第7話 甘い罠

お酒や少々のおつまみを購入し、さつきちゃん宅のインターホンを押した。

 一分程でさつきちゃんがドアを開け、招き入れてくれた。

 さつきちゃん宅は、ふんわりと甘い香りがした。さつきちゃんは上下スウェットの出立にスッピンだった。無論、スッピンでも僕の好きな顔だ。

 リビングのテーブルに買い込んだお酒やおつまみを並べながら待っていると、さつきちゃんが手料理を持って来た。牛すじ煮込みにたこわさだった。

 「口に合うか分からないけど、お酒には合うから。」

 「ありがとう、凄く美味しそうだよ。」

 宴の準備が整ったので乾杯の時間だ。

 「カンパーイ!今日は来てくれてありがとう!」

 「こちらこそありがとう!」

 缶ビールを喉に突き刺した。美味い!さつきちゃんも同じことを考えているのだろう。両目を閉じてクワーっと囁いていた。

 「やっぱりビールは最高!」

 「いいよねービール。」

 続いて牛すじ煮込みを頬張る。美味い。ほろほろとした牛すじに甘辛いタレがベストマッチしている。

 「美味しかった?」

 「うん、最高。さつきちゃんが作ってくれたと考えたら尚良し。」

 「えへへ、東くんに褒められると嬉しい。」

 どういう意味だ?もしかして僕のことが好きなのか?僕のことはタイプだとは言ってくれてたが…やっぱりこの前言い掛けたさつきちゃんの言葉の続きを聞いた方が良いな。

 意を決した僕が話しかけるよりも先にさつきちゃんが話し始めた。

 「東くん、この前送ってもらった時に言い掛けたことあったじゃん?実はさ、私東くんのこと好きだったんだよね。」

 「え、マジで?」

 「…うん。でも東くんその時もう奥さんと付き合ってたじゃん?だから忘れようと思ってた。」

 何となく予感はしていたけど、いざ言われると心臓の高鳴りが強くなっていくのが分かった。

 「もちろんさ、今は東くん結婚しているし、家庭を壊したくない。ましてや不倫なんてもっての外。でも市役所辞めたらもう会えないって考えたら寂しくて。」

 さつきちゃんは話しながら目を潤ませていた。僕の顔を見上げるさつきちゃんの姿に心が揺れに揺れた。

 「ありがとう。僕もさつきちゃんのことは好きだったよ。…でも、やっぱり家庭を大事にしたいよ。」

 「やっぱりそうだよね、分かってる。でも最後に今晩は泊まってくれる?」

 確かに今日くらいしかさつきちゃんと長く過ごせるタイミングはない。もっと言えば、恵美との関係性はほぼほぼ破綻している。離婚して、さつきちゃんと一緒になれればどんなに幸せだろうか。

 僕は、さつきちゃんを抱きしめた。さつきちゃんも僕にしがみつくように抱き返してきた。

 さつきちゃんの香りがジワジワと僕の理性を侵食し、本能を剥き出しにさせた。

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