俺はロリコンじゃない!

「おいあお見崎みさきになんてこと聞いてんだよ⁉」

「ふふふ。ど~してそれを私に~?」

「いや、だって、本当にれんがロリコンなら注意しとこうかと……」

「何を注意するの⁉てかロリコンじゃないって何回も言ったよね⁉」

「う~ん……ロリコンと言えばロリコンかな~」

「やっぱり……」

「いや違うから!見崎までなんてこと言ってんの!」

「でも~、違うと言えば違うかな~」

「え、そうなんですか?」

「ああ、そうだよな見崎……」


 ちょっとホッとする。余裕で十年以上の付き合いがある幼馴染に言われたら、心が折れるなんてレベルじゃない。


「レンくんは~、ロリでもお姉さんでも~、貧乳でも爆乳でだって興奮するド変態さんだから~」

「うわ……」

「適当なこと言うな!」


 また蒼にゴミを見る目で見られるだろ……

 今回に関しては、俺はゴミじゃないはず……だよね……?


「適当でもないと思うけどな~。レンくんって時々、私の胸見てるからね~」

「平然となに言ってんだよ⁉」

「蓮が否定しないってことは、やっぱりド変態……」

「ちょっと待って蒼!お前は何か勘違いをしてるぞ!」

「じゃ~、あとは頑張ってね~」

「おい待て見崎!まだお前には誤解をといて……」


 ガチャン!

 俺が声を上げて必死に手を伸ばすも、そんなのお構いなしに上機嫌の見崎はドアを閉める。


「……ねえ蓮」


 微妙に気まずそうな蒼が、微妙なトーンで呼んでくる。


「……なんだよ」


 それにつられて、微妙なトーンで返す。今にも声が爆発しそうだったけど。


「もしかしてだけどさ……私のを見てさ……興奮したり、してないよね……?」

「して……ないに……きまってんだ……ろ……」

「ならそんな弱弱しい声じゃなくて、もっと自信をもっていって欲しいんだけど?」

「仕方ないだろ⁉俺だって一般的な高校二年生なんだぞ⁉不可能ってもんがあるだろ!」


 うわー……自分で言ってて、ガチ泣きしそう。それを抑えるためにも、より声を張る。


「リアル中学生の裸なんてそう簡単に見れるもんじゃないんだよ⁉それに、あんなデカいおっぱい、意識せずにはいられないだろ‼」

「う、うん……わかったから。とりあえず泣くのはやめようよ……ちょっとキモイ……」

「クソ……クソぉ……俺だって漢なんだから仕方ないだろぉ……」


 ああ、これが噂の、ロリコンの涙ってやつなんだろうか……


 うん、いろいろと違うし誰かに怒られそうだからそういうこと言うのはやめよ。



***



「ねえ……いい加減、機嫌直してよ」


 天井照明の真下に丸机を出し、それに向かって座る午後六時半。


 あれから何回か蒼に声をかけられるも大した返事もせず、俺が制服から着替え終えたあたりで、「とりあえずここに座っといて」と言われてから三十分。

 立ち込める超家庭的かつ庶民的なカレーのにおいに包まれつつ座っていると、蒼がまたもや同じことを言ってきたので、


「しかたないだろ……」


 こんな風に、何回もしたような返事で返す。立ち込めるにおいに期待を寄せつつ。


「はぁ……じゃあこれ。食べて元気だしてってことで、今日の夜ご飯」


 エプロン姿の蒼が俺の眼前に置くのは、圧倒的安心感のあるコメとルーのコントラストを描く、庶民的カレー。


「……いただきます」


 スプーンで、コメとルーの交わるところめがけてすくい上げ、一口。


「うまい……」


 別に二口目を誘うわけでもない。めちゃくちゃに美味しいわけでもない。辛すぎるわけでもなく、甘すぎるわけでもなく。野菜も程よい硬さ。米の炊き加減もごくごく普通。

 そんな、なんの変哲もない、人生の内で百回近く食べた気のするカレーは、特にということもなく空腹と心を満たしていく。


「どう?少しは機嫌直った?」

「ああ。おかげさまで」

「……意外と蓮ってチョロいんだね」

「いやおい。ここは素直に喜んどけよ」

「まあ、それもそうなんだけどさ。そうはいってもカレーだし」

「作った本人がそれ言っちゃうか?否定はしないけどな」

「そこは否定するとこだよ。作ってもらってる人は」

「兄妹だろ?別に、気をつかう仲でもないだろ」

「でも、まだ会って二日だよ?」

「それは蒼に一番言われたくねーよ」

「たしかに」


 同じ机を囲んで、目の前のカレーを食べながら、そんな会話をして。

 二人で、ちょっとずつ、笑いあう。


「ありがとな。ほんとに元気がでた」

「まあ……うん……どういたしまして……」


 蒼は、なにか間があいていて、微妙な返事をする。

 表情も、なにか微妙な感じで。


「どうした?そんな微妙な顔して」

「いや、なんて言うか……ちょっとだけ、いいことがあったというか……」


 そっぽを向いて、人差し指でほっぺをかいて、またもや微妙な返事。


「どういうことだ?」

「いや、だって、蓮さ……自覚無いの……?」

「いや、全く何の話だか」

「ふーん……まあいいや」


 でも、そんな蒼は、その言葉で真顔に戻る。


「なんか、宮下みやしたさんも大変だね」

「え?なぜここで見崎?」

「別に」

「いや、なんだよ……」


 確かに見崎には家事とか弁当とか、苦労をかけさせただろうが、多分そういう話じゃないだろうし……


「私、先にシャワー浴びるから、食べ終わったら冷やしといて」

「ああ、わかった」


 蒼はエプロンをキッチンの壁に掛けてから、そのまま脱衣所へと向かう。


「……蒼、ちょっと待て」

「なに?」

「お前まさか……服を持たずにシャワーを浴びようなんて、してないよな?」

「……忘れてた」

「お願いだから忘れないでくれ……」

「でも蓮はロリコンだから、忘れないほうがよかったりしないの?」

「お前本当に襲うぞ⁉あとロリコンじゃないから……」

「あ、ド変態だったっけ?」

「……いいから服もって風呂入れよ」


 あんなことを言ってしまった手前、否定できないよな……

 俺はロリコンじゃない!ただしド変態。で結論づいている現実が、本当につらい。


「ごめんごめん。冗談だよ」

「……ったく」


 蒼が少しばかり見崎に毒された気がするのは、気のせいだろうか?

 

 ……気のせいであって欲しいな、マジで。

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