第17話 正体
「はい、OK!!」
「ゆーにゃ、よく覚えて来たわね!」
リョウさんからのOKサインと被せて社長から激励を受けた。
「やっぱり、この手の動画はカンペ見ながらよりしっかりカメラ目線で一発撮りが訴えるものがあって良いわね!」
「テロップ入れるから編集はするけど、LIVEにしても良かったんじゃないかって出来だね! テロップ入れるのはさほど時間かからないから今夜には投稿できるよ! 本当にお疲れ様!」
社長もリョウさんもとても喜んでくれている。
「この動画でこの件についてゆーにゃは火消し完了するだろうから、マナティとのコラボ撮影の日程調整に入って! 決まり次第即報告してね! マナティとの撮影の日は社長の私も同席しないと!」
「私、マナティさんとコラボ出来るんですか!?」
「もちろん! 天下のレクタープロの社長の孫のマナティ様からのオファーをうちみたいな弱小事務所が断れるわけないじゃない!」
「レクタープロって人気俳優に女優、歌手にフリーアナウンサーから天才子役まで在籍してるあのレクターですか!?」
「そうそう! あのレクターよ! リョウに調べて貰って分かったんだけど、マナティは個人事務所で活動しているんだけど、彼女のお祖父ちゃまが超大物! 芸能界のドンだったのよ! そりゃぁ、人気アイドルとのパーティ写真も投稿できるし超レアなブランドアイテムも持ってるわよね!」
「マナティさん…凄い人なんですね…憧れの人ってだけでも緊張するのに…」
「マナティの情報で言うと公にはしていないけど、レクターの社長のひとり娘は元モデルでその婿は邦ロック界のレジェンドヴォーカリストって噂もあるから…マナティは輝くべくして輝いているって感じだよね」
「リョウ〜、ゆーにゃをこれ以上緊張させないでよね!」
「それもそうですね。それじゃぁ、ゆーにゃは頑張って今日に合わせて不健康風になってもらったけれど、マナティとの打ち合わせに備えて可愛いゆーにゃに戻ってね! あ、ちゃんとタクシーに乗って真っ直ぐ家に帰る様に!」
家へ向かう車中でマナティさんのSNSを改めて眺めた。
憧れの女の子の正体が芸能界のお姫様だったと知って、憧れる気持ちが薄れてしまったのを感じた。
私は自分と同じ女の子なのに異次元のレベルでキラキラしているマナティに夢中だった。
けれど、モデルの母に有名ヴォーカリストの父がいて芸能界のドンが祖父と言われたら、彼女のキラキラした日々はが“そーゆー家に生まれてるなら当たり前だよね”と退屈なものに思えてしまう。
9頭身と言われているプロポーションもハイファッションを着こなすセンスも、プロの様な歌声で披露する歌ってみた動画も、そーゆーDNAを持ってるなら当たり前だから凄くない…と、そう言い切ってしまいたくなった。
“マナティは凄くない”という思いが私を支配し出したので、彼女のSNSの遡りを止めよと指を止めた。
止めた指の先には、初めてマナティをSNSで見つけた時の投稿があった。
『大切な人からのハッピーバースデーより嬉しいプレゼントってないよね!』
いかにも間に合わせのコンビニのロールケーキにロウソクを立てて嬉しそうに顔の横でケーキを持つマナティの写真と共に投稿されたこの言葉すら、恵まれ過ぎている彼女が発信したのかと思うと、今となってはとても白々しく感じる。
(この投稿が学校の友達からリポストされたのを見て、一瞬でマナティの事好きになったのにな…)
SNSなんて…ネットに投稿されている姿なんて、見せたい部分やブランディングの為に計算された姿である可能性がある事を誰よりも理解しているはずの私が、勝手に同じだと思い込んでいた同世代の女の子が全く同じでは無かったと知って勝手に幻滅している。
私のフォロワー…ファンの人達の中に、本当にメンタルが不安定で悩んでいて毎日苦しい思いをしている人だってきっといる…コメントにも『私もメンヘラで苦しい時があるからゆーにゃが鬱っぽくてしんどい気持ち分かる! だから応援してる!』とか『メンヘラってネガティブなイメージしか持ってもらえないけど…ゆーにゃみたいな素敵女子でもメンヘラ起こす事あるんだって思ったら勇気もらえた!』とか…そんなコメントが来る事が多々ある。
そんなコメントを見る度に最近は“しっかりメンヘラが出来ている”という安心感だけを覚えていたけれど、今、とても罪悪感に駆られている。
私のメンヘラについては「あなたが勝手に私の事をメンヘラって思い込んだだけですよね?」なんて言える訳もない。
私は明らかにメンヘラを装っている…どこも苦しくないし、どちらかと言えば良好なメンタルでとても冷静に嘘を並べている。
「仕事だから…事務所に強要されて…」などと言い訳する事も出来ない。
私は私の意思で公にメンヘラになった。
嘘で固めている私がただ全てを見せていなかっただけのマナティに幻滅するのは何か違うという感覚はあるけれど、幻滅して攻撃的になる感情を上手く沈める事も出来ない。
このドロリとした攻撃的な感情こそが恐らく素の私の正体だ。
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