常心も戻ってきた。
「私は昨日の夜、アオちゃんからのメッセージで~、明日からレンくんを好きにしていいよって言われたよ~」
「……それ、祐川の人権を完全無視していないか?」
「まあ俺は蒼と見崎に助けられている身ですから」
「それで~、アオちゃんは昨日、なにか言ってなかった~?」
「何も言ってなかった……むしろ、出かけてたおかげかわかんないけど、機嫌を直していつもより楽しそうなぐらいだったのに……」
「話を遮るようで悪いのだが……これ、もう答えは出ているのではないか?特に宮下は、大体想像がついていると思うのだが?」
「まあ~、それはそうだけど~、レンくんはまだわかってないようだし、もうちょっと話したほうがいいかな~ってさ~」
「ちょっと待て……俺には何が何だかさっぱりなんだが?」
もう二人とも既にわかっているのか?
しかも、見崎に関しては今朝からずっとわからないフリを……いや、思い返せばわかっているような素振りは出していたが……
「そんなレンくんのために、一つ質問だよ~。アオちゃんの様子が変わったのは、いつからでしょう~?」
「二日前の……学校からの帰り道か?」
「そうだ。じゃあ、祐川と祐川妹には、その前に何があった?」
「ちなみにレオちゃんは、結構知ってるから安心して答えていいよ~?」
「なんで矢鋭咲先輩に情報がいっているのか、どこまで知っているのか詳しく聞きたいのですが……」
見崎とは、周りの人には知られたくないことが結構多くあったと思うのだが。
今すごく焦っているのだが。
「それも安心しろ。『女子二人で腹を割ってお話しないな~』っとか言って私を誘ったくせに、宮下ときたら、大事な部分はすべてはぐらかしてきやがってな。恥ずかしい話は何も聞けていない」
「見崎……お前……」
「ふふふ。とにかく~、質問の答えは~?」
見崎の笑いが悪魔のように見えたのは、きっと気のせいじゃないんだろうな……
洗いざらい、言いたくないことも吐かされたであろう矢鋭咲先輩が気の毒で仕方ない。
「俺と見崎が体育倉庫に閉じ込められて、その中での一部始終を、蒼に見られたってとこか?」
「その祐川妹の目撃した、中での一部始終とやらを何度も宮下に聞いたのだがな」
矢鋭咲先輩は結構ガチめに怒ってるようで、普通に見崎を睨みつける。
「一部始終というより、ほぼ全部見てただろうね~」
そんな矢鋭咲先輩をガン無視する見崎も、なかなか肝が据わっている。
その態度にため息を一つついて、諦めたのか切り替えたのか、次の話をする矢鋭咲先輩。
「その時はまだ、祐川妹は怒っただけだった。しかしその後に、あることに思い至ってしまったのだろうな」
「てことで次の質問だよ~。ここでアオちゃんは、どんなことに思い至ったのでしょう~?ヒントは、体育倉庫の様子を見てってとこだよ~。鈍いレンくんには難しいかな~」
「本当に難しいな……」
体育倉庫でのことを見て、蒼は何に気づいたのか……
見崎と俺の関係?
いや、それはすでに知っていたか。だとすると……
あの約束の話か?
もし窓から覗いていたなら、声が聞こえていてもおかしくない……じゃあそこから何に思い至って……
『私……蓮の隣にいていいのかなって』
蒼はそう言っていた。
あの約束の話を聞いて、この発言に至ったのだとすると……そうか!
「蒼は、俺と見崎の間に入って、邪魔をしてしまったと思ったってことか?」
「せいか~い。そしてアオちゃんは、私がレンくんとアオちゃんのことを認めたって知らないんだよね~。その時、アオちゃんは門で待ってたから~」
「となると、心優しい祐川妹なら、宮下や祐川に申し訳ないと思うだろうな」
「そんなときに、親が帰ってきたから……」
「それだけじゃなくてね~。昨日の夜のレンくんも、やっちゃってたんだよね~」
「出かけたと言ったか?それは、祐川と二人でって意味だろう?」
「そうだけど……それがなんか問題だったのか?」
「アオちゃん、私と考えてることが似てるからね~。それで、見切りがついちゃったんだよ~。いつもより楽しそうだったのは、そういうことだと思うな~」
大体、蒼の思っていることが、蒼が母さんたちの家に行った理由がわかった。
でも、まだ一つ引っかかるところが一つあって……
「でもさ、ここまでの推測って全部……蒼が俺と住みたいっていう前提に元づいていないか?もし、その前提が違ったら……」
……あれ?なんか場が一瞬にして凍ったぞ?
矢鋭咲先輩は若干呆れた目で、見崎はいつも通りの笑顔で、二人ともこっちを見てくる。
「祐川……お前はまだそんなことを言っているのか……」
「ふふふ。しょうがないよ~。だってレンくんは、鈍感童貞チキン野郎だから~」
「ちょっと待ってどういうこと⁉」
というか、鈍感でチキンだから童貞なのでは……っていう話は置いといて。
「まあいい。祐川がそう言うのなら、祐川妹のところへは宮下だけで行った方がいい」
「そうだね~。その方がよさそうだね~」
「いや……さすがにそれは……」
「二人だけでないと話せないことも沢山あるのだろう?祐川が鈍感なら、なおさらな」
「レオちゃん、よくわかってるね~。それに~、私がレンくんとアオちゃんの関係を認めたってことを、レンくんから言うのもなんか変だと思わない~?」
「まあ……確かにそうだけど……」
「祐川の気持ちはわかる。不安だし、人に任せるのは申し訳ないと思っているのだろう?」
「ふふふ。なんかそれ、いつかのレオちゃんみたいだね~」
確かに、その通りかもしれない。
その上、あの時の矢鋭咲先輩には成功の確証があったが、俺にはない。その分俺はもっと悪い。
「……わかった。後は見崎に任せる。蒼のこと、よろしく頼む」
「ふふふ。レンくんは、安心して待っててね~」
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