第5話 葛藤

程なくして、運転代行が到着し、車内に乗り込んだ。

 リブレでは周りが騒がしかったこともありあまり感じなかったが、落ち着いた場所で二人きりになるとさつきちゃんの香水の甘い香りも相まって色気が爆発しているのが分かった。

 暫くは探り合っているかのように沈黙が続いていた。その沈黙は、さつきちゃんによって突然破られた。

 「東くん、結婚する前に私が告ってたらどうしてた?」

 「えっ…」

 あまりにも突然のカミングアウトに、返事が出来ずに吃っていると、さつきちゃんの顔が僕の顔に近付いて来た。

 「ねぇ、何で教えてくれないの?私東君のことがタイプだったんだけど?」

 「ホントに?全然気付けなかった。正直に言うと僕もさつきちゃんのことは可愛いと思ってたよ。」

 「えへへ。両想いだね。」

 「どうしたの急に。揶揄ってるの?」

 「別にそんなことない。ただ…」

 その時、さつきちゃんの家の前に車が停車した。

 「あっ到着したみたいだね。今日はありがとう。…また連絡してもいいかな?」

 「うん、全然良いよ。お疲れ様。」

 結局肝心な部分が聞けなかった。めちゃくちゃ気になる。

 程なくして車が自宅の前に停まった。

 室内に戻り、携帯を開くと、恵美からLINEを受信していた。

 「飲み会終わった?家事結構残っているからやっといて。」

 室内を見渡すと、確かに服が乱雑に置かれていたり、キッチンには洗い残しの食器が積まれていたりした。

 先程までの刺激的な空間から、一気に現実へと引き戻された。

 大きく溜息を吐きながら、服から片付けることにした。

 片付けている間も、さつきちゃんが言い掛けた言葉が気になり、捗らなかった。もしかして僕のことが好きだったのか…?もし本当ならば悔し過ぎる。とは言ってももうさつきちゃんと出会った頃は恵美と付き合ってるから期待や後悔したところでの話なのだが。

 服を片付け終えた頃、さつきちゃんからLINEが入った。

 「今日はありがとねー。またご飯とか行きたいな。でも奥さんにも悪いし無理しないでね。」

 僕は飛びつく様に返信した。

 「お疲れ様ー。最高に楽しかった!またご飯行きたいね。」

 結局さつきちゃんが言い掛けた言葉を聞く勇気が持てなかった。

 意気消沈したからなのか、単純に疲れていたからなのかは分からないが、一気に眠気が襲って来た。

 鉛のように重たくなった体を無理矢理立たせながら、寝室に向かった。シャワーはまた明日にしよう。

 ベッドに何とか辿り着くと、死んだように眠りに落ちた。

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