第4話 さつき
金曜日。この日は仕事の調子も快調で、午前には今日のノルマを終えた。そして、昼には退勤した。残業で遅くなることを見越して半休を取ったのだ。
帰宅後、長めに入浴し、丁寧に身支度をし、仕上げにお気に入りの香水を振り撒いて出発した。
リブレに少し早めに到着し、店内の座席に腰掛けてメンバーの到着を待った。
五分もしないうちに長南が合流した。
「健二郎、香水キツイぞ。気合い入り過ぎ。」
「いやいや、久しぶりだしね。」
「既婚者だろ?まあいいけど。」
長南は呆れた様に笑った。
二人で普段の愚痴を言い合っているうちに、続々と同期達が集まって来た。
「大分集まって来たなー。後はさつきちゃんと石垣だけ?」
「石垣は今日来れないって。別にアイツの部署今忙しく無いんだけどな。」
「ああー。」
僕と長南はそれ以上言葉を交わすことなく、頷き合った。石垣とさつきは一時期付き合っていたが、大分前に別れていた。
「みんなごめーん。遅くなっちゃった。」
本日の主役が現れた。セミロングの黒髪に紺色のブラウスの彼女は、職場での地味な印象とはかけ離れて大人の色気を纏っていた。
さつきは僕の席からは対角線の位置で離れた席に座った。
「今日はお疲れ様でーす。今月でさつきちゃんが退職するんで、みんなに集まってもらいました。楽しい席にしてさつきちゃんを送り出しましょう。カンパーイ。」
みんなで一斉にビールで喉を鳴らした。美味い。仕事終わりのビールは世界一美味いのではないか。
次々と運ばれて来る料理に舌鼓を打ちながら、同期達と盛り上がった。普段会わなくなった同期もそれなりにいるので、新鮮な気持ちになった。
大分酔いが回って来た頃、さつきちゃんが僕の隣に座って来た。
「東くんお疲れ。大分酔ってる?」
「うん、大分楽しくなってきた。さつきちゃんも結構酔ってるね。頬が赤いよ。」
「えへへ、すぐ酔っ払っちゃうんだ。」
両肘をテーブルに付け、両手で頬を抑えたさつきちゃんはやっぱり可愛い。いや可愛すぎる。
ドキドキを悟られまいと一旦料理を頬張った。
「そう言えばさつきちゃん何で辞めちゃうの?」
「えっとねー。実は友達が起業することになって。それで私も手伝ってくれないかって話になって。」
「そうなんだ。何系のお仕事?」
「IT系なんだけど、経理をやってくれないかって。今も経理じゃん?だから実務経験があって信頼できる人に任せたいらしい。」
「すごいななんか。」
「まあ、軌道に乗るまでは暫く収入はあまり無いけど、迷ったらワクワクする方を選ぼうってなったの。」
「尊敬するわ。頑張ってね。」
「うん。てかさ、折角だからLINE交換しよ。」
僕は内心ガッツポーズを決めながら、平静を装って交換した。
送別会がお開きになり、運転代行を呼び、待っていると、後ろから肩を叩かれた。
「代行呼んだの?」
振り返るとさつきちゃんニコニコして立っていた。
「え?さつきちゃん今日どうやって来たの?」
「ちょっとバタバタしてたのもあって、タクシーで来たの。東くん家はどの方面?」
「大塚の辺りだよ。」
「え、めっちゃ近いじゃん。…一緒に乗って行ってもいい?」
「全然良いよ。」
「わぁ助かるありがとう。代行のお金は半分出すね。」
「いやいや、いいよこれくらい。」
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