限界だった妹

 ピリリリ!ピリリリ!ピリリリ!……


 朝からうるさい音だな……耳に響いて、少しずつ目が明いてしまう。


 ピリリリ!ピリリリ!ピリリリ!……


 これ……よく聞いたことがあるな……アラームか?でも、なんでアラームが……とにかくうるさいし、止めないと。


 布団から手を出し、ごそごそ動かす。そして、手にあたったスマホを目の前までもってきて、アラームを止める。

 そうして上半身を起こしてから、いつもやっているように両手を伸ばし、大きなおくびをして、完全に目を覚ます。


 アラーム……そうなるか……


 毎朝俺を起こしていた時間に、俺のスマホでアラームが鳴らされていた。

 アラームの設定はロックを解除しなくてもできるため、あおが設定したのだろう。


「蒼、おはよう」

「おはよ」


 キッチンで洗い物をしながら、口だけそう言う。

 そのキッチンと部屋を隔てる台には、ラップのかかったおにぎりがお皿に乗っていて。


「これ……俺が食べていいのか?」

「……」


 無言でうなずく蒼。


「ありがとな」

「……」


 またもや無言。そして、無表情。やはり反応はそっけない。


 けど、蒼の優しさに感謝し、朝ごはんをいただく。

 そして、やっぱりおいしい。

 お米は少し冷めてはいるが、いい塩梅の塩がお米と合わさることで絶妙な味を出している。


 蒼がどんな気持ちでこの朝ごはんを作ったのか……どんな気持ちで、アラームを設定したのか……


『私が蓮のそばにいて、いいのかなって思った』


 思い出すのは、最後に言ったその言葉で。

 それを言った蒼が、どんな気持ちで、過ごしているのか……


「なあ蒼……今日の放課後、空いてるか?」


 そんなことを考え出したら、このままではいられなかった。

 だから、とにかく関係を戻す。そのために、蒼が今なにを思っているか、知る必要がある。


「なんで?」

「映画でも行かないか?」


 どこかに出かければ、機嫌だって少しはましになるだろう。

 それに、話を聞くいい機会になるかもしれない。そんな魂胆だ。


「……なんで?」

「一緒に行く予定だった奴が体調不良で、予約してた席が余っちゃってさ。それに、蒼と一緒に遊びに行ったことないだろ?だから、いい機会だと思ってな」

れん、ウソ下手……」


「う、ウソじゃない……よ?」


 どうせバレるとは思っていたけど、こうも一瞬だとは思っていなかったな……


「はぁ……まあいいけど。どうせ放課後はすることなかったし」

「まじか!よかった……」

「誘っておいてなんでそんなに驚いてんの……」

「いや、だって、昨日とか、今日の朝とか、なんかちょっと冷たかったし……正直、土下座くらいは覚悟してたから、意外とあっさり受け入れてくれたなーと……」

「蓮の土下座はもうそんなに高いものでもないでしょ……」

「今そこは重要じゃないから!」


 そういえば、蒼と暮らすようになってからすでに二回も土下座していた……いやだからそこは重要じゃないから。


「でも、本当に蓮はさ……私があんな態度とってても、平気な顔で映画なんて誘うんだからさ……調子、狂っちゃうよ……」

「あんな態度だからこそ、平気な顔するしかないだろ……ずっとあのままは、さすがに俺だって困る」

「……うん。相変わらず、蓮は最低のロリコンだね」


 蒼がいつもする、浅い笑顔だ。

 その内容はとても笑顔で言うようなものではないけど。


「ロリコンじゃないって何回いったら……」

「そろそろ準備しないと学校遅れるよ?」

「……ああ、そうだな」


 話をそらされた気がするが……まあこの際なんでもいいか。


「ごちそうさま。今日もうまかった。ありがとな」

「…………蓮はさぁ……」

「なんだ?」

「……ううん。別にいいや。それじゃあ今日、放課後に」

「ああ」


 蒼のやつ、もうすでに機嫌なおしてないか?

 もしかして、俺がなにかするまでもなく、時間が解決してくれたんじゃ……なんて思ったけど、もし機嫌が直ったなら好都合だ。

 なにせ、蒼がなにを思っていたのか聞きやすいからな。

 


 どうもこの日は、学校が終わるのが、いつもよりも何倍も早く感じた。

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