まごつき

@agmcanar

第1話 プロローグ

はぁ〜。僕は大きく溜息をついてしまった。床に落ちている洋服を睡魔と格闘しながら拾う。自分で落とした訳では無い。妻の恵美の仕業だ。ここ数ヶ月はほぼ毎日こんな調子だ。恵美が言うには、僕はだらしない、コミュニケーションが足りないなど、嫌な部分が目につくらしい。言われる通り、だらしない部分も確かにあるかもしれない。でも、毎日の激務で疲れ果てているし、帰って来たらもう寝ているからだらしなくもなるしコミュニケーションなど取りようも無い。って言ったら言い訳か。

 どこか釈然としないまま洋服を全て拾い上げ、箪笥に掛け直した。

 明日また謝るか。そんなことを考えながら浴室に向かった。


浴室で体を洗い、湯船に浸かりながら、恵美との出会いを思い出した。

 恵美は大学の一年後輩で、大学で知り合った。出会った頃はこんなに気の合う子はいないと思っていたのに。

 考え過ぎたのか、いつの間にやらすっかりのぼせ上がってしまった。

 クラクラする身体を気力で支えながら、脱衣所に辿り着いた。

 髪を乾かしながら、考え過ぎは良く無いと気持ちを切り替えた。

 寝室に入ると、恵美はあれだけ服を荒らすとは思えないほど柔和な表情で眠っていた。僕にはその表情が恐ろしさを増幅させた。

 布団に入ると、先程迄の葛藤など嘘かのように意識が遠のいていった。


翌朝、小鳥の囀りで目を覚ますと、既に恵美の姿は無かった。僕と恵美は互いに僕の地元の市役所に勤務しているが、早めに家を出たようだ。

 リビングの机には、冷めたトーストとマーガリンが置かれていた。僕達の関係を示すようなトーストを熱々のコーヒーで流し込み、サッサと着替えて僕も家を出た。


いつものルートを進み、市役所に到着…といっても今の職場は此処では無く、もう少し進んだ先の市立病院だ。市立病院だからか、医者でも看護師でも無い僕は病院に足を運んで事務作業に従事するのである。

 いそいそと業務に勤しんでいると、度々看護師達のヒソヒソ話が耳に入って来る。イケメンの患者さんの話でキャッキャしていたり、面倒な患者さんの愚痴であったり。

 大変そうだなと聞き流しながら尚も業務を進めていくが、中々終わりが見えない。それもそうだ。昨今は世界的に猛威を振るう感染症の影響で大忙し。事務作業も相応に積み重なっているのだ。

 今日も帰りは日を跨ぐなぁ…一応恵美にも連絡するか。

 夜食を摘みながら恵美にLINEすると、秒で返信が来た。

 「あっそ。勝手にしてください。」

 定型文のように見慣れた返信だから特にどうってことないが、一々苛立つ返信だ。

 直ぐに携帯を置き、夜食を食べ終えると、急いで事務所に戻った。

 その後も淡々と作業し、なんとか日を跨いで直ぐのタイミングで業務を終えた。

 翌日は休みだったので、ビールとおつまみを買い、帰路に就いた。

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