第12話 プロ意識
「おはようございます」
リョウさんに言われていた入り時間よりも30分早くスタジオに着いたけれど、既に動画チームもルルメゾの担当の方も大人は全員揃っていたので、焦ってリョウさんの方へ駆け寄った。
「今日はいつも以上に気合い入ってるね! こちら、ルルメゾの担当者の方々」
リョウさんに挨拶を促されたので自己紹介をして3人の担当者の方それぞれと挨拶をした。
挨拶の中でデザイナーの女性が私のヘアクリップがルルメゾのアイテムである事に気付いてとても喜んでくれた。
ヘアクリップは、今朝、開店と同時にルルメゾの店舗へ行って購入したものなので、私物で愛用していると言うには使用期間が短すぎる気もしたけれど「お気に入りでいつも使ってます」と考えるより先に言っていた。
今日紹介するアイテムがテーブルにずらりと並び、限定品や目玉アイテムはマネキンに着せた状態でスタンバイしている。
今回の動画は3段階の価格が用意されたラッキーバッグの中身を紹介する内容だ。
ラッキーバッグのバッグそのものもしっかりした作りになっていて「爆買い、買い放題企画をする時のエコバッグにも使えそう」と言ったら担当の方は「ぜひ! 別の企画動画でも使って頂けたら嬉しいです!」と前のめりに喜んでくれた。
台本の内容と紹介商品の確認が終わり、私はヘアメイクの為に控え室に入った。
「ゆーにゃちゃーん、今日も可愛く仕上げちゃうわよー!」
普段の撮影は自分でメイクをするのだけれど、今日は企業案件なので宣材写真の時にヘアメイクをしてくれたマコさんが担当してくれる。
「スキンケアからするわよー」
プロのメイクさんにしてもらうゆーにゃメイクは本当に仕上がりが可愛い。
一般的な地雷メイクからカスタムしていったメイクをさらにプロの技で格上げしてくれる。
「ゆーにゃちゃんは、肌のコンディションに波が無いから本当に羨ましー」
こんな私の肌を褒める為の一言にさえキャラブレの指摘をされてからは裏を読んでしまう自分がいる。
以前何かで「ストレスは肌を見ればわかる」とあったので、肌の状態が安定していると言う事は「あなたのメンタルは安定していますね」と言われているのと同じ様で…つまりは「あなたメンヘラでは無いですね」と言われている気分になってしまう。
やや俯いて表情が暗くなった一瞬をマコさんは見逃さずに
「ゆーにゃちゃん! あなたは女優と監督両方するのよ!」
鏡越しに目をしっかり見て言った。
「どんなゆーにゃが求められているか、監督のあなたが女優のあなたに指示を出すのよ! そしてどちらの自分も信じて突っ走って大丈夫よ! あなたのゆーにゃは世界で一番可愛いメンヘラちゃんなんだからー!」
ヘアメイクが終わって衣装のワンピースに着替える。
(着たいと思う服を着るのが一番テンション上がる!)
着替えを終えマコさんに励まされ機嫌良く控え室を出たところでリョウさんに呼び止められた。
「ゆーにゃ、ヘアメイクもワンピースも可愛いし、今日は表情も凄く良いけれど、ゆーにゃのキャラを忘れないように」
「大丈夫です! 今日の撮影はハイな感じでいって、明日以降撮影風景の動向が終わり次第、今日の動画が投稿されてみんなからの高評価が付くまでは緊張からくる不安で落ちてる状態にしようと思っているので」
「そう、ちゃんと考えているなら任せるけど、ファッションのジャンルは相性が良さそうな反面、素が出やすいのかな…と心配だったから、撮影直前にごめんね、いってらっしゃい!」
***
「良かったら、今日着ていただいたそのワンピースプレゼントするので、プライベートでも着て下さい!」
「えぇ! 本当に良いんですか!? 嬉しいです!」
撮影が終わり、カメラさんが撮れた映像の確認をしている。
万が一の抜け漏れがあればこの後追加で撮影して差し込んだり編集で上手く繋いでくれるという事だけれど、どうやら追加の撮影をする必要はなさそうだ。
ルルメゾの担当者の方達も撮影の出来にとても満足してくれている様で、衣装として用意してくださったワンピースをそのままプレゼントしてくれると言う。
気に入ったワンピースをそのまま貰えるという展開に自分がすっかりタレントになったのを感じた。
衣装もメイクもそのまま、次回のメインビジュアルのスチール撮影への熱意を伝えて、ルルメゾの皆さんをお見送りした。
あとは、SNSへ投稿する為の写真の撮影をして、投稿用の文章を作って、今日の仕事は全て終了だ。
SNS用の写真を撮り終え、文章を考えていると
「今日はよく頑張ったね! クライアントからの評価もバッチリだし、メインビジュアルもこの調子でいければファッションイベントのランウェイも呼んで貰えそうだよ!」
興奮気味に話すリョウさんは私よりも達成感を感じている様子でそう言った。
(今なら聞けそう!)
「ルルメゾさんの件ありがとうございます。それで、あの…マナティさんの件ってどうなりましたか?」
今までの上機嫌がどこにいってしまったのか…という程、急に暗雲立ち込めた表情になり「ちょっと」と部屋の角に誘導された。
(絶対今のタイミングだと思ったのに…)
超有名人気配信者とのコラボという夢が叶うのか知りたくて仕方ないけれど、なんとなく我慢して進捗は聞かないようにしていた。
けれど、今の上機嫌な状態ならポロッと何か教えてもらえるかもしれない…という考えが甘かった。
部屋の角で低い小声でしかこの件については話せない様で、
「私としては直ぐにでもコラボ動画の話を進めたいんだけど…ちょっと厄介な事になっていてね…もう少しこの件は急かさずに待っててもらえるとありがたいんだけど…」
と訳ありな感じを全面にリョウさんは出してきたので、私は、大人しく「わかりました」と言ってその後はいつも通り「お疲れ様でした」と1人1人に挨拶をしてスタジオを出た。
(厄介な事って何?)
マナティさんとのコラボの件が難航している現状は分かったけれど、納得は出来ていない。
と、いうのも厄介な事が何なのか全く検討もつかないのほど蚊帳の外に私は出されているというのがシンプルに気に入らなかった。
控え室にはまだマコさんが残っていて、私が少し苛立っているのを感じ取ってくれたのか、面白おかしく話しながら肌に負担をかけないメイクの落とし方を教えてくれた。
メイクを落としていくと不思議と気分も落ち着いてきた。
「あの、マコさん…マコさんって色々な撮影現場に行かれるじゃないですか? マナティさんに会った事ありますか?」
「あー、あのマナティちゃん!」
マコさんは思い出すかの様なそぶりを見せたが
「あら、ごめんねー多分ないわねー」
と明るくいって「お片付けしなくちゃねー」と控え室の片付けを急に始めた。
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