第23話 テーマパーク
「それじゃぁ、リョウさん19時頃にパーク出て駐車場の車に行きますね!」
「はい、楽しんで! もし、バレそうに…」
「バレそうになったら即パークを出る! ですよね。マナ、そーゆーの慣れてるから、ファンの視線とか、すぐ気がつけちゃうから! 安心して!」
撮影許可は得ているものの大袈裟な人数でテーマパーク内の撮影をするのはやはり必要以上に目立ってしまうので、颯さん、リョウさんの二人のマネージャーと最小限の撮影メンバーでお昼過ぎまで“マナゆにゃのテーマパークエンジョイ動画”の撮影をした。
撮影後、二人ともオフだったので私達の強い希望でこのままパークで遊んでから帰る事になった。
駐車場で待機するマネージャーと帰って編集作業を始めるスタッフを見送った。
「ねぇねぇ! 何から乗るー? ゆーにゃちゃん、ジェットコースターとか平気?」
「うん、平気! せっかく平日で空いてるから休日に混んでるアトラクション制覇しない?」
「ゆーにゃちゃん、それ名案! 現在地がここだからー…一番近いこのアトラクションからにしよ!」
パーク内の音楽に合わせて二人の足取りも仕事を終えた後とは思えないほど、踊る様に軽い。
***
「ゆーにゃちゃん! 私達、凄くない!? 空いてる平日とはいえ17時時点で人気アトラクション制覇しちゃった!」
「本当に! 作戦が良かったのかも!」
「作戦のおかげならマナのおかげだねー!」
パーク内を遊び回っている間、キャラクターアイテムのサングラスに、着ぐるみの帽子まで被っている私達の正体に気がつく人は本当にいなかった。
最近は私でも街中で「ゆーにゃ? いつも観てるよ!」と声をかけられる事が多々あるが、本当に遊んでいる間、観察する様な視線を一度も感じる事はなかった。
「テーマパークの中って快適だよねー、私のファンだろうな…っていう子の真横を歩いていてもだいぶ先にいるキャラクターを見つけてそっちに夢中だもん。人に注目されずに過ごせて快適」
「そうだね…注目されないって快適だよね」
有名インフルエンサーになる事が目標な私が「注目されないのが快適」だなんてとても矛盾しているけれど、SNSでのフォロワーや高評価のリアクションはいくらでも欲しいし、常に自分の発信する内容に注目されていたい。
けれど、プライベートな時間“ゆーにゃではない時間”はそっとしておいて欲しいというのが本音だ。
撮影の時に散々パークの新メニューを食べたけれど、ひと遊びするとお腹が空くもので…定番スナック系を最後に食べてから帰ろうという事になりポップコーンを買うための列に並んだ。
5分もせずに列の先頭に近づき、目当てのキャラメル味とチーズのポップコーンを1つずつ買ってベンチで食べようとしたその時だった。
ベンチに座って待っているマナちゃんがぐったりとしている。
慌てて駆け寄り、状況を確認しようとしたところ、小声で
「お腹刺されちゃった」
と言われて動揺する私に
「絶対、騒ぎにしない…誰にもバレない様にここから出る…」
刺されたと思われる箇所をお土産様に買ったキャラクターのぬいぐるみでぐっと抑えてマナちゃんは近くにいるキャストにこう伝える様に言った
「
私は、近くにいたキャストの人に勢いよく声をかけ、マナちゃんに言われた通りの言葉を伝えた。
するとミャストの人は顔色を変えて「宮迫愛美 様を緊急でバックヤードへご案内します。現在地はエリアC、ポップコーン店F前のベンチ、至急覆面キャスト向かわせてください…はい、宮迫様を一番近いCL6の入り口からバックヤードにご案内します。医療班、待機願います」
***
テーマパークの地下はターミナル駅直結の施設の様になっていると聞いた事があったが本当にその様になっている。
マナちゃんの救護は迅速に行われた。他の人の目にマナちゃんは友人に囲まれて座り込むための角地を目指している様にしか見えなかっただろう。
本当に遊びに来ている人と見分けがつかない様な出立ちの人達が鮮やかにかつ安全に、人目につかない様にマナちゃんを地下で待つ医療スタッフへと繋いだ。
「宮迫様のご家族へのご連絡はこちらで手配してもよろしいでしょうか?」
他のキャストの人とは明らかに風格の違うベテランの男性に声をかけられた。
(焦っているだけというわけにはいかない、しっかりしないと!)
気が動転するのを乗り越えて
「彼女の担当マネージャーに連絡してここに来てもらっても良いでしょうか?」
「承知いたしました。それではどのキャストでも構いませんので、宮迫様のお迎えに来たと伝えていただければここまでご案内できる様にいたします」
マナちゃんは救急車での搬送が必要だと医療スタッフの人が話しているのを聞きながら、颯さんの番号に電話をかけた。
颯さんへの説明が終わった。
この様な事態でテンパる私に対してとても冷静に情報を聞き出す事に専念する颯さんの凄さを電話を切ってから実感した。
(リョウさんにも連絡しないと!)
颯さんが到着して間もなくマナちゃんを運ぶ為の救急車も到着した。
救急車を見送ろうと待っているよう言われていたソファから立ち上がると、警備員と思われる制服の人と先ほどの風格の違うキャストに案内されて、何が起きたのか一から警察に説明する様に促された。
人生二度目の取り調べは、肝心な事を何も伝える事ができずに終わった。
私は肝心な時に親友のマナちゃんの隣にいなかったからだ。
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