第6話 誘惑
翌朝、LINEの受信音で目が覚めた。
寝ぼけ眼を擦りながら画面に焦点を合わせた。大野からだ。
「お疲れ。実は金曜日出張で新潟に行くんだが、折角だから土日に帰省しようと思ってて。もし恵美さんさえ良ければ金曜日泊めてくれんか?メシとかは奢るからさ。」
「良いね。一回恵美に聞いてみるわ。」
大野からの提案を受けて、恵美に連絡を入れた。
「おはよう。さっき大野くんから連絡あってさ、土日に仕事終わりで帰省するから金曜日だけ泊めてくれないかって言われたんだけどいい?ご飯は奢ってくれるみたいだけど。」
五分経ったが既読にならなかったので、シャワーを浴びることにした。
昨晩の酒がまだ残っている感覚があり、気持ち悪かったが、シャワーを浴びているうちに回復してきた。
リビングに戻ると恵美から返信が来た。
「分かった。お店どうする?家から近い方が良いよね?」
「うーん、それか駅前にしようか。居酒屋何軒かあるし。」
「分かった。じゃあ予約とか任せるわ。」
大野のおかげで久しぶりに建設的にコミュニケーションが取れた。大野に感謝せねば。
「恵美が良いよって言ってた。お店は此方で予約しておくから。駅前の居酒屋で良いね?」
「了解。恵美さんに宜しく!」
大野とのやり取りを終えたので、皿洗いと朝食の準備に没頭した。
朝食を食べ終え、少しボーッとしてから、今日は何をしようか考えを巡らせた。恵美は日曜の夕方に帰って来る。時間もあるし、パチンコでも行くか。
ジャージに着替え、散歩がてら外に出た。
外は晴れ渡っていて、空を見上げれば濃い水色で、雲の白色とのコントラストが抜群だった。散歩日和だなーこのまま散歩を続けようかなと考えたが、僕にとってはパチンコ屋の爆音の方が遥かに美しい。迷う事なくパチンコ屋に歩を進めた。
道中、小洒落たカフェを通りがかった。もう少しで開店みたいだ。こんな格好じゃ入れないし、何より女性ばかりだから普段から縁遠い。
店内をガラス越しに一瞥し、再び真っ直ぐ歩き出した時、遠くから見覚えのある米粒が視界に入った。
米粒は次第に人の形に変化し、近づく度に顔などもはっきり見えた。
次の瞬間、僕は自然と顔を伏せた。見覚えのある米粒の正体は実はさつきちゃんだったからだ。気付かれていないだろうか。ジャージ姿を観られて幻滅されたら嫌だった。
どうか気付きませんように。目を伏せたままさつきちゃんの横を通り過ぎようとしたが、背後から声を掛けられてしまった。
「東くん?」
「えっあっどうも。」
「ジャージ姿だけど何してるの?散歩?」
「あっああ、そんな感じ。」
さつきちゃんは怪訝な表情だった。受け答えが変だったからだろう。
「えっと、じゃあ散歩の続きあるからここで。」
とにかくこの場面から離れたかったので、話もそこそこに足早に立ち去った。
無事に?パチンコ屋に到着し、一時間程楽しんだ後、帰路についた。
道中、LINEを確認すると、さつきちゃんから連絡が入っていた。
「東くんさっきは急いでいたのにごめんね。もうお家かな?」
僕は慌てて返信した。
「ごめん今見たよ!今帰って来たとこ!さつきちゃんもお家かな?」
直ぐに既読になり、電話が掛かってきた。
「もしもし。今電話しても大丈夫?」
「いいよ。今日奥さんは帰省でいないよ。」
「えっ…もし良かったら一緒にご飯食べたいんだけど。」
「全然いいよ。何食べたい?」
「あの…折角近所だし、宅飲みなんてどうかな?」
「いいよ。お酒とかは買っておくね。」
「いや、もし良かったらお家来る?」
「ああ、そうしようか。じゃあお酒は買って行くわ!」
お家に誘われた…まだ真意は計りかねるが、大人の女が男を家に招くということは…?うん、期待し過ぎるのは止めよう。後でショックが倍増するからね。そもそも繰り返しになるが、僕は既婚者だ。何もしないに決まっているし、さつきちゃんも流石に分かっているはずだ。
自分の中の欲深い部分を落ち着かせながら支度を済ませ、買い出しに向かった。
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