第14話 回想5

プロポーズから半年。僕達は新生活に向けて大忙しだった。

 僕は二人暮らしのための新居探しに奔走し、恵美は県庁を退職し、僕の地元の市の職員に転職を決めた。

 ようやく新居も見つかり、恵美は翌日の荷物到着の前日に一足早く僕の元に到着した。

 僕達はまだ荷解きもほどほどに新居で細やかに晩酌することにした。

 買ってきたおつまみと缶ビールをお供にたわいも無い話から今後の話まで大いに盛り上がった。

 ひとしきり盛り上がった後はお互い眠気に襲われたので、布団だけ敷いて横たわった。

 次に気付いたのはインターホンの音でだった。

 慌てて対応し、荷物を運んでもらった。

 引越し業者が帰り、再び僕達はダラダラし始めたため、荷解きはあまり進まなかった。

 そうこうしているうちに夕方となり、空がオレンジに染まり始めた。

 「もう夜になるね。ご飯どうしようか。」

 「作るのも面倒だし、外で食べよう。」

 「よし、焼肉行くか。」

 「賛成!」

 僕達は自宅からほど近い焼肉屋に向かった。

 恵美はビールで乾杯した。僕はお茶にした。お肉は互いにたらふく食べた。

 店を出たが、まだ九時。

 「どうする?もう帰ろっか?」

 「俺が運転するからさ、ちょっと連れて行きたい場所があるんだけどいい?」

 「?いいけど。どこ行くの?」

 「それは秘密。でも穴場な場所だよ。」

 「何それ。」

 恵美は苦笑いしながらも車に乗り込んだ。

 車で二十分程走った先に目的地がある。

 目的地付近に車を停め、車を降りた。辺りは真っ暗だが不思議とルートは完璧に覚えていた。

 「ホントにここなの?何か怖いな。」

 「大丈夫、俺がついてるよ。」

 「ハイハイ」

 半分枯れた草むらにポツンとある階段を登って行った先に、目的地があった。

 「あった、ここだ。子供の頃に作った秘密基地。」

 広さは畳一畳程で、床面には青い細目のネットが敷き詰められていて、自作の木製ベンチが残っていた。最も、ベンチはニスが塗られていて、暗い中でも茶色い光沢を放っていた。恐らく叔父さんが塗ってくれたんだろう。

 「秘密基地?」

 「うん、実はこの小山は叔父さんの畑でさ。その中にこの秘密基地を作ったんだ。」

 「そうなんだ。でもなんで作ろうと思ったの?」

 「それは、このベンチに座ったら分かるよ。」

 僕達は小さなベンチに腰掛けた。

 「わぁすごい。何て綺麗な景色なの。」

 僕達の眼前には夜の平野が広がっていた。建物や車の光で程良く照らされている。まさにプロポーズの時に見た夜空のようだった。

 恵美は眼前の景色に見惚れ、言葉を失っていた。

 暫くして恵美が僕の右肩に頭を傾けた。

 「ありがとう。こんな綺麗な景色が見れたのは健ちゃんのおかげだよ。」

 「うん、恵美ちゃんも気に入ると思って。」

 「また見に来ようね。」

 僕は黙って頷くと、彼女と唇を重ねた。

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