第36話 これから

「それじゃぁ、再確認するわよ? 画面見て」

 社長はやや不機嫌ではあるが了承する構えで言った。


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 【ゆーにゃの今後の活動について】


 ◎動画チャンネル

 ・既に決まっている案件とコラボは完走する

 ・新規案件とコラボは受けない

 ・ショートの動画は会員限定のみ

 ・主な動画の企画は“ゆーにゃ大学合格を目指す”のみ


 ◎会員限定サービス

 ・従来のショートの動画の企画内容を集約

 ・大学合格企画以外のプチ企画は時々行う

 ・月に1度はライブ配信


 ◎各種SNS

 ・更新頻度は下げるが従来通りの運用


 ◎その他

 ・TVの新規出演依頼は全て断る

 ・モデル業やそれに伴うイベント等はルルメゾのみ

 ・音楽活動は見送り

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「ゆーにゃも4月には高校2年生になるので、進路を考えた結果、こうなりました。稼ぎ頭のゆーにゃが仕事をセーブするというのは事務所としては頭が痛い事だから、社長としては複雑だけれど…メンヘラ系配信者のゆーにゃがメンケアのプロになる為に心理士を目指すなんてドラマがあって良いじゃない? って思ったのと、リョウが受験企画を絶対バズらせると言ってるから! 二人の二人三脚をみんなでしっかりサポートしましょう! 以上!」


 社長が会議室にいる全員を見回して力強く言ってくれた。

 リョウさんに視線を送られた。


「皆さん、お疲れ様です! いつもありがとうございます。今回、私の希望を全面的に事務所に受け入れて頂けた事にとても感謝しています。これからも一所懸命頑張りますので、引き続きよろしくお願いします」

 深くしっかり頭を下げると、拍手で今後の活動縮小を全員に受け入れて貰えたと安心する事が出来た。


 私を援護するようにリョウさんが「私が責任を持って合格させるし、継続するコンテンツでしっかり数字を取れるようにマネジメントします」と言ってくれたのも嬉しかった。


 ***


 今回の“学業優先”の判断について、もちろん両親に事前に相談したけれど反対する理由が一つもないどころか、私の今後を心配していた両親にとっては地に足のついた私の進路希望をとても喜んだ。

 本人よりも早く希望する学部のある大学を調べ始めたのはママだった。


「ねぇ、祐奈、どこの大学第一志望にするの?」

「まだ決めてないよ…学校多すぎて調べきれてないもん…」

「ここから通えるところだとママとしては嬉しいんだけど…」

「なんで?」

「…寂しいから」

 想定外の回答に少し驚いて、ティーカップを持つ手元が狂いそうになったけれど、大惨事にはならず、中の紅茶も無事だ。

「ママ、出張多いからほとんど家に居ないのに?」

「うーんとね、これから家で仕事する事が増える予定だから」

「旅行系の仕事はひと段落なの?」

「それもあるんだけどね…ママ、小説家になりたくて」

「え?」

「だから、小説家!」

「ママ、小説なんて書けるの?」

「まだ書いていないだけよ」

「どんな話を書くの? 構想くらいあるの?」

「娘がメンヘラ系配信者になる話」

「嘘でしょ!?」

「嘘に決まってるでしょ? 絶対、恋愛小説にしたいんだよね」

「パパとの馴れ初めでも書くつもり?」

「えー、書くわけないじゃない。まぁ、パパはカッコいいから主人公の相手役としては十分だけどね、せっかく創作するんだから、もっと派手な恋愛が良いかな…」

「何?派手な恋愛って」

「今はまだ思いつかないけど、なんか、女子の夢! みたいなやつが良い!」

「多分それ、転生したり家族に虐げられてたりしないと売れない気がする」


 冷めかけた紅茶を飲み干して、ティーカップとソーサーをキッチンに下げた。


「もし、ママが書いた恋愛小説が映画化されたら祐奈が主演が良いな…受験も進学もするけど、タレントは続けるんだもんね、せっかくだから女優もしちゃいなよ!」

「なんで? 恋愛物だとキスシーンとかありそうだから嫌だよ…っていうか、演技未経験でいきなり映画の主演なんて無理に決まってるじゃん」

「だって、祐奈ならママの若い頃に似てるから…えー、残念…」

「何? 自分を主人公にして書くつもり?」

「そうよ! その方が執筆中、感情移入できそうだと思わない?」

「ますます嫌〜」

「そんな事言って、大ヒット作になって悔しがっても知らないからね」


 ママとの話を半ば強行に切り上げて部屋でファッションイベントに関する企画書を読み込む。

 三月のイベントはまだまだ先だと思っていたけれど、年が明けた今、最も集中しなくてはいけない仕事としてすぐ目の前にある。

 マナちゃんは一層忙しくしていて、メッセージのやり取りはするけれど、今年になってからはまだ一度も会っていない。


 マナちゃんの障害や病気の件を知ってしまった今、会って話す事を少し不安に思う気持ちがある。

 リョウさんには黙ってこれからも知らないフリをする様に言われているけれど…

 颯さんには私に話たという事を律儀なリョウさんは伝えるんだろうな…


 ピコンっと珍しい人からのメッセージの通知が表示された。

(マコさんが直接メッセージくれるなんて…なんだろう? ヘアメイクで私に事前確認なんて珍しいな…)




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