予測不能の幼馴染

「レンくん、おはよ~」

「おはよう、見崎みさき


 宮下見崎みやしたみさき


 くせ毛のショートに、開いているか閉じているかでいったら閉じているほどの細い目。そして、いつからそうなったのか覚えてはいないが、気づいたらそこにあった豊満な体系。

 俺と同じ高校に通う同級生にして、同じクラスのクラスメイトにして、今も昔も家が近所の幼馴染。ついでに、俺の唯一の女友達でもあったりする。


「レンくん、今日は早いんだね~」

「まあ、ちょっといろいろあってな」

「ん~……な~んか怪しい~」

「いや、別に大したことじゃないんだけど……」

「え~?ほんとに~?」

「あ、いや、大したことあるかも……」

「ふふふ。レンくんおもしろいね~」

「う……」


 なんというか、いつもフワフワしていて、つかみどころのないやつだ。


「で~、なにがあったの~?」

「ああ、昨日……」



***



「レンくん、お兄ちゃんになったの~?」

「つまり、そういうことだ」

「そっかぁ~……しかも同棲かぁ~……」



「……私はダメだったのにな……」


 

 その一瞬だけ、いつものフワフワした笑顔が消えた気もしたが、おそらく気のせいだろう。

 ……そういうことにしておく。


「そんなわけで、朝は蒼が起こしてくれたんだよ」

「アオちゃん、すごくいい子なんだね~」


 そう言う見崎は、いつもの笑顔を浮かべていた。


「まあ、いいやつだってのは否定しないんだが……」

「もしかして~、アオちゃんの裸見たの~?」

「な、なぜそれを……」

「あ、やっぱり~」


 俺は見崎のことを、半分はエスパーなんじゃないかと思っている。そのほわーっとした立ち振る舞いからは想像もできない、鋭すぎる推測をしてくるのだ。


「アオちゃんまだ中学一年生だし~、レンくんちょっと嬉しそうだったし~?」

「いや、どちらかと言えば疲れた顔してたと思うんだが……」


 少なくとも、今この場では、喜ぶなんてことはないはずなのだが。


「そっか~……レンくん、よかったね~」

「いや何が⁉」

「だって~、ほら。レンくんって、意外とむっつりだしさ~」

「そんなことは……ない……はず……」

「ふふふ。まあともかく、よかったよ~。これで私が行かなくても、健康体を維持できそうだしさ~」

「ああ、まあ、それはな」


 なんというか、表情一つ変えずにそれを言われても、反応に困るな……


「それはそうとさ~、放課後、アオちゃんに会いたいな~」

「いいけど……理由を聞いても?」

「特にといった理由はないんだけど~、レンくんの妹がどんな子なのか、見ておきたいな~ってね~」

「ああ、わかった。じゃあ学校終わったらそのまま行くか。多分、蒼の方が帰りは早いだろうしな」

「うん、よろしくね~」


 と、まあこんな話をしているうちに、もう学校の門の目の前だったりして。周りには同じ制服の生徒が何人も歩いていて、「今日の授業めんどくせー」とか、「昨日の動画みた?めっちゃおもしろくない?」とか、「矢鋭咲やえざき先輩、今日もカッコいいよな!」とかが聞こえてきて……


「ところでさ、矢鋭咲先輩って、どこにいても注目を集めててすごいよな」

「あんなにカッコいい見た目で生徒会長していたら、どうしても目立っちゃうよね~」

 

 長く伸ばされたポニーテール。鋭いまなざしを飛ばすつり目。すらっとした体形に、高身長。われらが高校の生徒会長。矢鋭咲怜央やえざきれお


「矢鋭咲先輩って、彼氏とかいるのかな」

「え~?まさかレンくん、レオちゃんのこと狙ってるの~?」

「いや、そういうわけじゃなくて……あんなに人気あるのに、いつも一人だなって」

「人気があるのは後輩からだけってウワサ、本当なのかもね~」


 確かに、部活の先輩たちはみんな嫌っているとの話を耳にすることがある。


「でも、仮にそうだとしても、後輩の取り巻きの一人や二人、いてもおかしくないと思わないか?」

「う~ん……後輩にとってレオちゃんは、遠すぎるのかもね~」

「なるほど……矢鋭咲先輩も大変そうだな」

「レンくんが話しかけてみたら~?レオちゃん、喜ぶかもよ~?」

「いや、俺なんかが話しかけても……って、そうか」

「みんな、考えてることは同じなのかもね~」


 カッコいい先輩で生徒会長……後輩一同からしたら、隣を歩く自分なんて想像すらできないのかもしれない。


「レオちゃんカッコいいのに、みんなもったいなよね~」

「……なあ、いつも思うんだが、矢鋭咲だよね?下の名前で、それもちゃん付けで呼んでいいもんなのか?それとも、既に矢鋭咲先輩と見崎って友達同士だったりするのか?」


 幼馴染である俺や、その義妹である蒼はいいとしても、一つ上の先輩で、それも生徒会長なんて……


「まさか~。私だって話したことないよ~」

「じゃあせめてちゃん付けはやめとけよ……」

「え~……じゃあさ~、今から友達になるからそれでいい~?」

「いや、え?今から?もう下駄箱だけど?」


 俺と見崎は今、ちょうど上履きに履き替えたところだ。そして矢鋭咲先輩は、三年のフロアへ行く階段を上り始めていた。つまり残された時間は、矢鋭咲先輩が二年生のフロアである二階を通り過ぎるまでの、数秒。

 駆け足で矢鋭咲先輩に駆け寄る見崎。その後を追う俺。そして、なんとか二年生のフロアの前で矢鋭咲先輩に追いつく。


「レオちゃん、おはよ~」


 見崎が周囲にいる生徒の視線を一気に集める。

 あいつ、本人にもいきなりちゃん付けとか、勇気ありすぎだろ。


「……お前は誰だ?それにその呼び方はなんだ?」


 八重咲先輩の鋭い目が、見崎の笑顔を突き刺す。が、そんな顔にも一切臆さず、いつものフワフワ笑顔を崩さない見崎。


「いや~、レオちゃんと仲良くなりたいな~ってさ~」

「仲良くだと?それにしても少し馴れ馴れしいのではないか?」

「まあまあ~、そういわずにさ~。昼休み、生徒会室に行ってもいいかな~?」

「なんなんだお前は……」

「だめかな~?それとも~、生徒会が忙しかったりする~?」

「……好きにしろ」

「ありがと~。じゃあまたあとでね~」


 すたすたと階段を上がっていく矢鋭咲先輩の背中を見つつ、自分の教室へと向かう。


「おい見崎!お前なんてことを……」

「え~?これで、お昼休みにゆっくりお話しできるよ~?レンくんも来きたら~?」

「それ以前にいきなりキレられてどーすんだよ……」

「レンくんには、レオちゃんが怒っていたように見えたの~?」

「いや、見えたもなにも怒ってただろ……」

「え~?そ~なの~?」

「お前なあ……」

「まあまあ~。とりあえずレンくんも来なよ~。きっといいことあると思うよ~?」

「まあ……一応行くけどさ……」

「じゃあ昼休みにね~」


 教室に入り、それぞれの席に座る。結局、早起きしたのはいいものの、着席した時間はいつもと変わらず、座ると同時にチャイムが鳴るのであった。


 蒼の次は、矢鋭咲先輩……次から次へと新しい人が俺の周りに現れるのは、どうしてなのか……もしかして、なにか関係があったりするのだろうか?


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