第27話 エリリンの自分語り 中編
「エリリンって何でエリリンなの? 誰もエリリンなんて呼んでないじゃん」
「誰も呼んでないわけじゃない」
「小中学の時のあだ名とか?」
「…親戚」
「あっははははは」
「何で笑うのよ! リョウちゃんはどうなのよ!」
「私? 普通にリョウコって呼ばれてる」
まだ笑いが収まらないのか肩を振るわせながらリョウちゃんが答えた。
リョウちゃんと一緒に動画を作ると決まってから週に2〜3回“企画会議”と称して学校の近くのファーストフードやカラオケで放課後寄り道をしている。
「それじゃぁ、今週の土曜日も撮影ってことで!」
「あのさ…その事なんだけど…顔、やっぱ出さない方が良いんじゃないかと思ってるんだけど…」
「何で? エリリン、学校の中でも可愛いって有名なのに」
「いや…その…中学までの黒歴史が半端なくて…」
リョウちゃんはフライドポテトを二本、三本と口に運んで
「じゃぁさ、これから先はずっと顔出していける様に、過去の自分を反省した謝罪動画投稿しようよ!」
「黒歴史だって認識はあるけど…謝罪は…」
「謝罪するほどではない事なのに、顔出せないの? 何したの? 具体的に」
リョウちゃんには何となく伝えておこうと思って、従来の友達との関係性であったり、同級生に友達がいなくなった経緯をかい摘んで話したところ、リョウちゃんはこの世のものとは思えない険しい皺を眉間に寄せたかと思ったら、フッと息をしてしみじみと
「良かったね、高二でヤバリン卒業出来て…そのまま大人になってたら多分犯罪者になってたと思うヤバさだよ」
「ヤバリンって何!?」
「ヤバいエリリン。そのまんま」
悔しいけれど何も言い返せない。
確かにヤバいと今は自覚している。
「ヤバリンだった頃の自分を反省しているってしっかり伝わる原稿一緒に考えよ!」
「流石に謝罪の言葉くらい自分で書くよ」
「…まぁ、その方が良いとは思うけど、はっきり言ってエリリンより私の方が圧倒的に賢いし文才あるから、多分一緒に書いた方が良いと思う」
ぐうの音も出ない…
「それにさ、謝罪動画って悪口言ってくる奴絶対いるじゃん。一人の言葉じゃなくて二人で考えた言葉なら悪口の打撃半分になる気しない?」
ニカっと笑いながらリョウちゃんの言った。
この謝罪動画で今まで何となくかけていたサングラスを外して素顔で動画に出演する様になった。
謝罪動画で過去の自分を曝け出したら、再生回数が伸び始め、登録者が増え始めた頃、学校でも私とリョウちゃんの動画が話題になり始めた。
クラスの友達や先生の中にも観てくれている人がいる。
あるクラスメイトには「エリって誰も近づけないっていうか、誰とも仲良くなろうとしないから不思議だったんだけど、友達との距離感がうまく掴めなくて辛い思いしていたんだな…って知ったら、仲良くなるの怖いよねって思えて…でも、これからは私とも仲良くしてね」なんて言われた。
言われた事をそのままリョウちゃんに伝えると「私の文才のおかげでみんな同情的だよね、ヤバいことしてたのに」と意地悪を楽しんでいるかの様な口調で言ってきたが、私は「ありがとう」とだけ言った。
事実、私が叩き台用に考えた分では恐らく大炎上になるからと大部分をリョウちゃんが赤ペンを入れてくれた。
これを機に私は全ての動画の企画で台本を作り必ずリョウちゃんに一度読んでもらう様にし始めた。
高校三年生になって受験生と呼ばれる時期になっても私達の動画投稿のペースは落ちなかった。
リョウちゃんと友達になった事で私は定期試験で真ん中辺りを彷徨っていた成績がぐんと伸びていたので、そこそこの私立大学なら合格できそうだと夏休み前の模試で判定が出た。
リョウちゃんは国立大学が第一希望らしく模試の結果もこのままいけば問題ないといった判定だった。
リョウちゃんはこれと言ってガリ勉というわけではないので、地頭ってやつが良い人はこんな感じなのか…と思った。
秋の文化祭以降、いよいよ毎日予備校に行かなくてはいけなくなった時、動画は暫くお休みになるかと思ったけれど、リョウちゃんが受験勉強をそのまま動画にしようと“エリリンの受験対策動画シリーズ”が始まった。
私がリアルに過去問題集を解いて、採点、間違えたところをリョウちゃんが解説してくれるという内容だ。
この動画のシリーズで初めてリョウちゃんは声だけ動画に登場する様になった。
受験を終え、私は唯一合格した私立大学の経済学部に、リョウちゃんは第一希望の国立大学の文科一類にそれぞれ進学する事になった。
そして、新生活が始まる春から、ギリギリ渋谷と呼べる立地のアパートでルームシェアを始める事にした。
家具や家電の付いた物件を選んだので引越しの荷物は洋服くらいだった。
「ねぇ、リョウちゃん、新生活とルームシェアの記念に何かお揃いのもの買おう!」
「えー、エリリンと趣味合わないからなー」
引越しの段ボールを荷解きしながらリョウちゃんはやや面倒臭そうに言った。
「ねー、面倒そうな顔しないでよー」
「だってさー、エリリンの趣味だと絶対ピンクとかの可愛い系じゃん、私、シンプルなやつが良いもん」
「それじゃあ…これは? このカップで色違いにするのは?」
「あ、それなら良いかも」
「荷解きひと段落したら買いに行こ!」
「どこに売ってるか調べたの?」
「ううん、まだだけど…渋谷駅の周りなら多分あるでしょ!」
そう言って荷解きもそこそこに、渋谷駅までカップを買いに行ったけれど、結局欲しい大きさと色はお店に置いてなくてオンラインショップで購入する事になった。
翌々日に届いたのは桜色と白色の二つのカップだった。
桜色は私ので、白色がリョウちゃんのだ。
このお揃いのカップ以外、趣味の違う二人のルームシェアは何かとまとまりがないけれど、それでも何となく落ち着く二人の部屋が出来上がった。
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