今、頼れる人は、

 大量の資料に囲まれた生徒会室から変わって、壁と荷物とキッチン、それにテレビに囲まれた、つまり自宅。

 丸机に並べられた夕飯を、あおとともに囲んでいるとこだ。

 当然外は暗く、電気の下である。


「……ということが今日の昼休みにあってな」

「えっと、つまり、れんはやっぱり胸が大好きな変態さんってこと?」


 蒼のこのあからさまに引いている苦笑いも、もう見慣れたもんだ。


「全然違うから!重要なのは前半だから!」

「ふーん……まあいいや」


 そして適当に全てを許すこの言葉も、聞きなれた。


「それで、蓮はその矢鋭咲先輩のことが心配だから、なんとかしたいっていうこと?」

「つまり、そういうことだ」


 俺が蒼に相談したのは、後半の、俺が見崎みさきと矢鋭咲先輩に騙されたところではなく、前半の、矢鋭咲先輩の人間関係についてだ。

 その流れで、後半のことも思わず話してしまったが。


「話を聞く限り、その先輩が嫌われるようなところは無いと思うけど」

「そこなんだよな……なんで矢鋭咲先輩が嫌われているんだって話だ。あんなに完璧で、親しみやすくて、一緒にいて楽しい人の、どこが嫌なのか……」

「……」


 薄目で、若干睨むような目で、じっと見られる。


「……なんだよ」

「別に」

「ほんとになんなんだよ……」


 なんか……ちょっとだけ、むっとしてる?


「とにかく、これは私の予想でしかないけど、その先輩は多分、完璧すぎるから嫌われちゃったんだと思うよ」

「なるほど……」


 確かに矢鋭咲先輩自身も、そんなようなことを言っていた気がする。


「それはつまり、矢鋭咲先輩にみんなが嫉妬したってことか?」

「それだけだったら、女子からしか嫌われないはず」

「じゃあ、どういう……」

「生徒会の仕事、一人でもできちゃうってことが、一番大きな問題だったんだと思うよ」

「仕事ができて、問題あるのか?」


 生徒会の仕事をこなしてくれるなど、ありがたいに違いないと思うが……


「蓮は、なんで生徒会入らなかったの?」

「え?いや、特にやる理由ないし……面倒だし……」

「じゃあ、そこであえて生徒会に入るってことは、どんな人だと思う?」

「……面倒だと思ってない人か」

「そう。生徒会の仕事を通して、学校をよくしたいとかって思う、意識の高い人たち。そういう人たちから仕事を奪っちゃうと、嫌われてもおかしくはない」

「なるほど……すごいな蒼は」


 その理屈だと、すごく辻褄があう気がする。

 完璧すぎる矢鋭咲先輩だから、優しい矢鋭咲先輩だからこその、悩み。


「多分その先輩、もともと女子からは嫉妬の対象だったと思う。そこに生徒会の人たちも加わって、その先輩を嫌う雰囲気ができちゃった。その中で、あえてその先輩に声をかける人なんて、そうそういないってことだろうね」

「やっぱ見崎はすごかったってことか……」

「たしかに宮下さんなら、そんなこと気にしなさそうだね」


 俺と同じで、部活に入ってない影響で先輩たちから矢鋭咲先輩の悪い噂をあんまり聞かないっていうのもあるだろうけど。

 それを加味しても、見崎にしかできないだろう。


「蒼、話聞いてくれて、ありがとな」

「別にいいよ。減るものじゃないから」


 こんなつまらない話を聞かされて、特に嫌がるそぶりもなく、普通に相談に乗ってくれるあたり、蒼もすごいと思う。


「あと、今日も夕飯、おいしかったぞ」

「……うん。それなら、よかった」


 なんか、蒼といると……すごく、落ち着くな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る