第2話 プロローグ2

自宅に入り、靴を脱ごうとした時、その手が直ぐにストップした。

 眼前にある階段が僕の洗濯物や書類で溢れていたからだ。

 また恵美の仕業なのは分かったが、いつもと違い沸々と頭に血が昇るのが分かった。晩酌を邪魔されたからだろうか。

 僕は白くなった階段を踏み抜きながら階段に向かった。

 寝室で寝ている恵美の顔はいつも通り柔和な笑みを湛えていた。以前は愛おしく感じる顔も、今日は憎たらしさしか感じなかった。

 寝ている恵美の肩を強く叩いて強引に起こした。

 「おい、何だあれは。いい加減にしろよ。」

 「は、なんであんたなんかに言われなければならないの?」

 「は?」

 「何も分かっていない。前からお願いしていること何も守っていない。服は脱ぎっぱなし、食器も片付けない。何から何までだらしない。ホント気持ち悪い。そのくせ全然喋ってくれない。私群馬からここまで来て独りぼっちなの分かる?分からないよね、あんたなんかに分かるわけ無い。」

 恵美の瞳は潤み、今にも頬に溢れ落ちそうになっていた。

 あまりの恵美の剣幕に圧倒され、僕は金縛りに遭ったように固まってしまった。

 「ほらいつものパターン。黙ってやり過ごそうとするやつ。何か言えよ。」

 尚も固まっていると、恵美は此方に背を向けながら布団に潜り込んだ。

 自覚はあるけど、どうしても出来ない。甘えなのかな。

 考え込んでいるうちに目が冴えてきたので、リビングに引き返した。

 リビングに戻り、買っておいたビールを飲み、おつまみを食べても尚モヤモヤは晴れなかった。

 テレビを点けてボーッとしていると、LINEを受信音が鳴った。

 画面に目を向けると、送り主は大野だった。大野は中学の同級生で、今は山形と大阪で距離は離れているが、今でも連絡を取り合う数少ない友人だ。

 「健二郎、聞いてくれ。また嫁さんと喧嘩してしまったよ。」

 大野も結婚しているが、喧嘩が絶えないようで、しょっちゅう愚痴ってくる。でも今日は僕の方が愚痴りたい。

 「またか。今度は何で揉めたんだよ?てか、むしろ今日は此方が愚痴りたいのよ!」

 「え?何があったん?」

 「俺もガッツリ恵美ちゃんと喧嘩してさ。と言うより前からずっと仲悪いんだわ。」

 「え?初めて聞いたわ。言えよ。」

 「中々言えないもんよ。結婚して恵美ちゃんが引っ越してきてからそんな感じです。」

 「お友達とか出来なかったんか?」

 「さあ、会話もあんまりないからな。」

 「何でよ?お前忙しいんか?」

 「ああ。今年から病院勤務だからね。それに今年は例の感染症のこともあるから日を跨がないと帰れないのよ。」

 「マジぃ?ヤバすぎやん!体調はどうなん?」

 「まぁ、今のところは平気だわ。」

 「そっか。んー。まぁ、今は我慢やね。でもどっかでコミュニケーションは取らなな。」

 「ありがと。ところで、お前は何で揉めたんだよ?」

 「あぁ、そうそう。それがさ…」

 こんな調子で大野とのやり取りを進めていくうちに幾分か気は晴れた。

 さて、寝るか。…でも寝室上がりたくないな。

 床にシーツを積み重ねて、リビングに横になった。疲れていたのか、直ぐに視界はぼやけていった。

 

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