第22話 親友

 マナちゃんが私の部屋ですっかり寛ぎ出すのに15分もかからなかった。

 どうやら、話を聞くと友達の家で友達の親に挨拶をするのが苦手だという事が判明した。

 その点、我が家はマナちゃんにはピッタリの友達の家である。

 マナちゃんが苦手としている親への挨拶というシチュエーションの発生率が極端に低い家であるという圧倒的な事実がある。

「それで、相談って何? ここなら誰にも聞かれずに話せるから、どんな悩みも安心して話せちゃうね」

 言われてみれば、マナちゃんとカフェで誰にも聞き耳を立てられずに話す事は想像している以上に難しい事なのかもしれない…そんなように思えた。

「それで、あんな顔をして歩いていた理由は何? 遠慮せずにどーんと言って!バッチリ解決しちゃうよ」


 マナちゃんに全部話そう…エリリンさんとの事で以前からモヤモヤしていた事と今日の出来事を話した。

 マナちゃんは黙って私が話し切るまで頷きながら聞いてくれたが、時々明らかにイライラとした表情をした。


「ゆーにゃちゃん! 私がいるから安心して! エリリンのキモい行為は絶対に許さない!」


 取り急ぎ「SNSを使おう!」と言い出したかと思ったら、私がどんな内容を投稿するのか聞く間もない程一瞬で全世界に届く程大きな影響力で呟いた

『私の大事なゆーにゃちゃんを困らせて怖がらせている人、本当に辞めて!』

 マナちゃんのこの一言は瞬時にリョウさんの知るところとなり、通話の通知がけたたましく鳴り続けている。


 大きく深呼吸してリョウさんからの連絡に出ようとしていると、私の手からスマホを奪ってマナちゃんが応答した。

『もしもし、マナです。先日は会食ありがとうございました。今さっきの私のSNS投稿ですが、エリリンさんに向けて発信したものです。死にそうな顔をして歩いていたゆーにゃちゃんに声をかけて話を聞いたら、私、許せなくって…そういう事なので、ゆーにゃちゃんは怒らないでくださいね』

 自分が話たい事だけ一方的に伝えたマナちゃんは「はい」っと私にスマホを戻して来た。

 とても静かな声でリョウさんは私に

『当たり障りのない文章で今の投稿に応えるから…本当に…ダメとは言わない、でも話す内容と相談先の影響力は考えてちょうだい…』

 と伝えると通話を終わらせ、3分も経たないうちにゆーにゃのアカウントから

『マナちゃん、相談聞いてくれて嬉しかった。でも、ゆーにゃ、まずは今のまま頑張ってみる! 心配してくれてありがとう』

 とリョウさんは作文をしてマナちゃんの投稿に応えた。

「リョウさん、すっかりゆーにゃちゃんへの擬態が上手になっちゃってる」

「基本的には私が事前に作った文をリョウさんがチェックしてから投稿しているんだけど…今みたいに緊急な時はリョウさんが問題のない内容を作文してくれてるの」

「それじゃぁさ、ゆーにゃちゃんのお部屋のおしゃれ椅子に二人で座ったセルフィそれぞれのSNSにアップして、ちゃんとゆーにゃちゃんのリアリティ出そう!」

 そう言って山盛り買ったお菓子を抱えて卵の殻の様な私の椅子にマナティが座って「ゆーにゃちゃんは左半分に座ってね」と言わんばかりに右にしっかりと寄って座面の左半分をあけた。


 何枚か撮ったセルフィーの中からツーパターンをそれぞれのSNSに投稿する事にした。

 ゆーにゃの投稿は

『今日は相談以外のお話もいっぱい出来て元気出た! 本当にマナちゃん大好き!』


 リョウさんからOKをもらったこの文章と写真の投稿は、夜の20時頃にする事になったとマナちゃんに伝えたところ「それじゃぁ、その投稿に応える感じで私も投稿するね」と言ってくれた。


 マナちゃんはマネージャーの颯さんを呼び、車で帰って行った。

帰り際に玄関で「また、お家来ても良い…かな?」と聞かれたので「もちろん! でも、今度は食べ切れる量のお菓子にしよ」と答えた。

 マナちゃんは嬉しそうに「今度は事前にお土産用意したい」とお土産の候補を話し出そうとしたけれど、颯さんを待たせないよう見送った。


 20時になって予定通りの内容がゆーにゃのSNSで投稿された。

 マナちゃん効果で最近はすっかり有名配信者、人気インフルエンサーと呼ばれるに相応しいフォロワー数のあるアカウントでの一言は本当にすぐに反響がある事が何よりも気持ちが良い。


『マナゆにゃの仲良しショット待ってました!』

『最近、ゆーにゃがマナティをマナちゃんって呼ぶ様になったの推せる』

『ゆーにゃちゃん、辛い事あるかもしれないけど、マナティだけじゃなく私達ファンもゆーにゃの味方だし応援してるよ!』

 最近はマナティとゆーにゃのコンビを双方のファンはもちろん、メディアも“マナゆにゃ”と言って喜んでくれる。


 ピコンっとマナちゃんのアカウントに新規の投稿がある事が通知された。


『マナもゆーにゃちゃん大好き! 改めて親友って呼んじゃおうかな、なんか古い言い方な感じがして照れるけど』


 この、投稿をきっかけに数日間 #親友 がSNSやショート動画でトレンド入りした。

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