白昼夢の海

青空一星

白露夢

なみの音は聞こえない。乳色ちちいろの海は悠然ゆうぜんと広がっている、きっとすくえばとろりとこぼれるだろう。

私は一人、砂浜すなはますわり、その海をながめていた。


 いつからこうしていたのだろう。空は真昼まひるの、くもの形さえけた白い空だ。太陽も月も青さえもおおわれて、光は空気にうっすらとただよっている。

 寝転ねころぶ砂浜はさらりとしていて、はだにこびり付かない親切しんせつなものだった。座っては寝転んで、寝転んでは見上げて、見上げては目を閉じて、目を開けたら海を眺める。

 うつせになり、顔を少しだけ上げて、大の字を裏返うらがえしたまま、かめよりもゆっくり、ゆっくりと乳の海へっていく。そこに何か考えがあったわけではないし、ずっとそうしてきたから、きっとくせになっていたのだろう。

 あと1メートルのところまでくと、少し遠くの砂浜から一頭の白いぞうあるいて来るのが見えた。その体は大きいけれど、足音は砂がしゃりしゃりと聞こえるだけで、あまり重々おもおもしさを感じさせない優雅ゆうがさがあった。

 白い象はわたしの所まで来ると、おなかの下からその長いはなを回してきた。木のみきみたいにゴツゴツした大人の鼻ではなく、まだ子どもの、しなやかでやさしい感触かんしょく、それはまるで絨毯じゅうたんつつまれているようで心地ここちよかった。そのまま私はち上げられて、その子の背中せなかせてもらった。

 背中の上はまだ不安定ふあんていだ。けれど、少したよりたくなるほどあたたかかった。白い象はそれ以上いじょう歩くことはなく、そこにとどまった。白い象だなんて少し他人行儀たにんぎょうぎだ、アイラーヴァタとばせてほしい。


 ここには神々もアスラもいない。大亀はねむりについて、私に判断はんだんゆだねてくれた。雲が空にふたをしてくれたから、太陽と月が私をかすこともない。「ありがとう」と背中をでると、アイラーヴァタはゆっくりと鼻を上げて返事へんじをした。

 背中の上で仰向あおむけになって、今はうごかない白を見る。「やっぱり、風があったほうがきみたい」そう言ってゆっくりき上がると、アイラーヴァタは少しかなしそうにいた。


 トントンとかる合図あいずをして背中から下ろしてもらった。ゆーっくりとしーっかり背伸せのびをして、アイラーヴァタの足を撫でる、アイラーヴァタは鼻で頭を撫でてくれた。

「それじゃあ行ってくるね」


 乳の海に向かって歩き出す。この先には何がっているのだろう。一歩、二歩とすすませた先、私の右腕みぎうでにはアイラーヴァタの鼻がき付けられていた。

「アイラーヴァタ?」


 アイラーヴァタを見ると、その目はとてもやさしくて……あの子の言葉が頭をよぎった。

「でも私はアムリタ不老不死の霊薬さがさないと、そのためにこの海をつくったんだから」


 アイラーヴァタはそれでもはなしてくれない。ついには私をせて、物顔ものがおで座ってしまった。鼻に包まれてけ出せそうにない。アイラーヴァタはそれから何も言わなくなった。


 ここまでされたら、しょうがない。

「わかった。今日きょうはもう、やすむことにするよ」






まどそとからかぜ

昼下ひるさがりのリビングで

うすくあたたかい絨毯じゅうたんうえ

ゆったりと

白露しらつゆゆめ

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