第39話 ステージ
歓声と拍手は舞台袖に戻っても鳴り止まなかった。
「ありがとう」
大熱狂のステージ袖で私にしか届かない声で、マナちゃんが言った。
拍手を貰いながら控え室に戻ると、ルルメゾの担当者の方からこのステージに関わってくれた全ての人がマナちゃんと私を盛大に出迎えてくれた。
それぞれが労い合って、記念写真を撮ったりとヘアメイクが始まってからここまで本当にあっという間に過ぎていった。
このステージに向けて、髪色を明るくしただけでなく、ゆーにゃのトレードマークだった重く目の上ギリギリに真っ直ぐかかる前髪を切った。
重さを無くし、眉にかかるかかからないかの前髪の視界は良好でステージの照明が一層明るく感じられ沢山の人の笑顔をよく見る事が出来た。
マナちゃんがプロデュースしたステージのコンセプトは“新しい私、なりたい私”だった。
ありきたりなコンセプトだと陰口も沢山言われた様だけれど、結果は今この瞬間に成功したと実感出来ているのではないかと思う。
昨日の夜、私が「新しいゆーにゃになって、なりたい自分を叶えたい」と語る動画を投稿した事もショーの注目度を更に上げる事に貢献出来た様だ。
会場入りの時に廊下で社長も言っていたけれど、多くの人がマナちゃんがプロデュースしたこのステージに私が出る事を楽しみにしてくれたし、とても楽しんでもらう事が出来たと思う。
ようやく一息つく頃には、今度はみんながみんな反響を確認するのに夢中になった。
ついさっき終わったばかりのステージについて既にSNSだけでなくネットニュースも投稿されネットには多くの反響が溢れている。
『日本で一番有名なインフルエンサーのマナティが、全ての人への応援のメッセージを込めたステージで一番大きな歓声を浴びた親友のゆーにゃ』
『マナゆにゃの親友コンビが全力で発信した新しい私達』
『低迷が続くアパレル業界で勝ち星を上げたルルメゾが社運を託したのは10代の女の子』
プレスに向けて公開されていたリハの内容を元に既に記事を書いておいたのだろうか、既にいくつも記事が投稿されている。
『プロデューサーとして新しい挑戦をしたマナティが親友のゆーにゃの夢を応援してるよって感じの演出最高だった』
『二人のことずっと推していきたい』
『生マナゆにゃ、可愛過ぎて天使か女神かと思った』
『普段の投稿で気がついてはいたけど、本物が奇跡の可愛さだった』
『二人の友情を感じて感動した』
『良い物や求められる物以上に大切なストーリーの付加価値か…』
記事に付いたコメントを社長がいつもの調子で読み上げているのを聞きながら自分のスマホでもチェックした。
グランドフィナーレまでの時間も完全な待機や休憩ではなくて、自分のSNS用はもちろん、インフルエンサー同士のショート動画コラボの撮影があったりと案外忙しく予定が詰まっている。
「ゆーにゃちゃーん、髪一旦解いちゃいましょー」
「はーい」
複雑にセットされた髪を解いてもらうと、何か重たい物が乗っていたのかと錯覚するくらい頭が軽くなった。
「この後ショートの撮影の間は緩めのスタイリングにしておいて、フィナーレ用のヘアメイクに入ったら、またしっかりセットにしましょーね」
そう言いながら手早く頭が楽なセットをしてくれた。
「楽だけど、やっぱりマコさんがセットしてくれると可愛い」
「そりゃぁそぉよ! 超人気ヘアメイキャップアーティストだからねー」
椅子から立ち上がる瞬間、控え室の中にマナちゃんがいない事に気が付いた。
思い返してみれば随分と前から居なかったのかもしれない。
颯さんはモニターの会場中継映像を観ながらリョウさんと雑談している。
ルルメゾの担当者と一緒? いや、ずっと張り付いているドキュメンタリーのカメラマンさんが休憩をとっている。
(胸騒ぎがする…凄く嫌な感じ…)
あと10分もしたらショート動画のコラボ相手がこの控え室に来る。
「あの、マナちゃんどこですか?」
颯さんも居ない事に気が付いていなかった様で直ぐに電話を架けたけれど繋がらない様で、メッセージを打ち始めた。
私もマナちゃんにメッセージを打った。
普段なら秒で既読が付くのにその気配を全く感じられなかった。
「ゆーにゃ、マナティは私と颯さんで探すから、コラボ動画の撮影に集中しなさい」
落ち着かない私にリョウさんはそう言ってマコさんにマナちゃんが戻ったら連絡をして欲しいと伝えて颯さんと控え室を出た。
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