第18話 セルフィー

「わぁ! ゆーにゃちゃんって、ちゃんとリアルも可愛いー! マナってば見る目あるー」

 今、日本で一番おしゃれで可愛い、女の子の憧れが目の前にいる。

 画面の外でも驚くほどキラキラと輝いている彼女は正真正銘1000万人のフォロワーを持つインフルエンサーのマナティだ。

 彼女の正体を知って憧れが薄れたかと思っていたけれど、本人を目の前にしたら挨拶するのも忘れて固まってしまう程圧倒された。

 リョウさんが私の背中をつついて挨拶を促す。

「初めまして、ゆーにゃです! 精一杯頑張ります! よろしくお願いします!」

 しっかりと頭を下げて挨拶をした。

「うちのマナにも見習って欲しい初々しさだな」

 そう小言を言ったのはマナティさんのマネージャーの男性だ。元々レクシープロの敏腕マネージャーで超有名人気女優達を数多くスカウトし世に送り出してきた人物…とリョウさんが言っていた。


「ゆーにちゃん! よろしくね! マナ、ゆーにゃちゃんなら仲良しになれそう!」

 マナティは飛びつく様に私の手を握り、セルフィーしよっと言い始めた。

「やっぱり、最高! マナと顔の大きさ変わんない! 超嬉しい!」

 撮った写真を確認しながらマナティさんは更にポーズを変えて撮ろうと言ってくれた。

「マナは全然悪くないのに、一緒に写真撮った子の顔が大きかったり、可愛く無かったりすると『マナティ、性格悪過ぎ』『公開処刑執行人』とか悪口いっぱい書かれてうんざりなんだよね…その点、ゆーにゃちゃんとのセルフィは誰にも悪口言われなさそう! だってマナと同じくらい可愛いもん!」

 かれこれ30分以上セルフィータイムだった。

 私達が写真を撮っている間に双方のマネージャーとコラボ企画の製作チームの話し合いが完了した様で奥の会議室からゾロゾロと人が出てきた。

 今までとはコラボの規模が違う事が分かった。

「ゆーにゃちゃん! まったねー!」

 マネージャーの男性に引きづられる様にマナティさんは帰っていく。

 私はリョウさんに負けないくらいしっかりと頭を下げてマナティさんを見送った。


 帰りの車の中でリョウさんからざっくりとコラボの内容について説明された。

 マナティとのコラボはお買い物企画で、マナティとゆーにゃがコスメの専門店を貸し切って最新コスメをお買い物するというものだ。


 そして、一旦この撮影で2人の相性を見てからでないと決められないが、マナティからの希望でテーマパークや旅動画のコラボも行いたいという話が出ているらしい。

 テーマパークは良いにせよ、宿泊を伴う仕事は私の両親への確認が必要だからと一旦確認のステータスにしているけれど、事務所としてはマナティとの大量のコラボで一気に100万人登録を目指したいという事だ。


 この話を撮影前にされたという事は「マナティに気に入られろ」という指示が出たも同然だった。


 車はあっという間に家まで3つ前の信号まで来た。

 ピコンっとSNSの通知が1件通知された。

 帰宅してから確認しようとバッグにスマホを戻したが、何となく胸騒ぎがして確認した。

『ゆーにゃちゃん! 今日はありがと! 今写真とショートアップしたから見てねー!』

 マナティさんからとても当たり前の様に連絡が来たが、私はパニックになった。

 慌ててマナティのアカウントを見ると、さっき撮影したセルフィーが投稿されていた。

「リョウさん! すみません、さっきリョウさん達が会議をしている間にマナティさんとセルフィの撮影をしたんですが、その写真とショート動画がマナティさんのアカウントに投稿されてしまって…」

「え!?」

 車を停めリョウさんもマナティさんのアカウントをチェックした。

 無言でスマホを見つめるリョウさんの警戒した視線に車内の空気がピリついた。

「分かった。とりあえず、この前ルルメゾさんにプレゼントして貰ったワンピースを着ていたのはラッキーだ。今すぐマナティさんの投稿にリアクションする! 考えて!」

「えっと…今日はお会い出来て本当に幸せでした! まさかあの時撮影した写真と動画を投稿してもらえるなんて!! 感激です! 今度の撮影もよろしくお願いします」

 思いつく限り当たり障りのないコメントを口に出して言ってみた。

「それでOK! もう一回言って貰って良い? 今入力する!」

 リョウさんが直ぐにゆーにゃのアカウントでマナティさんの投稿にコメントし、ゆーにゃのアカウントに『マナティさんが私との写真投稿してくれた!』と引用した投稿をした。

「ゆーにゃ、マナティさんとはメッセージのやり取り始めたの?」

「はい、さっき連絡先を交換したので…」

「返信内容、気を付けて! 彼女はそういう事ないと思うけど…影響力の有無に関わらず常にだけど、誰が相手でもプライベートな内容であっても、メッセージのやり取りもスクショ撮られて投稿される可能性を考えて返す様に!」

 フォロワーが増え認知されればされる程、何かにつけて「考えて」と言われる機会が増えた。

 言われなくても…と思うけれど、憧れのインフルエンサーを前にセルフィーを撮って確認してもらう間も無く投稿されてしまった私には「考えてます!」と言い返すなどという事は到底出来ない。


『マナティさん、今日はありがとうございました! 写真とショート動画の投稿びっくりしましたが嬉しいです。撮影の日もよろしくお願いします』

 直ぐに既読マークが付き

『びっくりさせてごめんね、でもせっかく出来た可愛いお友達をみんなに紹介したかったの!』

『投稿に返してくれたコメント、しっかり撮影の話も入れてコラボの実現を匂わせるなんて…ゆーにゃちゃんなかなかやるね!』

『マナのマネージャーがゆーにゃちゃん仕事できるね! って褒めてたよー』

 リズムよくメッセージが増えていく。

(本当に友達とメッセージのやり取りしてるみたい)

 マナティさんに改めてお礼を伝えてメッセージのやり取りとひと段落させた。


 しばらく停めた車の中でゆーにゃのコメント欄の状況をリョウさんと見守り、炎上する事は無さそうだと判断して停めていた車は動き出した。

(トップインフルエンサーとのセルフィに炎上の要素なんてあるのだろうか?)

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