簡単だけど、みんなできてない。だからこそ

 その後、無事に買い物は終わり、スーパーを出る。

 まだうっすらと明るい六時十分。買った物の入ったバックを手に、あおの隣を歩く。


「なあ蒼……俺、夜ご飯作るのも手伝っていいか?」

「突然どうしたの?」

「なんというか……さすがに荷物持ちだけって言うのも、悪い気がして」

「えっと、今更そんなこと言われても反応に困るんだけど」

「そこは一旦置いといてください……」

「あー、うん。それで?」

「一人で料理ってのは自身ないけど、蒼の手伝いくらいならできるかなと思って」

「うーん……それもそう……かも……」


 なにやら困った表情だ。うーん……っと考え事をしている。


「そりゃ、蒼に邪魔だと言われたらそれまでなんだが……」

「そんなことはないよ。れんの気持ちはすごく嬉しい。けど……ね……」

「けど、なんだ?」

「これは、完全に私の自分勝手なんだけどさ、私のできることは、なるべく自分でやりたいんだよね……」

「それって、蒼にとって大変じゃないか?」

「もちろん大変だよ。いくら蓮が生活力皆無だとは言っても、流石に蓮と一緒の方が楽ではあるよ」

「おいそれ俺のことけなしてるだろ……事実だけど」


 事実とはいえ、改めて言葉にされるとちょっと傷つくよな……じゃあ改善しろって話だし、実際に改善しようとしてないのが俺なわけだが。


「それで、どうして蒼は大変な方をするんだ?」

「私さ、おばあちゃんと二人暮らしで、助けられてばっかりで。多分おばあちゃんもそのせいで体壊しちゃったんだと思う」

「そっか……それは辛いな……」

「もちろん私もお手伝いはした。でも、それ以上におばあちゃんは大変な思いしてるんだって思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいだった」


 いつもより弱々しい声で話す蒼は、それでも、次の言葉ははっきりとしていて。


「だからね……私……



 蓮がありがとうって言ってくれた時、すごく嬉しかった」



 まっすぐな笑顔を向けていて。


「助けられてばっかりの私でも、誰かのためにできることがあるって、誰かに感謝されることがあるって、わかったから」


 まっすぐに俺の目を見ていて。


「それに蓮は、心の底から感謝してくれた。私が自分の朝ご飯をつくるついでに作っただけなのに、心から喜んでくれた」


 それでいて、ほんの少しだけ恥ずかしそうで。


「そんな蓮のために、私のできることならやってあげたいと思うし、それに……

 


 そういう蓮のこと、結構好きだよ」

 


 心臓が跳ね上がる。

 そういう意味じゃない。兄妹として、一人の家族として言われている。そんなのわかっている。わかっているけど……


「……そりゃ、よかった」


 どうしても、目を反らしてしまう。


「だから、私のできることは、私がやりたいって思う。私のためにも、もちろん蓮のためにもね。でも、もし蓮がどうしてもって言うなら……」

「い、いやいやいや、俺としては断る理由はないだろ。それが蒼のためになるっていうならさ」


 まさか、蒼がそんなことを思っていたとは……正直、全くわからなかった。


「にしても、ただ感謝しているだけでなんでもしてくれるなんて、本当に俺は恵まれてるな!」

「それが、意外とできないんだよ。普通の人は」

「そうなのか?なにかしてもらって礼を言うなんて、基本だと思うが……」

「そっか……やっぱり蓮はすごいね」

「どうだかな」


 多分、たまたまだろう。蒼は境遇的に、自分の心の良さを実感できるタイミングがなく、初めてが偶然俺だったというだけの話だ。

 ほんと、運がよかったな、俺。


「そういえば、買い物はよかったのか?俺が手伝っちゃっても」

「え?ああ、えっと、なんていうか、ほら、流石に蓮もなんかしたいだろうから……」

「まさにそうだが……なんでそんなに動揺してるんだ?」

「動揺してない」

「……そうなのか?」

「もういいでしょ。早く帰ろ」

「あ、ああ……?」


 この買い物って、初めからただの買い物じゃなかったのだろうか……まさかデートではないだろうが……


 まったく、蒼が何を思っているのか、俺にはさっぱりだな。

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