第11話 通知

『みんながいるのに…なんか不安…』

 ピコンっとゆーにゃのSNSに意味深なメッセージと共にぴえん顔で小さく体育座りで丸まっている写真が投稿された。

 リョウさんのチェックを経て即時性が大切な投稿以外は概ね3〜5日後にタイミングを見計らって投稿されている。

 文章を書くのも、写真を撮るのも私がしているけれど、投稿そのものはアカウントのパスワードを知っているリョウさんと社長しか出来ないので、ゆーにゃが直近で何を投稿しているかを私はプライベート用の裏アカウントでフォローして確認している状態だ。

 ちなみに、この裏アカウントでの投稿も全面的に禁止されている。


 ゆーにゃのフォロワー達がコメント欄でザワ付き出している。

 最近のゆーにゃの投稿は意図的に特定のアパレルブランドの服しか着用していないのだけれど、フォロワーがその事に気が付き盛り上がっている。

『ゆーにゃの洋服最近いつもルルメゾだよね!』

『ゆーにゃの着るルルメゾ最強!』

『同じの欲しくて探してるけど売ってない…ゆーにゃとオソロにしたい』

 最近、欲しいなと思っているコメントがタイミング良く付くとリアルにフォロワーの人が反応してくれているのか、事務所が用意しているサクラなのか…という事を考えてしまう瞬間があるけれど「始まりはどちらでも、一定量のコメント数になれば良いだけだから…」と少し前にエリリンさんにSNSについて相談した時に貰ったアドバイスを思い出してなるべく気にしない様にしている。

 ピコンっと通知が入る。

 ゆーにゃが追加の投稿をした『今夜配信の動画で重大発表しちゃいます(ドキドキ…)嬉しい事だから心配しないでね!(でも、不安)』

 この投稿にコメント欄は更に勢いを増した。


 動画配信の時間になった。

 ゆーにゃの動画は基本的にリアルタイムで観るようにしていて、コメント欄はSNSと合わせて動画視聴と同時にチェックを行っている。

 今日の動画の重大発表はフォロワーのみんなが予想してくれた通り『Le Rouge Maison 略してルルメゾの秋冬コレクションのメインビジュアルを担当する事になりました! そしてメインビジュアルの前に夏のラッキーバッグ紹介の動画も予定しています!』という発表と『みんなに、私も大好きなルルメゾのお洋服の良さを伝えられるらょっぴり不安…』という内容だ。


 コメント欄は配信の途中から伸び出している。

 その中に1つ見逃せないコメントが付いた。


『ゆーにゃの着るルルメゾ超楽しみ! いつかマナティちゃんねるでゆーにゃとコラボしたいな』


 “マナティちゃんねる”とは、日常系動画の超人気有名配信者マナティのチャンネルで、日常と言いながらの非日常感で人気のチャンネルだ。

 もちろん私もいつも観ているチャンネルで、海外のコンドミニアムやホテルのスイートルーム、パーティのVIPルームを中心に撮影されているだけでなく、ハイファッションでいつも完璧なマナティは女子の憧れ的存在だ。

(マナティからのコメント!!!失神しそう)


 コメント欄は超人気者の登場で更に盛り上がり、SNSでもマナティとゆーにゃのコラボを熱望する内容が大量に投稿された。


 マナティからのコメントに浮かれている私にリョウさんから電話が架かってきた。

『ゆーにゃ、今、コメント欄とSNSは見ている? マナティからのコラボの誘いについては、彼女のリアルな人物像を知らないからちょっと調べて、社長と相談してからでないと回答出来ない状況かな…とはいえ、リアクションはするべきだから…投稿内容を今言ってもらえる?』

『わかりました。そうですね…マナティからのコメントに感動してちょっと失神してた…とかでどうでしょうか?』

『お、なんかゆーにゃっぽくて良いね! そんな感じでSNS投稿しておくね! それじゃぁ明日スタジオで』

 リョウさんからの電話を切った直後、エリリンさんからメッセージが来た

『ゆーにゃちゃんって、マナティとコラボ希望なの?』

 普段あまりメッセージが来ることがない上にテキストになると内容が少し冷たい印象になるので、少しドキッとした…

『私はマナティのファンなので、コラボしたいんですが、リョウさんが社長と話てからでないと決められないと言っていたのでまだわかりません』

 直ぐに既読のステータスに変わったけれどそれっきりスマホは大人しくなった。


 明日の撮影に備えて準備をしてから寝よう。

 明日はルルメゾの夏のラッキーバッグの中身を紹介する動画の撮影だ。

 ルルメゾからの衣装提供と案件動画、そしてメインビジュアルのオファーが来た時、本当に嬉しかった。

 地雷系ファッションと呼ばれるジャンルの洋服はなんかこう…子ども服みたいで、正直に言うとあまり好きではない…けれど、ルルメゾはトレンド感に地雷風味をまぶした感じのアイテムが多くて、素直に可愛いなっと思う物も多い。

 ファッションメンヘラの私には、この地雷風味という見た目で確実にメンヘラ認定してもらえる要素の少ない服を選ぶ事は自発的には出来なかった。

 けれど、先方からのオファーを受ける形なら心おきなく着る事が出来る。

 明日着る予定のラッキーバッグ限定のワンピースは、色もピンクや黒ではなくラベンダーカラーで、デザインにちょっと韓流っぽさもあって可愛い。


 台本のアイテム紹介のページに目を通す。

(明日は午後にスタジオ入りすれば良いから…午前中にルルメゾの店舗に行っておこうかな…)

 いつもの台本よりも積極的に読み込んでいる自分に気が付いた。

 今回の企画をしっかり成功させたら、ファッションイベントのランウェイへの参加も射程圏内になる。

 ピコンっとゆーにゃのSNSが投稿された事を知らせる通知が入った。

 リョウさんが作文した文章でもゆーにゃの投稿はいつも通りだった。

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