第27話 つまみ食いの代償
口にほおり込んだキャンディはイチゴ味。
いつも俺が好んで舐める飴は梅味の酸っぱいやつだから久しぶりに甘いやつは食べたな...
まあ、どこにでもある何の変哲もない飴だ。
魔力も感じないし、特に怪しいところはない。
どれ、もう一つくらい何か頂いていくか...
そう思ってまたお菓子の山に手を伸ばした時だった。
体育館の壁の曲がり角から一人の男子生徒がニュッと現れる。
そして目が合う。
男は俺の手の先に視線をずらし、俺が何をしようとしているのか一瞬で理解したようだ。
「お、お前...何やってんだぁ!!!」
大きな声を張り上げる。
俺もこのおやつがこの男のものだとすぐに分かった。
横幅に広い体格に、ぴちぴちに張り裂けそうな制服のボタン。
明らかに『僕、お菓子大好きです!』と体現してると言わんばかりのフォルム。
「この泥棒!僕のお菓子を盗みやがって...許さんぞ!...ぶっ殺してやる....」
食べ物の恨みは恐ろしいというが、まさかここまでの怒りをぶつけられるとは予想外だ。
正直この男の言うとおり、俺はここにあるお菓子を食べてたから怒られるのは当然そうなのだが、無益な争いは好まない...
しょうがない、嘘やブラフは俺の専売特許だ。
この男の誤解を今から解いてやろう。
「これを見ろ!」
俺はリーアから貰った風紀委員の腕章を見せた。
「俺は風紀委員だ。たった今この辺りの見回りをしていたところさ。
そしたら見ろ、こんなところに怪しいお菓子の山があるじゃないか!
風紀委員として怪しいところが無いかしっかり確認する必要がある。だから調べていただけだ!盗もうだとかそういう考えは俺にはないよ...」
すると、彼の熱が徐々に引いていくのを感じた。
「そうだったのか...僕、お菓子のことになるとつい周りが見えなくなってしまって...」
「いやいや、いいんだ。こちらこそ誤解を与えてしまったな。すまない。
調べてみたところ特に怪しいところは無さそうだ。3時の休憩を邪魔して悪かったな。それじゃあごゆっくり...」
そう言い残し、俺はそこを立ち去ろうとした。
「.......ちょっと待って...」
彼に呼び止められる。
「まだ何か...?」
男は、鬼のような形相で手に握っているそれを見せてきた。
そこにあるのは、
イチゴミルク味
と書いてある飴の包み紙だった。
「お前...僕のお菓子を食べたのか??....」
空気がだんだん張りつめているのを感じる。
あ、ヤバイ...
「.....検閲だよ」
「検閲ぅ??」
「そう、検閲!やっぱり食べてみないと本当に危なくないか分からないからな!一つだけ拝借させてもらった。だから、」
「死ねぇ!!」
いきなりグーパンで殴りかかってきた。
「うわぁぁ!」
ビックリした俺はそれを避ける。
「なんだよ、キャンディ一つでそんなに怒らなくても」
「キャンディ一つだと...」
男のボルテージがさらに上がるのを感じる。
「お前僕にしてはならないことをした...
僕がこの世で何より許せないのはなぁ....
僕のおやつを無断で盗む大馬鹿野郎のことだぁぁぁ!!!!」
ダメだ、説得に失敗した。
これは手が付けられそうにない。
俺は仕方なく構えを取るのだった。
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