女子中学生とハードH映画(※全年齢)

「アンドレ……だめよ、こんなのって……」

「いいだろ……クリスの体、俺によこせよ……」


 映画館の真ん中かつ後ろといういい席に、あおと並んで座る。

 そのスクリーンには、ヨーロッパ人らしき女性俳優と男性俳優の、裸体。


「ああ……そんな、強引な……」

「抵抗するなよクリス……俺に任せろ……」


 声を聞いてわかる通り、そういうシーンだ。

 女子中学生の蒼でも楽しめる映画ということで、恋愛ものをチョイスしたのだが……これが、外国製の生々しいやつで。

 そういうシーンもちゃんと描写する系の、ギリ十八禁にならないやつだったのだ。


「やっぱりダメよ……私にはジョンがいるもの……」

「あいつのことは忘れろ……今は、俺だけ見ればいい……」


 それも、不倫して、いわゆるN〇Rまでする、人間関係ぐちゃぐちゃのドロドロで鬱になりそうなやつで。


「ああ……そこは、ダメ……Ah……」

「ほら……もっと身をゆだねろ……」


 そしてついに、おっぱじめてしまう。

 そんなクリスとアンドレの会話を入れるといろいろとダメなので、このあたりで終わらせてもらう。

 もちろん、全年齢見れる映画なので大切な部分は映らないのだけど……せめて対象年齢十五歳以上のマークくらいつけてほしかったものだ。


 恐る恐る蒼の様子をうかがうも、その顔は意外にも無表情だ。

 引くでもなく、ドキドキするわけでもなく、淡々と目の前の映画を消化しているように見えた。


 まあ、蒼らしいと言えば蒼らしいんだけどさ……



***



「ごめん……まさかああいう内容とは思わず……」


 映画館の一つ下の階のレストラン街にある、少しオシャレな、けど値段は千円ちょっとと学生には優しいレストラン。

 待っている人こそいないものの、平日なのに席がほとんど埋まっているのだから、すごいと思う。


「まさかこの年にして、あんなにもアダルティな恋愛映画を見せられる日が来るとは思わなかったよ……」


 映画を見終わった後でちょっと気まずい中、「と、とりあえず夜ご飯たべない?」ということで、ここに来た。

 その後、席に座って落ち着き、まずはなった言葉はもちろん謝罪。


「俺もあんな内容の映画を見せるつもりは全くなくて……」


 そんで、次に放ったのは言い訳。

 でも、全部本当の事だよ?


「もしわざとだったられんは、女子中学生にデートでドロドロの恋愛映画を見せる変態性癖の人になっちゃうよ」


「それは言い過ぎだから!というかいろいろと間違ってるから!」


 デートとかデートとかデートとかっていう部分がね。


「それはそうとして、なんでこの映画選んだの?」

「ポスターを見る限り、ちょっと切ない恋愛モノだと思って……それなら蒼でも楽しめるかと……」


 蓋を開けてみれば、切ないどころか絶望で涙を流すことになる鬱ストーリーだったが。


「ふーん……まあいいや」

「いいんですか……?」

「蓮に悪気があったわけじゃなさそうだし。ただ、私が嫌そうにしていたことに全く気付いてなかったのはアレだけど」

「大変申し訳ございません……」


 俺がこの映画のチケットを買う時、「え、本当にこの映画にするの?……まあ、蓮がいいならいいけど……」などと言っていたことを今更思い出しても、遅いということだ。

 というか、蒼でも楽しめるってとこに完全に矛盾してるじゃん……


「蓮はあの映画を見て、どう思ったの?」

「映画の感想ってことか?」

「うん。私の感想は言わずもがなだけど、蓮はどう思ったのかなって」

「そうだな……人間の悪いとこがすごく出てて、そんな世界でも頑張って生きていこうとする登場人物たちがいいなって思ったかな」

「……」


 目を見開いて、口をちょっとあけ、驚きの表情を見せてくる。


「俺、そんな驚くようなこと言ったか?」

「いや、蓮の感想が想像以上にちゃんとしてたから……ちょっとびっくりした」

「なんか馬鹿にされてない?」

「だって、エッチなシーンのたびに私の方をチラチラ見てくるから……」

「それは勘違いだ!いや、見たのは本当だけど……」

「ほら。だからてっきり、あわよくば私に映画みたいなことしようと、この映画を選んだんだと思ってた」

「そんなわけあるか!想像してた内容と違かったから、蒼はどうしているか気になって、ちょっと様子を見ただけだから!」


 まさか、そんな勘違いをされていたとは……確かにそれだったら、まともな感想は出なかっただろうな。


「それに、妹にそんなことしたら俺犯罪者だぞ?するわけないだろ……」



「……しないの?」

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