第32話 アイスワールド

反応が遅れたロロンを見逃さず右ストレートをぶち込んだ。



しかし...


≪白銀の鎧≫(アイス・アーマー)....



俺の拳が彼女の顔面に当たる数センチ前で氷の壁で止められてしまう。


ならば、



「うおおおお!!!」



連続でパンチを打ち続ける。


これが一発でもロロンの体に当たれば、肉体はただの少女と変わらない。


それでこの戦いは終わる。


だが案の定、予想通りそのすべての拳は氷の防御に阻まれた。



「無駄よ。私が武術を扱う魔術師を何人相手にしてきたと思っているの?

ただ殴っているだけでは私には勝てないわ...」



そんなことは分かっている。


だが俺の狙いは別にある。



「お前もな!俺の攻撃に防戦一方じゃねえか!

攻撃してこいよ...」



「......」



「できねえよなあ...俺に攻撃しようとしたら、その≪白銀の鎧≫の魔術を解除しないといけないもんなあ!!俺はこのまま攻撃し続けて、てめえの魔力を削りきるとするぜ!!」




全身に魔力を纏いオートで防御する。


そんな高等な魔術を永遠に展開できる筈がねえ...



その魔術を解いたが最後、俺の勝ちだ!!



そう思いながらラッシュを放ち続けた。


当然のようにすべてガードされる。



ロロンは相変わらず無表情のまま俺の攻撃を受け続けている。


顔には出さずとも、内心は焦っているに違いない...


勝利を確信したその時だった。



俺の体にとある異変を感じ始める。



(はあっはあっはあっ...)



だんだんと息遣いが荒くなっていく...


ばかな...スタミナが少なくなってきている!?...



いやそんな筈は...まだ数分しか動いていないぞ...



くそっ...


そう思った瞬間に唐突にそれは訪れた。



―――ミシィ...


俺の左拳が、ロロンの正中に当たったのだ。



「えっ?」


後方へ飛ばされるロロン。


廊下の先へ数メートル吹っ飛ばされ、床を滑っていく。



そしてロロンはゆっくりと立ち上がった。



「魔力切れ....ではないわよ...」



しまった...



すぐにその異変の正体に気が付いた。



一階のフロア全体が凍っている。


それに伴い、室温が急激に下がっている。


おそらく0度近い。



俺が攻撃している間にロロンはただ防御を続けているだけじゃなかったんだ...


周りの温度を冷却することで俺の体力を奪っていたんだ...


そして...



「その腕、もうまともに攻撃を続けられないでしょう....」



ロロンは俺の拳を指さす。


手の甲側の指の皮は剥げ、血が流れている。


また拳を握ろうとするも、うまく手が閉じない....



「あれだけ氷を殴り続けたんだもの...

指が凍傷になるのは当たり前...

それでも私をここまで吹っ飛ばすくらいの威力があったのは驚いたけど...」


≪白銀の鎧≫を解いたのはわざと...


今の俺のパンチの威力なら受けてもそこまでダメージは少ないと踏んであえて攻撃を食らい距離を取った。


体力の尽きかけている俺を今からゆっくりと料理するということか...



くそ...追い込まれていたのは俺の方だった....


ロロンは制服の誇りを丁寧に叩き、それが終わると俺の方へと歩いて来る。



「理解した....?

ジャック、彼方はもう...詰みなの...

これが最後の警告....リーア姫との契約を....」



「断る!!」



俺は力を振り絞り、大きな声を出した。


ロロンは少し動揺する表情を見せた。



「何?...寒さで頭がおかしくなったの??」



「気にいらねえ...気に入らねえな.....」



俺はここ数日のリーアを思い出していた。


ここでもし俺が倒れたら、あの真っすぐな少女が悲しむ...


知り合って少ししか経っていない、彼女の詳しい事情もよく分かっていないのに、


その表情を想像するだけで、俺の心が締めつけられた。




「リーアがどうして今まで騎士が一人もいなかったのかが分かった...

騎士になろうとする人間をこうしてお前らが数の暴力で潰してきたんだろうが!!


.....どこの国もやっていることは変わらねえんだな....


いいか!リーアはああ見えて普通の女の子なんだよ!

他の汚れ切ったプリンセス候補と違って、純粋な自分の力で国の頂点に立とうとしているんだ!それをこんな裏でコソコソと闇討ちしてくるようなお前らに俺は負けるわけにはいかねえ!!!」



俺の気迫にロロンは少し押されていた。


だがすぐに我に返り、



「そう...じゃあこれで終わりね....」



俺にとどめを刺そうと空間に魔方陣を描き、最後の攻撃を繰り出そうとしていた。

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