今回、兄妹でデート。その真意は……

 平日でもそこそこ賑わう、とあるショッピングモ―ルの入り口。

 数分に一人のペースで自動ドアが開くたびに中の雑音が聞こえる。

 そんな場所の壁に寄りかかって、あおを待っていた。

 それも、制服のままで。


『私もれんも、学校から直接行った方が近いだろうし、現地集合にしない?』という連絡が昼休みに送られてきた。

 蒼の中学って寄り道していいの?そもそもスマホ持っていっていいの?とか、いろいろツッコミたくなる気持ちを抑え、制服のままここで待ち合わせることになった。


 そう、一番の問題はそこなのだ。


 ここは家からも高校からもそんなに遠くない。

 そんな場所で、制服のまま、違う制服を着る異性と二人きりで映画。

 それも相手は中学生ときた。

 もし、知り合いや顔見知りと会った日には……というか、会わなかったとしても、これは完全に放課後制服デートが成り立っている。その時点で割とアウトだ。

 私服だったら、兄妹としてただ映画を見に来たってだけですむのに、制服はちょっと意識の問題が違う。

 

 まあ、蒼のことだから、その違いに関してなんとも思っていないのだろうが。


 ブーーーーー……ブーーーー……ブーーーー……


 と、実は俺が気にしすぎているだけの思考を巡らせる中、ポケットのスマホが鳴る。

 これは誰かからの電話だ。


「母さん?なんでこんな時に」


 スマホをとりだして電話に出る。


「もしもし?」

『あ、蓮?大事な話があるんだけど、今時間ある?』

「蒼のこと待ってるから、来るまでは大丈夫だけど」

『ならよかった。蒼にも夫が電話してるから』

「蒼にも?なんで?」

『実は私たち、日本に帰ることになったのよ』

「え……」

『それで、蓮の近所に住むもうと思ってるんだけど、蓮はどうしたい?』

「どうしたいって、どういうこと?」

『私はもちろん、蓮と一緒に住みたい。けど、蓮だって今の家に住んで一年以上経つじゃない?それに、私もいつまで日本にいれるかわかんない。だから、蓮自身に決めてもらおうと思ってね』

「一緒に住むか、今の家に留まるかってことか?」

『そ。もちろんすぐにとは言わないけど。手続きもあるから、早めにね』

「そうなのか……」


 話が急すぎて、まだよくわからん。

 

 去年も一度、日本に帰ってきたことがあるが、それは一時的なもので、近くのホテルに泊まって一週間もせず行ってしまった。

 しかし引っ越すということは、何かあるまでは日本に住むということで。

 

 いや、今思うのは、そういう話ではなくて……


「蒼は……なにか言っていたか?」


 今日の朝こそ、途中から機嫌を直しているようだったが……その前までのことを、昨日のこと考えると……

 もし俺が残ったとしても、蒼は……


『蒼にも今、電話してるとこ。この後会うなら聞いてみたら?』

「ああ、そうだな。それじゃ、また連絡する」

『はーい。それじゃあねー』


 電話を切り、少し考える。


 俺は、断然今の生活の方がいいと思った。

 でもそれは、蒼がいてこその話で。

 もし、蒼があっちの家に行くと言ったら……


「蓮、お待たせ」


 制服姿の蒼が、目の前に現れる。


「ああ。それじゃ、行くか」

「うん」


 とりあえず、二人でショッピングモールに入り、映画館を目指す。


「蒼……その……」

「どうしたの?」

「……いや、なんでもない」


 聞けない。

 もしここで、俺が今の家に留まると言ったとして、蒼がそれでも母さんたちの家に行くと言ったら……

 それを想像したら、怖くて聞けない。


「あのさ、蓮」

「ん?どうした?」

「その……今はさ、いろんなこと、一旦忘れない?それでさ、映画とか、その他の事とかも……とにかく、楽しまない?」

「……ああ、そうだな!」


 蒼だって、いろいろ思うことはあるのだろう。

 昨日のこともあるし、今日の電話もある。

 

 だけど今は忘れて楽しむ。

 それが、俺にとっても蒼にとっても、一番いいのだろう。

 それを声に出してくれた蒼には、感謝しなくては。


「ところでさ、蓮って一人暮らししてたから、学校で有名人だったりしないの?」

「俺の性格的にも、多分話題になってクラスの中だけだと思うが……なんでそれを?」

「だって、私は特に兄がいるとかいないとか言ってないし、有名人でもないからいいけどさ、もし一人暮らしってことで蓮が有名人になってたら……」


 ちょっと待てよ?なんか話の流れが読めてきたような……


「顔見知りの人に会った時、中学生と制服デートしてるロリコンにならない?」

「それは思っても口に出しちゃだめだろ⁉」


 蒼自身から言われると、余計に変な意識してしまうだろ……


「まあでも、俺の事を知っている奴に会ったって、実は妹がいましたーって言えばいいだけだ。特に変な噂が立つことは無いよ」

「蓮がそう言うならいいけど……」

「というかそう思うなら制服で待ち合わせなんて言わないで欲しかったのだが……」

「えっと、だから問題がありそうだったら謝ろうかと思って」

「ああ、まあ大丈夫だ。特に問題は無い」


 俺の意識の問題は未だ健在のため、若干謝ってほしい気持ちもあるが、そんなの言えるわけがない。


 それにしても、こう見ると蒼って普通に可愛んだよな……

 胸の話はまだ中学生ということを考慮して今は考えないにしても、顔は整っているし、身長はやや低めで……


「うぐ!……」


 蒼のことを見ていると、思い出すとある不埒な記憶があって。


「蒼……すまない」

「え?なんで私謝られたの?」

「蒼のいやらしいことを思い出してしまった」

「……うん。まあ、そんなことだろうとは思ってたからいいけど」


 いかんな……制服デートをしているわけではないのに、そう思ってしまう心があるせいで、変な意識が働いてしまう……


 このお出かけは、想像していたのと違う方向で苦労しそうだ。

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