第14話 コミドリの自分語り 前編
コミドリというニックネームは自分で自分に付けたニックネームだ。
自分でコミドリを自称する日まで誰からもコミドリと呼ばれた事はない。
このニックネームを自称しなくてはいけなかった理由は、読者モデルに応募して撮影依頼の連絡が来た雑誌の人気モデルにみどりちゃんがいたからだ。
「みどりちゃんと名前が被ってるからニックネームにしようか?」と編集部の人に言われて即席で作ったニックネームがコミドリだった。
小学生になる頃には明らかに自分は他の子より“モテる”という事を自覚した。
そして、常にモテていたい、注目されていたいと強く思う様になった。
中学から私学の女子大附属校に通って、そのまま内部進学で大学生になった。
モテたいという欲求が人一倍強い私にとって女子校というのはとてつもなく退屈な場所で、放課後や休日は少し派手な身なりの小学校の同級生の子達と遊び歩く様になった。
中学生の頃は高校生、高校生の頃には大学生と嘘をついてナンパされてみたり他校の男子グループや地元の不良グループに“姫”と呼ばれチヤホヤされる生活を送った。
けれど、自分を“姫”などと呼んで内輪ノリで盛り上がれるだけの男を彼氏にするつもりは到底なかった。
モテる私に相応しい、誰にでも自慢出来る彼氏が欲しかった。
私が思い描く理想の友達と私に相応しい彼氏を手に入れる為に、大学生になり校則が緩くなったその日に読者モデルに応募した。
なぜ、読者モデルなのか…別にモデルという職業に就きたいとかそういう事ではなく、自分をカテゴリーするラベルの一つとして“モデル”と付くモノが欲しかっただけだ。
「読者モデルはSNSでの人気も大切だよ」という事をよく撮影に呼んでくれる雑誌の編集部の人に言われたので、SNSでオシャレでキラキラした生活を発信する様になった。
話題のスポットで話題のモノを食べ、美意識の高い趣味を取り入れ、最新のファッションアイテムと共に自撮りをした。
最初は複数の雑誌で読者モデルとしてスナップの様なページの撮影にしか呼ばれなかったが、読者の人気投票で常に人気上位になれる雑誌に絞って撮影に参加する様にした。
大学入学の年に早々にミスキャンパスにエントリーして準ミスになった後は、読者モデルとしての扱いが変わり、大きく紙面に出れる事があったり、複数ページに渡って登場出来る様になった。
私が読者モデルをしている雑誌では“ミスキャンパス”の称号は必修アイテムで人気のある子はみんな当たり前に各大学のミス、準ミスだった。
準ミスになり、読者モデルとして人気が高まった頃、クレジットカードのリボ払いの残高は簡単に返済出来る金額ではなくなっていた。
親から渡されるお小遣いは比較的潤沢だった様な気もするけれど、SNSに映えるキラキラした生活、人気読者モデルをするには足りず、クレジットカードの利用が増え、初めて支払いが厳しい月が訪れた時にリボ払い設定に切り替えた事で、更に利用額は増えていった。
いよいよクレジットカードも限度額で使えなくなりそうになった時、お天気お姉さんのアルバイトの話が舞い込んだ。
週一で拘束時間が長い割に時給もたいして良くはなかったけれど“お天気お姉さん”のカテゴリーになれる魅力は大きく二つ返事でアルバイトを始めた。
このアルバイトを始めたのをきっかけに、私のカードの利用額はどんどんと落ち着いていき、積もり積もった利用残高はしっかりと減っていった。
カードを使わなくなった理由は単純で、あらゆるモノが格安になり、モノによってはタダになったのだ。
美容院やネイルサロンをはじめとした美容費は特別価格になり、衣装提供で着用した洋服はそのまま貰える事が増えた。
話題の場所や話題のモノは、周囲の男性が頼まなくても連れていってくれてご馳走してくれるし、何かとプレゼントをしてくれる人もいたりと、キラキラした生活に必要なモノが簡単に歩いて私の元にやってくる様になった。
“お天気お姉さんで準ミスキャンパスで読者モデル”の私は多くの人に求められる完璧なモテ状態を手に入れた。
大学二年生になった頃の私のスマホの中に地元の友達や私に相応しくない男の連絡先の痕跡はなく、SNSの繋がりも、誰に見られても恥ずかしくないモノにした。
大学三年生になった。周囲は就職活動に忙しいが、私の進路は決まっていた。
既に芸能事務所に所属してお天気お姉さんや読者モデルの仕事をしていた私は、卒業後は更にタレントとしての活動の幅を広げてもっとキラキラするという目標にただ突き進むだけだ。
大学四年生の冬休み、いつもの様にTV局で天気予報のコーナーの撮影を終えたところで、番組プロデューサーから声をかけられた。
年末年始の飲み会の事かと思い「もちろん!いつでも大丈夫です」と言う準備をしていた口元は「わかりました」とだけ言ってその後は何も発しないままTV局を後にした。
大学を卒業した年の4月、元お天気お姉さんで元準ミスキャンパスの元読者モデルの私が残った。
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