第13話 厄介な事

 リョウさんから定例のミーティングを今日中止にするから一切の外出をせずに家で大人しくしている様にと連絡があった。

 正直「外出するな」と言われたことがとても引っかかっる。

 この連絡と合わせてリョウさんと社長、両親意外との電話やSNSでの接触も禁止とまで言われている。

 明らかに何かが起きているのに、全く状況を教えて貰えない…一昨日のルルメゾの撮影の時にマナティさんとのコラボについて聞いた時に「厄介な事」と言っていた事と関係あるのだろうか…モヤモヤを通り越してイライラもしたけれど、リョウさんの指示に従うしかない。


(遠くの方で物音がしている気がする…)


 玄関から音がした様な気がして落ち着かないでいると、スマホのメッセージの通知音と共に目に飛び込んで来た文字は『コミドリ逮捕の件』という余りにもショッキングな並びだった…


「祐奈ー!! お部屋なのー?」

 ママが取材旅行から帰って来て、雪崩こむ様にドアを開けて私を確認した。

「祐奈、リョウさんから連絡貰って、慌てて帰って来ちゃったわよ! あなたが詐欺の被害にあっているから恐らく警察の取り調べに呼ばれるだろうって…本当になんでこんな事に…とにかく、さっきママの友達の弁護士に連絡して、家に話を聞きに来てもらえる様にしたから、きちんと全部話すのよ!」

 捲し立てるように一方的に話して勢いよく部屋のドアを閉められた。


 リョウさんからのメッセージを確認するとそこには簡潔に状況が書かれていた。


『コミドリさんが無名の配信者にコラボを持ちかけ、必要な経費だと言い金銭を要求する詐欺をしていた。要求した金銭の多くはクレジットカードとホストクラブの売掛の支払いにまわっていた事が警察の調べで判明』

『現在、コミドリと関わりのあった人間が順番に取り調べに呼ばれている。ゆーにゃもコミドリとコラボし、金銭を要求されて支払っているから、その辺りについて聞かれる事になると思う』


 厄介というレベルではなくとんでもない事に私は巻き込まれてしまっている。

 マナティさんとのコラボなどと言っている場合ではない。


 SNSを確認した。


 既に『人気美容系配信者コミドリ詐欺で逮捕!闇深すぎ…』などと投稿が乱立し始めている。

 ゆーにゃちゃんねるはコミドリさんに関連した動画は既に取り下げられていて、コメント欄も表示されない様になっている。

 SNSを更に見ていったが、秒毎に投稿され更新されていくが真実なのかが判断が出来ず混乱してきたので、幾分か信頼出来るニュースサイトを見る事にした。


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 【人気美容系配信者、コミドリが詐欺と横領の容疑で逮捕】


 小宮山 みどり(26)が詐欺と横領の容疑で逮捕された。

 小宮山容疑者は通称コミドリと呼ばれ、美容に関連した動画配信で一定の人気を得ている配信者として有名であり、今回の容疑も人気配信者としての知名度を利用したものだった。

 小宮山容疑者の容疑は無名の配信者に自身との動画での共演を持ちかけ、製作費と称して金銭の支払いを要求し、入金を確認した上で、いつまでも動画の撮影をはぐらかした上に、共演を取り止めたいと返金を要求した相手に対して「製作費は前払いで既にないから撮影出来るタイミングを待って欲しい」と伝えて撮影の意思はあるとしながらも具体的に話を進める事はなく返金には応じなかったという。

 また、実際に必要な製作費の数倍の金額を共演者に請求したケースや、「動画の仕上がりが気に入らない」と納品された動画は投稿しているが動画編集のスタッフに対して製作費を支払わないなどの金銭トラブルも複数ある。

 小宮山容疑者が本来“製作費”にすべきであった金銭はホストクラブでの売掛金の支払いに使われていたと調査関係者の調べで明らかになった。

 小宮山容疑者は歌舞伎町の中堅ホストクラブの常連で、通い始めた頃は週に1度程度指名ホストとの会話を楽しむごく一般的な客だったが、直近はかなりの頻度でVIPルームなどで派手にシャンパンコールをするなどしていたとホストクラブの従業員が話ている。

 先日の担当ホストのバースデーイベントでは高額なシャンパンタワーをした様子が小宮山容疑者のSNSの裏アカウントに投稿されているなど、その豪遊ぶりはホスト業界や一部の配信者仲間の間では有名だったという…


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 記事にはまだまだ続きがあるが、もう読む気がしない。


 私も、コミドリさんに製作費を支払っているが、すぐに撮影も行われたし、それがきっかけで今の自分がいる…詐欺の被害にあったという自覚はない。

 けれど、もし、コミドリさんと撮影した動画で自分が何も恩恵を受けられなかったら…渡した製作費を私はどの様に感じるのだろうか…相場よりも高額な製作費を支払って何の恩恵もなかったら…頭の中をまとまらないタラレバが右往左往している。


 ピコンっとメッセージの通知が入った。


 メッセージの主はエリリンさんだ。

(こんな時に心配して連絡をくれるエリリンさんってやっぱり頼れる先輩だな…)


 リョウさんから接触を禁止されているが、事務所の先輩で私を可愛がってくれているエリリンさんとのメッセージなら問題ないはずだとメッセージの画面を開いたが、既読を付けたものの返信する事は出来なかった。


 そこに書かれていた何度もスクロールが必要な長文を要約すると『私もコミドリとホストクラブで遊んでいたけれど、詐欺や横領で得たお金を使っていたなんて知らなかったから私に罪はない、だから嫌いにならないで』という事だ。


(エリリンさんが知らなかった、気が付かなかったなんて事は多分ない…)


 私を心配する言葉は一つもなく、ひたすら悪くないという事と嫌わないでという言葉だけが並んだ長文の画面を反射的に画像で保存して閉じた。


 インターフォンが鳴り、ママが大きな声で友人の弁護士を迎え入れているのが聞こえる。

(弁護士さんにきちんと、全て話そう…絶対にこんな巻き込み事故で消えたくない!)


 今のゆーにゃを絶対に守りたいと思った時に取るべき行動は自然と分かったし、躊躇いもなかった。


 エリリンさんのメッセージの通知をミュートにして部屋を出た。

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